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宇宙飛行士試験で学んだ「競争より協調」 法学博士目指す医師 江澤佐知子【2018年度入学記念号】

枠にとらわれなければ、おのずと道が開ける

医学博士/産婦人科専門医/社会起業家 江澤 佐知子(えざわ・さちこ)

 

2009年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙飛行士選抜試験に挑み、女性唯一のファイナリストとなった産婦人科医の江澤佐知子さん。その後、医師としての本業を続けながら、会社やNPO法人を設立し、2012年には早稲田大学法学部に学士入学。優秀な成績を収めて卒業し、現在は同大学院法学研究科博士後期課程でさらに学びを深めている。クリニックの院長、会社経営者といった華々しい肩書きがありながら、さらなるステップアップを目指してひた走る江澤さん。そのバイタリティーは、幼いころから尽きることのない好奇心と、たゆまぬ努力によって支えられていた。

「宇宙に行ってみたい! 」 夢は現実の延長にあると気づいた恩師の一言

自身の父と同じ産婦人科医として多忙な生活を送っていた江澤さんは、あるとき日本で10年ぶりに宇宙飛行士選抜試験が行われることを知った。子どものころから漠然と抱いていた夢が、かなえられるかもしれない。江澤さんの宇宙への思いを決定付けたのは、勤務していた慶應義塾大学医学部産婦人科学教室での一コマだった。

「指導いただいていた向井万起男先生が、『妻(日本人女性初の宇宙飛行士、向井千秋さん)が宇宙から帰ってきて、ペンを落としては重力を楽しんでいるんだよ』とおっしゃったんです。それを聞いて、電流が走るような衝撃を受けました。宇宙に行くことは、実は現実の延長にあるんだなって」

もともと臨床医という立場にとどまらず、ビジネススクールへ通ったり、船舶や飛行機の免許を取ったりと、好奇心の赴くままにフィールドを広げていた江澤さんが、次の挑戦先として宇宙を選んだのは自然なことだった。

「宇宙は幼少時からの憧れの地です。そして、全ては“知らないところへ行ってみたい”という単純な動機なんです」とほほえむ江澤さんだが、見事難関試験を突破。国内963名の応募者から絞り込まれた最終候補者10名に選ばれた。

宇宙飛行士選抜試験の様子(本人提供)

残念ながら、宇宙飛行士になるという夢にはあと一歩届かなかったものの、1年間におよんだ選抜試験を経て、大きな学びを得たと語る。

「競争より協調がいかに大切かということを学びました。自分さえ良ければいいのではなく、自分の役割を踏まえて他人と協調することで、より良い結果が生まれる。それは医師としても、一個人としても、大切な経験となりました」

無駄な努力は絶対にない。自分の可能性を信じて

大学院に通いながら、産婦人科医として臨床に携わる(本人提供)

江澤さんは立ち止まることなく、次のステップへと歩み出す。

「海外では普通に使用されている薬が、日本では承認されていないために使うことができない。そうしている間にも現場では患者さんが亡くなっていく。臨床医として、また科学者として、そのジレンマを解消したくて、私たちの生活の根幹を支えている法律、特に医療規制についてきちんと学びたいという思いが募っていきました」

2012年、早稲田大学法学部に学士入学。38歳にして2度目の大学生活が始まった。なぜ早稲田大学へ? という問いには、こう答えてくれた。

「尊敬する父が早稲田の大ファンだったので、私も知らず知らずのうちに早稲田びいきになっていました。父は宇宙飛行士試験の後に亡くなってしまいましたが、きっと天国から後押ししてくれたんだと思います」

お世話になった甲斐克則法学学術院教授と(本人提供)

医師と学生、二足のわらじを履いた生活は、予想以上にハードなものだった。授業を目一杯詰め込んでいたこともあり、「毛穴から脳みそが出るかと思った」ほどに試験が大変だったと振り返る。しかし、同級生や留学生たちの助けもあって必要単位を取得。所属ゼミの甲斐克則法学学術院教授のもとで執筆した卒業論文『臨床研究と臨床応用の規律 医学と医事刑法の側面から』は、早稲田大学法学会学術賞を受賞した。

その後、個別出願資格審査を経て大学院博士後期課程の受験資格を得た江澤さん。双子の男の子の出産といううれしい出来事を経て、2017年、念願の博士後期課程へ進学した。現在は、産婦人科医としての専門分野である、生殖医療に関する法律整備について研究を進めている。仕事、学業、家庭生活と、次々に挑戦を続ける江澤さんのモチベーションは、どこから来ているのだろうか。

「自分を生きる、今を生きる」をテーマに、ラジオNIKKEI『大人のラヂオ』 に出演。進行・聞き手の社会病理学者・阿部憲仁さんと(本人提供)

「これまでスムーズに進んできたように見えるかもしれませんが、決して順風満帆だったわけではありません。何かを達成するために努力しているときは、苦しさも伴います。ただ、無駄な努力というのは絶対にないし、失敗も人生のこやし。目の前のやるべきことを一つ一つこなしていくことが、次のステップにつながっていくんです。私の行動が誰かにいい影響を与えたり、笑顔にしたりすることができれば、生きていて良かったと思えますね」

新たな挑戦のたびに圧倒的な努力で結果を出してきた江澤さんだからこそ、学生には「枠にとらわれないで」とアドバイスを送る。

「固定観念で、医師になったら法律家にはなれないとか、学校の先生になったら起業家への道を諦めるなど、そういった枠に自分自身を押し込めず、何にでも興味を持って前進することを恐れなければ、おのずと道が開けてくると思います。宇宙が無限の可能性に満ちているように、自分自身にも限りない可能性があると信じてほしいです」

取材・文=小堀芙由子
撮影=石垣星児

【プロフィール】

東京都大島町出身。医学博士(慶應義塾大学)。産婦人科医師として臨床に携わる一方で、サプリメント会社、化粧品会社、電子母子手帳運営会社、医療情報啓蒙のためのNPO法人の代表も務める。2009年にはJAXAの宇宙飛行士選抜試験に挑戦。日本人女性唯一のファイナリストとなる。2012年、早稲田大学法学部に学士入学。医事刑法や最先端医療に必要な法制度についての研究を重ね、2014年卒業。卒業論文「臨床研究と臨床応用の規律 医学と医事刑法の側面から」は、早稲田大学法学会学術賞を受賞。2017年、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程に進学。南流山レディスクリニック顧問、新松戸レディスクリニック院長。スコットランド人の夫と、3歳の双子の男の子との4人暮らし。

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