Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

それぞれの5年。震災復興ボランティアで感じたリアル

2011年3月11日の東日本大震災発生から5年。早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)では、震災直後の2011年4月から現在に至るまで、継続的に学生・教職員ボランティアを派遣してきました。

今年を機に、WAVOC公認プロジェクトは震災復興支援という名目で行う活動にいったん区切りをつけ、地域づくりなど、より幅広く課題に取り組む形で展開することになります。
『早稲田ウィークリー』では、WAVOC公認プロジェクト団体で震災復興支援に携わってきた学生4人に、これまでの活動の軌跡やボランティア活動に携わってきて感じたことなどを、ありのままに語ってもらいました。

左から、RINCの高橋直也さん、気仙沼チームの田中裕子さん、CAPの田母神綾さん、チーム陸前高田の山本太郎さん

【参加者】
社会科学部 2016年3月卒業 高橋 直也(たかはし・なおや)
所属団体:RINC
活動地域:岩手県釜石市箱崎町

大学院先進理工学研究科 修士課程 1年 田中 裕子(たなか・ゆうこ)
所属団体:気仙沼チーム
活動地域:宮城県気仙沼市

政治経済学部 4年 田母神 綾(たもがみ・あや)
所属団体:コミュニティエイズプロジェクト(CAP)
活動地域:福島県いわき市(福島県立双葉高校)

大学院創造理工学研究科 修士課程 2016年3月卒業 山本 太郎(やまもと・たろう)
所属団体:チーム陸前高田
活動地域:岩手県陸前高田市

岩手、宮城、福島。それぞれの復興支援

――まず、皆さんが行ってきたボランティア活動について教えてください。

高橋:「RINC(リンク)」は、岩手県釜石市箱崎集落で活動している団体です。人口200人程度の小さな漁村で、高齢者の方のお宅訪問や傾聴ボランティア(※)を行うほか、住民同士の交流イベントを開催したり、東京で住民の方が作った手芸品を販売するなどの活動をしてきました。最近では海産物の販路拡大や漁業の後継者問題などに取り組む、地域づくりボランティアに焦点を移してきています。
※悩みや寂しさを抱える人の話を聞くことで相手の心のケアをする活動。

2012年8月には仮設住宅の集会場で落語会を開催

山本:僕が所属する「チーム陸前高田」は、陸前高田市の中学・高校生の学習支援と、仮設住宅の交流事業の2つを軸に活動しています。仮設住宅の住民の方が一人でふさぎ込まないよう、コミュニケーションや体を動かすことを目的に作られた農園で、作業のお手伝いや交流支援を行っています。リンゴの収穫などの季節ごとのボランティアもしています。

チーム陸前高田による農作業支援。収穫の喜びはひとしお

田中:「気仙沼チーム」は2011年11月に発足したプロジェクトです。私たちの理念は「気仙沼と東京をつなげる」こと。主な活動として、仮設住宅でのお茶会を月に1回、土・日曜日に毎月開催しています。また、気仙沼市役所でのイベントのお手伝いや、学内でも「気仙沼フェア」と称して、早稲田大学生協で特産品を販売したり、学食で現地の食材を使ったメニューを出したりもしています。

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観光イベントにて。地元の人気キャラクター「ホヤぼーや」も気仙沼チームのメンバーが演じている

田母神:「コミュニティエイズプロジェクト(CAP)」は、福島県立双葉高校の高校生に支援を行う団体です。双葉高校は福島第一原発から約3.5kmと、原発に最も近いところにあった高校で、今はいわき市にサテライト校が設置されています。教育支援の他、震災で心の傷を負った生徒のためのケアも行っています。双葉高校はもともと進学校だったのですが、震災で大学受験ができないという生徒もいて、受験勉強を教えるなどの支援から始まりました。また、家族が東京電力(東電)で働いているという生徒が多く、東電が非難されることで家族が非難されていると感じて傷ついた子や、震災が原因の家庭内不和が起こった子もいます。思春期という繊細な時期につらい思いを誰にも言えず、心の奥にため込んでしまっている。そこで、高校生と一週間の合宿をして、一緒にお風呂に入ったり、枕を投げたり(笑)、修学旅行のように楽しく過ごす中で、悩みや思いを吐き出してもらいます。とはいっても無理に聞き出すのではなく、自身の被災体験も話しながら心の距離を近づけ、もし話してくれるようであれば全力で向き合いました。

センター試験の学習支援を行うCAPのメンバー

震災で感じた無力さが、ボランティアの原動力に

――皆さんは、なぜその活動に参加したのでしょうか?

takahashi3高橋:テレビで海外ボランティアを見て「かっこいいな」と思っていたので、入学してすぐに4月のボランティアフェアに行ってみました。海外ボランティア団体の説明を聞いてみると、1回の参加費が20万円! それは無理だと諦め、RINCのブースに立ち寄ってみたんです。崇高な意識を持っていたわけではなく、ただ単にやってみたいという軽い思いで始めました。2012年8月に初めて箱崎に行きました。当時は街灯も流されたままで、夜外に出ると本当に真っ暗であったことをよく覚えています。箱崎は1本しかないトンネルが地震でふさがり、支援の手が届きにくく復興が遅れた地域でした。実はそのころはボランティア活動をすぐにやめるつもりでした。というのも、がれき撤去などのハードボランティア(※)は成果が分かりやすいのですが、イベント開催というソフトボランティア(※)を初めて経験し、これに何の意味があるんだろうと思ってしまったんです。でも疑問を持ちながらも続けていくと、いつの間にかのめり込んでいました。
※ハードボランティアとは震災被害などに対して労働力の支援を行うこと、ソフトボランティアとは、その地域の教育、経済、福祉などに対して支援すること。

震災から1年後、箱崎の海を臨む風景

震災から1年後、箱崎の海を望む風景

田母神:私は福島県出身で、高校生のときに被災しました。それを機に政治に興味を持ち、政治経済学部に進学してからも、何か故郷のためになるようなことをしたいという思いをいつも持っていました。普通のサークルに入り、福島のことを忘れて生きるのには罪悪感があり、自分は福島に関わらなくてはいけないという使命感に燃えてボランティアフェアに行ったところ、CAPと出合いました。

山本:チーム陸前高田には2012年12月から参加しましたが、震災支援活動には震災直後から行っていました。僕は仙台出身なのですが、震災のときはすでに学部生だったので東京にいました。しばらくは友人と一緒に物資の支援などを行っていたのですが、時がたつにつれてその回数が減ってきて。では支援をどうやって続けていけるかと考えたときに「WAVOC」に思い当たったんです。普段は西早稲田キャンパスにいるので、最初は早稲田キャンパスにあるWAVOCがすごく遠く思えましたが(笑)、とりあえず活動に参加してみました。僕は被災しておらず家族も無事で、知り合いに会うかもしれない仙台に行くことには少し気が引けて、別の地域に。東京で何事もなかったように暮らしているのが嫌だったし、責任感や無力感を感じていて、何かしていないと気が済まなかったんです。

津波に耐えた「奇跡の一本松」は陸前高田のシンボル

田中:私は1年浪人をして国立大学に落ち、不本意ながら早稲田大学に入学したんです(笑)。アルバイトもサークル活動もせず、授業に出て家で課題をこなすだけの毎日で、最初は大学が楽しくなくて。でもせっかく早稲田に入ったので、自分の将来のためになるようなことをしたいと調べていたところ、WAVOCを見つけました。気仙沼で参加無料のがれき拾いボランティアがあり、2012年6月末に初めて参加しました。大学生になって何か大きなことをしてみようと思って初めて踏み出したので、すごくどきどきしたことを思い出します。それをきっかけに気仙沼チームに入ることになりました。

――高橋さんと田母神さんは、ボランティアフェアがきっかけだったんですね。

田母神:そこくらいしかボランティア団体を見つけることができないんですよ。各プロジェクトと直接つながれるのが、ボランティアフェアなんです。

高橋:早大生でもWAVOCに出合う機会はとても限られていると思います。

――ボランティアに必要な交通費や食費は自己負担ですよね。

田母神:福島は比較的近いので、岩手などの方が負担が大きいと思います。

田中:気仙沼チームは企業から助成金をいただいていて、1人1回の活動につき、2,000円の補助が出ています。現地へは毎回夜行バスで行っています。

高橋:参加費補助が出る団体は多くありますね。自己負担額は、ボランティアフェアでメンバーに直接確認すると安心です。

「取りあえず被災地へ」そこからのスタートもOK

――これまでの活動で大変だったことは?

高橋:RINCはメンバーがとても少ないんです。震災から年月がたつにつれて、復興支援活動という名目だと人が集まらなくなる。「いまだに復興ボランティアをしているんだ」と見られることも。最近RINCでは、「地域づくり」という方向にかじを切り始めています。

田中:地域づくりとすると、その地域に思い入れのある人しか続かないのでは?

高橋:そうですね。小さな集落での活動ということもあり、メンバー集めには苦心しています。

田母神:双葉高校は「ふたば未来学園」という新しい学校ができるのに伴い、2017年3月で休校となります。そういったこともあり、2011年開始時と比べるとメンバーの数はどんどん減ってきました。傾聴ボランティアは成果が見えにくいからでしょうか。また、原発という複雑な問題があるため、踏み出しにくいのかもしれません。震災に対して深く考えてしまう人より、「取りあえず被災地に行ってみたい」という気軽なノリの人の方が興味を持ってくれますね。

――ボランティア活動を通して、学んだことはありますか?

高橋:現地の方と交流する中で、「被災地」や「被災者」という言葉でくくることはできないと思いました。メディアでは、箱崎は住民が一致団結して頑張った町などと取り上げられていましたが、その中で生活をしている人がいて、それぞれ違う考えを持っているために軋轢(あつれき)やさまざまな事情があることを知りました。また、僕はボランティアとしてお話を伺うなどをしてきただけですが、「これからも懲りずに通い続けてね」と住民の方に言っていただいたんです。高齢者が多い集落に若い学生が定期的に来ることを喜んでくださる方がいて、「これまでの4年間は意味のあることだったんだ。学生でもできることはあるんだ!」と思いました。

田母神:私は、高校生のちょっとした言葉一つ一つに社会問題が透けて見えたんです。例えば、「肉が食べたい」とぽつりと言った子は、避難先で遠慮したために自分の食べたいものが食べられなかった。高校生は語彙(ごい)が多くなくて簡単な言葉しか言わないのですが、彼らなりに表現したいことがある。個人の発言と社会を結びつけて考えることができるようになったと思います。政治は、私たちの生活にミクロレベルで浸透しているもの。高校生の発言一つにも影響を与えているものなのだと思いました。

校庭で話し込む高校生とCAPのメンバー

山本:僕はチームで活動することの大切さを学びました。当初は、東北に熱い思いを持っている人だけがボランティアをすればいいと思っていたんです。でも今は、いろいろな人がそれぞれの動機でボランティアを行っているんだということを知り、より広い視野を持てるようになったと思いますね。

田中:確かにボランティアは成果が見えにくい。でも、現地の方が笑顔になってくれたり、「また来てね」と言ってくれたり、そういう小さな出来事で、自分は役に立てているんだと感じられるようになりました。

マスメディアとは違う視点で被災地の声を発信

――これまでに活動で印象に残っているエピソードはありますか?

高橋:田中さんが言っていたとおり、現地の方の小さな一言に力をいただいています。箱崎に4年間通って一番うれしかったことは、最初は僕たちのことを「ボランティアさん」と呼んでいた現地の方が、次に「早稲田さん」、次に「RINC」、最終的に「直也」と個人の名前を覚えてくれたことです。ささやかなことかもしれませんが、とてもやりがいを感じました。

tamogami2田母神:ある高校生が、合宿中にタブレットPCで映画を見ていたんです。「何を見ているの?」と話し掛けてみると、映画の話から次第に、お父さんが東電に勤めていることで苦しんでいて、映画を見ている間だけは現実を忘れられて楽になるという話になりました。高校生は口べたな子が多く、自分から発信することは少ないけれど、誰かに聞いてもらえるなら話したいというジレンマを抱えているんです。マスメディアで切り取られる被災地の声とはまた違う、自分の思いを伝える言葉を知らない高校生たちの苦しみや声を誰かが発信しなくてはいけないと感じ、映像を制作しました。2013年には、私たちの映像作品『だから私は福島に行く』が日本財団学生ボランティアセンター(Gakuvo)主催の「PR力コンテスト」で審査委員賞をいただきました。

山本:稲門祭(早稲田大学卒業生に向けたイベント)で現地の方と陸前高田の野菜を販売したのですが、例えば学生がニンジンを1本買うと、現地の方が「一人暮らしなの? じゃあこれ、カレーセット」と、他の野菜もおまけにどんどん付けてしまう。売り上げを集計したら予定の半分しかなかった、ということがありました(笑)。陸前高田の方々の優しさを知りました。

稲門祭で現地の新鮮な農産物を販売したところ、あっという間に完売

田中:2015年3月11日に、東北の新聞社3社が合同で作った新聞を渋谷で配布したんです。大勢の人が行き交う渋谷で、気仙沼を大きな声でアピールして。東京出身の私が、それまで全く縁がなかった土地をまるでふるさとのように感じられることが、本当にうれしいと思いました。また、気仙沼のお祭りに早稲田チームで出場した際、「早稲田! 早稲田!」とたくさんの方に声を掛けていただきました。そういうご縁がとてもありがたいですね。今年から復興支援という形ではなくなりますが、これからも気仙沼と早稲田の関係がずっと続くといいなと思います。

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学内で行った「気仙沼フェア」でも大声でアピール

人ごとが“自分ごと”に。ボランティアの意味とは

――皆さんにとって、ボランティアとは何ですか?

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高橋:WAVOCでは、各団体が社会の課題解決に向けて活動をしています。世の中にはさまざまな課題があり、困っている人がいて、そのために活動している人がいる。卒業後も社会の課題解決に取り組める仕事をしたくて、それが就職活動の軸となりました。

田中:私もそれはすごく分かります。私にとって東北はかけ離れた存在でしたが、ボランティアに一歩踏み出してみると、さまざまな課題が「自分ごと」になっていく。社会の問題に目を向ける意欲につながりました。

田母神:所属している政治サークルでは、例えば「防衛の観点から見ると、沖縄には基地があるべき」という考え方をする人もいます。でもボランティアを通じて当事者のことを考えるようになった自分は、「そうは言っても、現地の人にとってその土地はとても大切で失いたくない場所なのだ」という視点も持っています。その視点を得られたのはボランティア活動に携わってきたからこそだと思います。

yamamoto2山本:僕は理系だからか、物事をまず論理的に考えるところがありました。でもボランティア活動のときには、「役に立ちたい」「この人に笑顔になってほしい」など感情的に行動している。そういう思いを忘れさせないでいてくれる場がボランティアかもしれません。また、WAVOCでは、学年やキャンパスを越えた交流ができたのがうれしいです。西早稲田キャンパスの友人には「女の子の友達が多くていいね」とよくうらやましがられていたのですが(笑)、WAVOCは、いろいろな人と出会わせてくれて、視野を百倍くらい広げてくれて、早稲田を好きにさせてくれた場所ですね。

――ボランティア活動を行うことを躊躇(ちゅうちょ)している学生もいると思います。どのように一歩を踏み出せばいいでしょうか?

『箱崎半島から見えた未来:震災ボランティアの5年間』早稲田大学学生ボランティア RINC編(早稲田大学出版部)

高橋:先日、RINCで『箱崎半島から見えた未来 震災ボランティアの5年間』を出版しました。企画・執筆も自分たちで行った本で5年間の悩みや思いが詰まっていて、読むとボランティアに対する捉え方が変わるかもしれません。また、クラウドファンディングを行っている団体もあるので、そういう形での支援活動もいいのではないでしょうか。

田母神:「体力的にやっていけるかな」「金銭面は大丈夫かな」など、不安なこともたくさんあるとは思いますが、みんなで助け合える環境が整っていますよね。

山本:そう。勇気を持って始めてみれば、先輩が全力で受け止めてくれますよ。でも一歩踏み出すのも大変なこと。だからこそ、まずはボランティアフェアに行って実際に話を聞くのがいいですね。

田母神:不安に感じていること以上に、得るものは多いです!

田中:私もボランティア活動のおかげで、たくさんのすてきな友人に恵まれて、多くのことを学びました。無理にとは言いませんが、せっかくならやってみたらいいと思います。

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「ボランティアに挑戦してみたい」「早稲田ではどんな活動ができるんだろう」と思った人は…「春のボランティアフェア」へ!

春のボランティアフェア「一緒にやろうよ、ボランティア」
日時:5月20日(金)12:00~17:30
会場:井深大記念ホール

ボランティアフェアでは各プロジェクトがブースを開設。詳しい話を聞くことができます

ボランティアフェアでは各プロジェクトがブースを開設。活動中のメンバーから話が聞けます

この特集で取り上げた震災復興支援ボランティアから、東南アジアでの海外ボランティアまで、26のプロジェクトが大学公認で行われています。早稲田のボランティア活動の拠点、平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)が開催するこのフェアでは、WAVOC公認学生プロジェクトがブースを開設し、ステージではプレゼンテーションコンテスト、ロビーではポスターを掲示します。新たな機会や成長を求めている人も、ちょっと時間が空いた人もぜひ参加してください。

<次号特集予告>4月25日(月)公開「学食メニューの作り方--大隈ガーデンハウスの裏側に潜入」

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