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できることから始めてみる「こころのメタボ」退治 ― 人科・竹中晃二教授

復興・復旧時における被災児童被のメンタルヘルスを考えた「こころのABC活動」

人間科学学術院 竹中 晃二(たけなか・こうじ)教授。1975年早稲田大学教育学部卒業。1990年Boston University 大学院博士課程修了。Ed.D.(Boston University)、博士(心理学)九州大学。関西学院大学助教授、岡山大学大学院修士課程助教授、早稲田大学人間科学部助教授を経て1997年4月より現職。著書に『行動変容〜健康行動の開始・継続を促すしかけづくり〜』(健康・体力づくり事業財団)、『日常生活・災害ストレスマネジメント教育―教師とカウンセラーのためのガイドブック』(サンライフ企画)など。

東日本大震災発生から数年後、被災地では、長引く仮設住宅での暮らしや先行きの見えない生活環境の中で、学校において、子どもたちが疲労感や虚無感を示すようになってきました。私たちは、被災によって、多かれ少なかれ心にトラウマ(心的外傷)を抱えた子どもたちに新たなメンタルヘルス問題が表出する前に、予防的なアプローチを行う必要があると考えました。

当時はまだ、メンタルヘルスの「予防」に何が効果的かが示されていない段階でした。そこで『日常生活・災害ストレスマネジメント教育―教師とカウンセラーのためのガイドブック』(サンライフ企画)を刊行して、学校で行えるストレスマネジメント教育を推奨し、続いてメンタルヘルス問題の予防キャンペーン活動として、「こころのABC活動」と名付けたメンタルヘルス・プロモーションを開発しました。

「こころのABC活動」の開発では、カナダで推奨されているポジティブ・メンタルヘルス、また西オーストラリアのカーティン大学の研究者が積極的に普及活動を行っている「Act-Belong-Commit Mentally Healthy WA Campaign」を参考にしました。また、全国約300名の小学校教師を対象に「精神的に安定している児童において、その精神状態に最も貢献する要因や日頃の行動はどのようなものですか?」という調査(早稲田大学応用健康科学研究室、2016)を行い、その結果から、共通する事柄をAct(アクト)、Belong(ビロング)、Challenge(チャレンジ)の3つの推奨活動にまとめ、キャンペーンを実施しました。

「こころのABC活動」の内容は?

A(アクト)は、好きな音楽を聴く、好きな本を読む、カラオケを楽しむ、外出をする、ウォーキングをする、友達と話すなど、気分転換につながる積極的な行為です。好きなことをすると気分が良くなります。これは、それらの行動が心に喜びと与える報酬となるからです。

B(ビロング)は、行事に積極的に参加する、スポーツクラブに加入する、趣味のサークルに参加するなど、社会参画をすることです。社会参画をすると、帰属意識を持てたり、周囲から支えてもらいやすくなります。

C(チャレンジ)は、新しいことにチャレンジする、ボランティア活動をする、ペットの世話をする、困っている友達を助けるなど、世話をする立場になる行為です。人の役に立つことで、自分の存在価値を認識し、それが報酬となります。

「こころのABC活動」では、自分にできそうなABCを、それぞれワークシートに思いつくままに書いて、例えば、1週間の中で何をどれだけ実行できるのか、目標を立てます。1週間たったら、立てた目標を振り返り、自分にとってのABCを把握して、その後、気分が変わりやすい行動を積極的に行うようにします。

成人への応用

「こころのABC活動」は子どもだけにあてはまるものではありません。現代社会はテクノロジー依存、核家族化、過剰労働など、メンタルヘルスを脅かす危険があふれています。うつ病などの精神疾患によって休職に追い込まれる労働者の数は年間20万人という試算(NPO「働く者のメンタルヘルス相談室」)もあります。そうした大人のメンタルヘルス問題に対し、私たちは「こころのABC活動」を大人向けに改良し、新入社員の研修などに活用してもらえるように教材を開発しています。最近では、eラーニング・プログラムを開発して企業にも勧めているところです。

メンタル不調: 3つのシグナル

メンタルヘルスに問題が起きてくると、3つのことができなくなってきます。1つめは、趣味など自分が好きなこと、2つめは家事や炊事など日常生活でいつも行っていること、3つめは、銀行に行って家賃を振り込むとか、日常生活を成り立たせるためにやらなくてはいけないこと。この3つを行うことがしんどくなってきたら、要注意です。逆に言えば、普段から、意識してこれらのことを行うことが大事だと心がけておくことが予防にもつながります。

もう一つ、私は「こころのメタボ」と呼んでいるのですが、「めんどくさい」「ため息が出る」「ボーっとする」、この3つの症状が多く出るようになった場合は要注意です。失恋などをして落ち込んでいるときは、趣味をする気持ちにはならないかもしれません。しかし、あえて気分転換と思って行うことが、メンタル不調を回避する重要な手段となります。また、人の性格というのは、なかなか変えることができないものですが、落ち込むときの自分の癖や行動パターンを客観的に見て把握しておくことは可能です。「僕はすぐに悪く考えてしまう癖がある」というような心の癖は誰にでもあると思うのですが、自分の思考パターンを自覚すれば、対処方法が見えてくると思います。

学生が気を付けておきたいポイント

皆さん、メンタルヘルスについて人ごとだと思っています。しかし、どうもやる気が起きない、最近何となく気持ちが沈んでいて調子が悪い、そのように思ったときには、すでに深みにはまりかけているのです。そこが、メンタルヘルス問題の怖いところです。また、ほとんどの人は体に不調を感じると病院に行きますが、メンタルの不調ではなかなか病院に行きません。休んでいれば治ると思って部屋にこもっていますが、事態はますます悪くなり、学校や会社に行けなくなってしまいます。休んでいれば復帰できるかというと、なかなか復帰できないのが現実です。

メンタル不調は誰にでも起こります。ですから、今は健康でも、例えば友達や恋人とうまくいかなくなったり、就職活動でつまずいたりしたときに、自分もメンタル不調になる可能性があることを理解し、日頃から意識的な行動を習慣づけておく必要があるのです。

私たちは嫌なことがあると、嫌なことばかりが頭に浮かんできて、どんどん落ち込んでいくという悪循環に陥ります。そういうときは少々の無理をしてでも、普段から自分が楽しいと思えることをしてみること、つまりA(アクト)を行うことが大切です。楽しいことに目を向ける時間が長くなると、嫌なことに目を向ける時間が短くなります。

また、「こころのABC活動」を普段から意識して行うことで、楽観的な精神になれると考えています。日常生活に、積極的に「こころのABC活動」を取り入れて、健康な心を維持してください。

【実践編】試験・恋愛・就活 … 日頃のストレスを和らげよう 人科・竹中晃二教授の「こころのABC活動」

竹中研究室Webサイト

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