30年も前のことだが、今でも忘れられない光景がある。大学3年の夏、大学の研修旅行で、当時東西に分断されていたベルリンを訪問した時のことだ。東ベルリンで教会付属の幼稚園に行った。「教会の学校や幼稚園に子供を通わせるのはどういう人たちですか」。私たちの質問に対して返ってきた答えは「勇気のある人たち」だった。
そこでは保育士になるための教育を受けている同年代の女子学生にも会った。親や家族が党員ではないため、大学へ進学できなかったという。東ベルリンの街を散策中、彼女たちがブランデンブルク門で、警備兵に向かって大声で言った。「こんな壁があるのはおかしい!」。一緒にいた私たちのほうが心配になったぐらいだった。「ベルリンの壁」が崩壊する2年前のことだ。
どちらも大きな出来事ではない。でも、ふり返るとそれは大きな歴史の流れにつながっている。あの日、東ベルリンで見て、感じたことは、私には何にも代えがたい貴重な経験だ。けれど、あの時の自分にもっと多くの知識があれば、さらに多くを理解し、感じることができただろう。
もうすぐ長い夏休み。サークルとアルバイトで忙しい夏を過ごす学生も多いだろう。もちろんそれも学生生活の良い思い出だ。ただ、今この日本で、そして世界で何が起きているのか、それはどんな流れの中にあり、自分たちはどこにいるのか。日常の一つ一つが先につながっている。時間に余裕のできる夏休みこそ、いろいろなものを読み、自分の目で見て、聞いて、肌で感じて、そしてじっくり考える機会にしてほしいと強く思う。
(MH)
第1001回