
『大隈重信演説談話集』(早稲田大学編集、岩波文庫)
2016年3月、『大隈重信演説談話集』が出版された。大隈重信の演説や談話はこれまでにも出版されているが、年月を経ているものが多く、入手しにくい。今回、岩波文庫版という身近な形で出版されたのは大変ありがたいことである。ヨーロッパ、アメリカ、アジアその他の地域で大学が誕生した経緯、背景は様々だが、近代日本の私立大学の場合、創立者の理念、精神が、時代を超えて今日まで脈々と語り継がれ、受け継がれ、それぞれの個性になっていることが多い。1882年10月21日、東京専門学校が開校、この日が本学の創立記念日になっている。本書出版後、初めての創立記念日を迎えるのを機に、本書をじっくりと読んでみるというのはいかがだろうか。
本人が発した言葉を直接、丁寧に読み、本人の言葉のみが持つ力を感じ取ってみよう。本書は「Ⅰ.人生を語る・学問を語る」、「Ⅱ.政治を語る・世界を語る」、「Ⅲ.東西文明の調和-文明を論ず」、「Ⅳ.理想を掲げて―世界平和のために」の4部構成になっている。すべてが興味深い内容だが、大学との関係でいうと、「『学問の独立』―早稲田の学風」において語られている部分がまず注目される。創立にあたっていかなる理想を込めたのか、「学問の独立」とはどのような意味なのか。創立15周年の得業(卒業)証書授与式での演説は多くのことを語りかける。
早稲田大学に改称したのは創立20周年に当たる1902年である。本書のページをめくっていると、早稲田大学校歌が自然と耳にこだましてくる。早稲田大学校歌は大隈重信の理念、精神を見事に体現していると改めて思う。本書を読むことによって、早稲田大学校歌に対する理解もより深まるにちがいない。
学生部長 政治経済学術院教授 齊藤 泰治(さいとう・たいじ)