「今こそ、挑戦の時。」-今年の早稲田祭のテーマである。若者の内向き志向が指摘されている昨今、敢(あ)えて「挑戦」を発信する早大生を頼もしく思う。
昨年から京都市内で銭湯を経営する、26歳の若者がいる。若者は大学時代に銭湯でアルバイトをしていた。卒業後アパレル業界へ就職したが、働いていた銭湯が廃業すると聞き、地域コミュニティーを支える銭湯が失われる危機を救おうと、会社を辞めてその銭湯の経営を引き継いだのである。しかし、いざ経営を始めてみると、老朽化した銭湯は大規模な改修が必要だった。そして、1日平均60人前後で一向に増えない利用客や深刻な漏水に悩まされ続けた。
だが、若者は諦めなかった。若者は親から借りた500万を元手に銭湯の大改修を行い、自らの給与を月5万と決め、薪沸かしで燃料費を節約し、孤軍奮闘を続けた。そのうち、徐々に状況が変わり始め、閉店後の風呂掃除をボランティアで手伝う若者仲間が集うようになった。近隣の銭湯経営者に指導を乞い、漏水箇所も修繕できた。日々の番台での接客の傍ら、Twitter などのSNSで情報発信し、風呂場での音楽ライブを企画するなどの工夫と努力を重ね、この夏、遂(つい)に利用客は1日平均100人の大台に乗ったのである。廃業しかけた銭湯は蘇(よみがえ)り、今、これまでにない存在感を放ち始めている。
満たされた時代を生きる多くの学生にとって、挑戦は「する必要がないもの」かもしれない。しかし、挑戦しなければ次の社会や文化は生まれない。かけがえのない学生時代をぜひ、自身の「挑戦の時」にしてほしいと思う。
(RH)
第979回