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五郎丸ポーズの効果とは? 脳科学で読み解く早大生の五月病撃退法

新年度のにぎやかさが落ち着くこの時期、「やる気が出ない」「体がだるい」「勉強に集中できない」など、心身の不調を感じたり、学生生活に不安を感じる人は少なくありません。早大生が抱えがちな悩みと解決策について、脳神経科学・経営学などのご専門を生かして人材・組織マネジメントや研究マネジメントをする傍らで、本学ビジネススクールで「経営と脳科学」の授業も持つ枝川義邦研究戦略センター教授に伺いました。あの“五郎丸”ポーズの秘密も解き明かします。

枝川義邦(えだがわ・よしくに) 1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。2007年早稲田大学ビジネススクール修了、MBA。同年、早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)認定。1998年名古屋大学環境医学研究所助手、2000年日本大学薬学部助手、2005年早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構講師、助教授、准教授、2009年早稲田大学高等研究所准教授、2012年帝京平成大学薬学部教授・脳機能解析学ユニット長。2014年から早稲田大学研究戦略センター教授。

枝川義邦(えだがわ・よしくに) 1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。2007年早稲田大学ビジネススクール修了、MBA。同年、早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)認定。1998年名古屋大学環境医学研究所助手、2000年日本大学薬学部助手、2005年早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構講師、助教授、准教授、2009年早稲田大学高等研究所准教授、2012年帝京平成大学薬学部教授・脳機能解析学ユニット長。2014年から早稲田大学研究戦略センター教授。

Q.楽しいことをするときは元気なのに、授業などはおっくうです。これって「五月病」?

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五月病は気の持ちようで対処できる

五月病の多くは、医学的には「適応障害」と呼ばれます。趣味や好きなことをしているときはやる気があるのに、やらなければならないことには大きなストレスを感じているのであれば、適応障害の可能性があります。これに対しては、脳の「報酬系神経ネットワーク」を働かせるように意識することで対処できそうです。「報酬系神経ネットワーク」は、欲しいものが手に入るだろうと期待しているときに活性化して脳に快感を与えたり、やる気に満ちた状態をつくります。「欲しいもの」といってもお金などの物理的なものだけではなく、生理的欲求が満たされるときの満足感や、人からの称賛や評価、自分の中での達成感など、あらゆるものを含みます。

新入生を例にとると、本学に入学してうれしい楽しいという人と、中には、なにか思っていたのと違うという人がいると思います。大学や学部を偏差値の序列といった1本の物差しで考えてしまうと、入学後のやる気が希薄になりやすいとも言えます。新入生に限らず在学生も、学生生活への具体的な期待があれば、やる気も高まり自信にもつながります。このバランスが崩れてしまうと不安感が強まり、その場にいるのがつらくなってしまいがちになるわけです。

では、どうすれば良いのでしょうか。例えば、「この分野を学びたいから入学したんだ」といった前向きで具体的な目標を持てれば、今ある環境の中で自分を生かそうとできるはずです。また、このようなやる気が出ないときには、「目標の転化」も有効です。大学に通う目的のひとつは学問を修めることですが、これを抽象的で大きすぎる目標に感じたら、具体的に「期末試験でいい点数を取る」などの目標を立てて大目標につながる目先のハードルを設けるのもよいでしょう。脳が一番「やる気」に満ちるのは、成功確率が50%程度のときという研究結果からすると、頑張ればなんとか跳べるくらいのハードルを設けることが、やる気を引き出し、継続させる秘訣(ひけつ)です。それが難しければ、「毎朝8時の電車で通学する」などと日々のより具体的なタスクを設定してみるのもよいでしょう。小さな目標に対する達成感がやる気を高め、最終目標の達成につながりやすくなります。

A.
「五月病」には「報酬系神経ネットワーク」の仕組みをうまく使おう。
成功確率50%程度の目標を定めよう。
目標達成のためにやるべきことを日々のタスクに細分化しよう。

Q.毎年新歓の時期が終わると、心身共にぐったり疲れてしまいます。どうしたら予防できますか?

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不安や悩みは書き出すと脳がすっきり

サークル活動や趣味など何でもいいですのですが、新しいことに挑戦するのはいいことですね。ただ、新しいことに取り組む際には脳に高い「認知負荷(※)」がかかります。初対面の人との会話や専門用語が並ぶ新しい教材を前にして、「なんか面倒だな」と感じたりするのはこのためで、新しいことに接することの多い春に脳が疲れやすくなる原因の一つです。また、春は臓器の働きが盛んになったりホルモン分泌が変わりやすい時期でもあるので体も疲れやすい季節。こうしたときには無理をせず、よく眠り、入浴などで体を温めると良いでしょう。

何か不安に感じて脳の処理能力からこぼれそうに感じたら、その不安な気持ちを外に出すのも効果的です。脳の記憶・処理容量は限られています。不安に感じていることはずっと記憶にとどめておかずに、メモに書き出したりして、脳の処理能力に「空き」を作ってあげることで、心の疲労感も和らぎ、本来やるべきことへの集中力を高めることもできます。

※認知負荷…脳が外部から入ってきた情報を処理する認知プロセスにかかる負荷のこと。認知にはエネルギーが必要で、認知負荷が高ければそれだけ脳のリソースが多く必要となり、脳に負担が掛かる。

A.
新しいことに挑戦して、脳に刺激を与えよう。
疲れを感じたら、暴飲暴食や睡眠不足を避け、ゆっくりお風呂に入ろう。
悩みや不安はメモに書き出そう。

Q.友人関係がうまくいきません。コミュニケーションが上手になるには?

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コミュニケーションには絵文字も有効

大学は社会の縮図であり、社会に出るためのトレーニングをする場でもあります。早稲田大学は、さまざまな人材が集まる総合大学。「ダイバーシティー(多様性)」という言葉が最近よく使われますが、多様性を受け入れることを学ぶには適した環境です。

多様性と向き合うことは認知負荷の高い状態になることから、大変なことのように感じやすいのですが、相手の価値観を認め、自分の価値観を認めてもらうことがコミュニケーションの基本だと考えれば、日々のささいなことは気にならないのではないでしょうか。相手に興味を持つことや相手のニーズを知ることも大切です。コミュニケーションはキャッチボール。投げた球が返ってこないと成立しません。相手が取りやすい球を投げてあげることも大切です。

このとき、コミュニケーションには言外のメッセージもあることを忘れてはいけません。「メラビアンの法則」(※)によると、話し手から聞き手に伝わる情報について、文字にして内容を伝えることができるような言語情報はわずか7%程度であり、コミュニケーションにとって大切な感情を含めた情報の伝達は、大半が身振りなどの視覚情報や声のトーン、大きさなどの聴覚情報によるとされています。

その意味でもメールやメッセンジャーでのコミュニケーションは感情などを含めた本意を伝えることが難しいのですが、面白いことに、脳は「顔文字」を見ると人間の顔を見たときと似たような反応を示すという研究があるんです。単に文字にした情報だけのコミュニケーションに自分の思いを乗せるためには、顔文字を活用しても良いでしょう。

※メラビアンの法則…米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学者、アルバート・メラビアンが1971年に提唱した概念。

A.
大学は社会の縮図。失敗してもいいからトレーニングするつもりで。
相手に興味を持ち、相手が求めている「球」を投げよう。
言葉だけではなく、表情や声にも配慮して。

Q.友人が授業にあまり出席していないようです。不安を取り除いたり、やる気を引き出すコミュニケーションの取り方について教えてください。

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「その気」を高めるためは成功体験が有効

「やる気」はその対象に価値を見いだして報酬に感じないと、なかなか湧き出てきません。脳の報酬系神経ネットワークがうまく働くような工夫をするとよいので、その人なりのニーズ、すなわち「やる気」のスイッチを見つけるのが第一です。

もう一つ、「やる気(モチベーション)」と「その気(セルフエフィカシー:自己効力感。「自分はできる」と思うこと)」は両輪だということも心にとどめておくとよいでしょう。「やる気はあるのにうまくいかない…」というときは、気持ちや行動が空回りしている可能性があります。そういうときには、友人の「その気」を高めてあげましょう。

「その気」を高めるために一番効くのは、成功体験です。小さなことでもよいので、自力でハードルを越えられたという体験を積み重ねることがよいのです。自身での体験が難しければ、第三者の成功体験でも効果があります。越えられそうな物事を一緒にやり遂げてあげたり、ヒーローものや恋愛成就の映画を見に行ったりするのもいいでしょう。不安でストレスが大きい場合には、前もってその対象についての情報を持つようにすることも有効です。予想通りのことであれば、それがたとえ起きても、あまりストレスに感じずにいられるものですから。

そして、相手のコミュニケーションタイプやソーシャルスタイルに合わせることも大切です。自己主張の強い人・弱い人を縦軸、感情を表に出す人・出さない人を横軸に置くと、人は大きく4タイプに分けられます。このタイプはコミュニケーションの「ツボ」なので、それを見極めることで相手のニーズに沿ったコミュニケーションが取りやすくなります。逆に見極めずに自分の取りやすいコミュニケーションスタイルにこだわっていると、相手の自信をさらに損なわせかねません。重要なのは相手主体に考えて、共感をベースとしたコミュニケーションをとることです。

A.
友人が「その気」を高めるように、寄り添ってあげよう。
友人のコミュニケーションタイプを知り、それに合わせた応対をしよう。

Q.もうすぐテスト期間ですが、勉強に身が入りません。どうすれば集中力が続きますか?

ラグビーW杯南アフリカ戦で、ゴールを狙う五郎丸歩選手(共同)

ラグビーW杯南アフリカ戦で、ゴールを狙う五郎丸歩選手(写真:共同通信社)

ルーティン(習慣)を取り入れてみてはどうでしょう。2015年ラグビーワールドカップ(W杯)イングランド大会で日本代表として活躍した五郎丸歩選手(2008年スポーツ科学部卒業)でも有名になりました。大学受験の勉強などで何かしらの決め事やおまじないなどをしてうまく行った経験がある人なら、大学の勉強にも活用してみるといいと思います。成功体験にひも付いて自分のモードを切り替えるスイッチを持っている人は、さまざまな場面でも集中しやすいものです。

情報をいったんシャットアウトするのもいいですね。脳の一時的な記憶置き場である「ワーキングメモリー」の容量が満杯になると、なかなか新しい勉強に注力できなくなります。10~15秒間くらい目をつむって呼吸を数えるたりすることでもある程度メモリーを解放することができるので、気持ちがすっきりして集中しやすくなるでしょう。

そして、新しいことを学ぶ際には、予習も有効です。予備知識があると、そのときに学ぶ全体の枠組みが見えやすく、講義の具体的な内容に入りやすいのです。きちんと予習をしておけば、授業が復習の場にもなり、知っていることと知らなかったこととの区別もつきやすく、授業中も興味や関心が持続しやすいと言えます。ちなみに暗記ものの勉強は眠る直前にすると、睡眠中に脳で記憶として定着しやすいのでお勧めです。

A.
勉強をするときにも、おまじないのようなルーティンを活用しよう。
10~15秒ほどの「プチ瞑想(めいそう)」で思考をクリアに。
予習をしてから講義に臨むとやる気もアップ。

Q.不規則な生活が続いているからか、授業中につい寝てしまいます。上手な睡眠の取り方は?

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上手に睡眠をコントロールしよう

1日24時間周期には、地球上のあらゆる生物が「サーカディアンリズム」として同調しています。このリズムを変えるには時間がかかるので、例えば、昼夜逆転生活をしている学生がテストだからといって突然朝早く大学に来ても、時差ぼけのような状態になり実力を発揮できないでしょう。脳での時差ぼけの解消には1~2週間ほど必要ですから、日頃から睡眠習慣を整えておくことが重要です。

夜、眠くなる時間帯では脳内で「メラトニン」というホルモンが働いて脳の温度が下がっています。メラトニンは就寝・起床時刻に習慣性のある人では、眠る数時間前から分泌され眠気を感じさせる効果があります。しかし、明るい場所にいたりブルーライトを浴びていると分泌されにくくなるので、スマートフォンやパソコンの画面を寝る直前まで見ていることは、わざと眠くならなくしているようなものです。就寝前は好きな本を読んだり心が穏やかになる音楽を聴いたりすることをお勧めします。考え事は内容によっては脳を興奮させるので、悩み事などは布団の中に持ち込まないほうがいいですね。

また、睡眠は浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)を合わせた90分のサイクルが繰り返されているので、浅い眠りのタイミングで起きると寝覚めが良いでしょう。睡眠のサイクルには個人差があり、一晩の睡眠中に数サイクル回るので、たとえ10分程度の長短であったとしても、起きるまでには数十分の違いになります。90分かっきりの倍数で目覚ましをかけると、人によっては浅い眠りで起きるつもりが、前後のサイクルの深い睡眠に入っていることにもなります。まずは、自分の起きやすいタイミングを知ることが大切です。

ここのときに注意しておきたいのは、睡眠不足が健康を損ねることはよく知られていますが、8時間以上の寝過ぎも同様に良くないということです。睡眠時間は6時間半~7時間半が最も良いと言われていますから、これを目安に自分が起きやすい睡眠時間を見つけて習慣にするといいでしょう。

睡眠についての研究では、「睡眠負債」という言葉があります。借金にどんどん利息が付くと大変なことになるように、睡眠負債も膨らみ過ぎると健康を損ねるなどの危険性があります。睡眠は、貯金、つまり寝だめすることはできません。基本は毎日しっかり眠ることですが、それが難しいならば寝不足が2日続いたら1日はよく眠るなど、こまめに不足分を補うように心掛けましょう。

ところで、昼寝は寝不足の解消に有効なことが知られています。1日10~15分程度の昼寝が脳に最も良いとされています。授業中の居眠りはあまり褒めらませんが、休み時間などを活用して少しでも眠ることが午後の脳の働きや健康によい影響を及ぼすでしょう。

A.
普段から規則正しい就寝・起床を心掛けよう。
90分サイクルを基本に、自分にちょうどいい睡眠時間を見つけよう。
1日10~15分程度の昼寝で、すっきり。

【次回特集予告】6月5日(月)公開「留学特集」

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