研修の引率で長野市の信里(のぶさと)という地区を訪れた。かつて存在した「信里村」にあたるところで、信玄と謙信が激闘を重ねた川中島の西方、茶臼山の南麓から西北にかけて続く里山のなかに集落が点在している。
地区を通る国道沿いにはコンビニエンスストアなどがあり、車で二十分も走れば市街地まで出られる距離だが、この地域でも過疎化と高齢化が進んでいる。傍目(はため)には自然豊かな暮らしと便利な現代生活が両立できそうな場所に見えるし、実際にそこに暮らす方はそうした生活を送っている。しかし、若者は成長して家庭を持つと、より利便性の高い平坦な市街地に家を持ち、この地区を出ていってしまうのだという。
都市への人口集中という問題は、いまさら始まった話ではない。近代化の過程で都市は地方の人材を吸収することで成長を維持してきた。だが、地方都市の中心部に近接する後背地にまで過疎化と高齢化の波が及んでいることに、改めて驚かされた。そこに住む方の口から直接「限界集落」という言葉を聞くと、事態の深刻さをひしひしと感じる。
「若いあなたがたが未来を担っていくのだから」とは別れのときに贈られた言葉だが、若い諸君が担う未来はただ明るいだけでなく、とても重い課題を背負った未来である。それでも、お年をめしても元気に活動される姿を見ると弱気なことなど言っていられないという思いになる。若い人にこうした地域があることを知ってもらいたい、そしてこの場所のことをいつか思い出してほしいと希望を語ってくださる声には、若者に負けない力がこもっていた。
(B)
第1036回