「セレンディピティ(serendipity)」という語がある。イギリス・ゴシック小説の嚆矢(こうし)『オトラント城』の作者H・ウォルポールの造語で、「掘り出し上手」という意味である。もともと彼の書いた寓話(ぐうわ)の題名にちなむ言葉であり予期せぬ掘り出し物を見つけ出す才能のことなのだが、彼自身にも当て嵌(は)まるところに妙味がある。初代首相とされる父をもつこの男、とにかく何にでも何処(どこ)にでも首を突っ込んでは珍品、奇貨の類いを見つけ出し、膨大なコレクションを築き広範な人脈も手に入れた。
炯眼(けいがん)ゆえに痛烈な皮肉を込めた評言を吐露するため、疎んじられること再三ならず。やがて「偉大なる傍観者」などという尊称(?)まで頂戴したのだが、その言動の記録として残された浩瀚(こうかん)な書簡集は18世紀イギリス社会を映す無価の鏡となり、現在も大英図書館読書室の参考資料書棚に収められ研究の用に供されている。この書簡集を繙(ひもと)いてみれば芋蔓(づる)式に次から次へと予期せぬ事実があらわれ出て、まるで自分が掘り出し上手になったかのよう。
同様の体験は、別の書棚にあるイギリス最初の総合月刊誌『ジェントルマンズ・マガジン』でも味わうことができる。この雑誌、あたかも情報のオンパレードといった趣があり、それこそ日々の気温、物価、風俗から、国内外のニュース、国会議事録、書評、文芸作品にいたるまで、およそありとあらゆる史料、史実を満載している。学生諸君、早稲田大学中央図書館ではこの雑誌のバックナンバーも収蔵している。掘り出し上手になる機を逃す手はない。
(KN)
第977回