Waseda Weekly早稲田ウィークリー

キャリアコンパス

ネタの貯金が話題作を生む NHKディレクター 神原一光

喜怒哀楽感情のメーターが振り切れる経験をしてほしい

日本放送協会(NHK)大型企画開発センター ディレクター
神原 一光(かんばら・いっこう)

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NHKスペシャル『AIに聞いてみた どうすんのよ⁉︎ニッポン』『おやすみ日本 眠いいね! 』『オドモTV』など、話題作を手掛け続ける日本放送協会(以下、NHK)ディレクターの神原一光さん。今、テレビ業界で注目を集める制作者の一人だ。実は、早稲田大学時代はテニスプレーヤーとして注目を集め、実業団からも声が掛かったほどの選手だった神原さん。希代のディレクターはどんな学生時代を過ごし、そしてどんな選択をしてテレビの道へ進んだのだろうか。

大きく飛躍するために、二つの軸足を持つ

▲170831_047「ウィンブルドンのセンターコートに立ちたい」……そんな夢を抱き、14歳以下、16歳以下のジュニア日本代表にも選ばれる選手だった神原一光さん。早稲田大学入学後も庭球部で週6日練習に励み、3年時には個人戦で関東学生を単複制覇、4年時には団体戦で大学日本一に輝くなど、確かな実績を残した。その一方で、「テニスだけの人間にはなりたくない」という信念も、入学当初からあったという。

「僕が入学した1998年は、ちょうどサッカー日本代表がフランスワールドカップに初出場し、エースとして中田英寿さんが活躍し始めた時期です。その中田さんが注目されたのは、トッププレーヤーでありながら『サッカーだけの人間にはなりたくない』と、それまでのアスリートでは思いつかなかった考えも大きな要因でした。僕もその影響を強く受けたんだと思います」

そこで神原さんがしたのは、真面目に授業を受けることだった。部活だけでは出会えない、全国各地から集まる多様な学生と触れ合いたいという思い以外に、もう一つ理由があった。

「単純に授業が好きだったのもありますが、カッコつけた言い方をすると、別の筋肉を鍛えたかったんです。テニスの練習は、ある意味いつも同じことの繰り返し。それだけじゃ飽きてしまうし、何か外からの刺激があった方がいい。大きく飛躍するためには、軸足を二つ持つことが大事なはず。だから、授業も1限から真面目に受けていました」

左:スポーツ応援プロジェクト『WasedaWillWin』にて箱根駅伝の取材(右が神原さん)、中央:団体戦で日本一を勝ち取った同期と(左から2番目が神原さん)、右:テニスでの快挙を伝える『早稲田スポーツ新聞』2000年7月4日号

「テニスとは違う軸足」として学生後半に熱中したのが、スポーツ応援プロジェクト『WasedaWillWin』の立ち上げだった。きっかけは、自分がいくら庭球部で頑張っても、『早稲田スポーツ新聞』(公認サークル「早稲田スポーツ新聞会」発行)で取り上げられる競技は、野球・ラグビー・大学駅伝といった大学メジャースポーツばかりという思いからだった。

「紙面が限られているという事情は分かりますが、悔しいじゃないですか。そのことを『早稲田スポーツ新聞』の記者に直接言ったところ、せっかく取材しても取り上げられないネタは他にもたくさんあると…。じゃあ、自分たちでメディアを立ち上げればいいじゃないか、と始めたのが『WasedaWillWin』です。当初、庭球部OBの方からは『神原はあんなことやっていてテニスは大丈夫か』と心配されたりもしたようです。でも、選手がプレーして、そのことを語って、またプレーする…これを繰り返すことによって内省になり、それは次の練習や試合に生かされるんです。実際、他の部の選手にも『それ、面白いね』と理解してくれる人は多かったですね」

選手が自ら発信することで早稲田スポーツを盛り上げたい…そんなコンセプトで立ち上げた『WasedaWillWin』は、選手、読者の双方から支持を集めて人気コンテンツに。また、「スポーツの教壇から」というコーナーを設けて教授にも取材を試みるなど、今の仕事につながる活動に熱中した神原さん。いつしか企画すること、取材をすることの楽しさに気付き、卒業後の進路に選んだのがNHKだった。

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大事なのはちょっとした違和感に気付けること

仕事風景NHKスペシャル②

NHKスペシャルのスタジオにて

「ウィンブルドンの中継をしているから」という理由で応募し、見事NHKへの入局を果たした神原さん。だが、当初は挫折の連続だったという。

「取材をしたことがあるといっても、それはやはり学生レベル。いくら企画を出しても一向に通らない。そもそもの“てにをは”が分かっていなかったんですね。テニスを4年間頑張って、それなりに自信も持っていたはずですが、その自信をNHKの中でうまく置き換えることができませんでした」

悩んだ神原さんは、上司に「僕は同期のディレクターの中でランキングは何番ですか? 」と聞いてしまい、その質問自体をたしなめられたという。

「お前、相当思い詰めているなと言われました(笑)。テニスのようにランキングなんてない世界だし、『これが正しい』『答えは一つ』ではなく、答えが千差万別あるのがメディアの世界。だから、ランキングなんか付けられるわけないだろう!と。まあ、そう言われて、余計に悩んだりもしたんですけどね(笑)」

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仕事での必需品。左からNHKの手帳、スマホ、その下にあるのがネタ帳。ここには日々思いついたことがびっしりと書かれている

その悩みを突破するため、神原さんが実践したのは、自分が好きな番組を全て文字起こしすること。そして、出す宛てなど無くても企画を考え続けることだった。

「文字起こしをすると、どんな場面で、どんなコメントで人が感動するのかを可視化することができました。これがディレクターとしての自信になったと思います。そして、地方局時代に書きためた企画を、東京に異動したときに片っ端から提案し続けました。要は、どこで貯金をしておくかが大事なんです。貯金を作っておかないと、目の前のことだけに一生懸命になってしまいますから。僕は日々、気になったことをネタ帳にメモしていますが、今ではもう30冊分くらいたまりました。スマホのメモ帳機能では駄目なんです。だって読み返さないですよね!?(笑)」

『会社にいやがれ!』/神原一光/ディスカヴァー・トゥエンティワン

『会社にいやがれ!』/神原一光/ディスカヴァー・トゥエンティワン 会社の仕事では、達成感は得られないと思っている人へ。会社、そして社会で輝く方法を、NHK で働く現役サラリーマン・神原さんが説く1冊

こうして日々の気付きを蓄積し、自信を深め、数多くの番組を手掛けてきた神原さん。早大生にも自信を持つこと、そしてその自信をうまく置き換えることを伝えたいという。

「就職活動の際、『自分はこんなに一生懸命にやってきました。だから入りたいです』となってないでしょうか? 会社からすれば『いやいや、君がテニスを頑張ったことは我が社の何に役立つの? 』となるのは当然です。大事なのは、主語を置き換えること。頑張ってきたことから何を抽出し、それが企業の何と合致するのか…。皆さん、いい活動をたくさんしているはずなので、その活動から何を学んでいるのかをメモに書き出してみることをオススメします」

そしてもう一つ。個性的であることや、どれだけ人と違うことをしたかよりも、人とちょっとだけ違う点を見つけることが大事、と神原さんは続けた。

「組織って、“ちょっとした違和感”を大事にしています。その気付きが、次の企画や行動へのヒントになるからです。それは、改札機はなぜ右側にあるんだろうとか、本当にささいなことでいいんです。ヒッチハイクで日本一周したり、変わったアルバイトをしたりする必要なんてありません(笑)。その代わり、どんなことでもいいので、喜怒哀楽の四つの感情メーターが振り切れる経験をしてみてください。全力で泣いたことがあるか? って言うと体育会っぽいですけど、感情が揺れ動いた経験があると、それは後々きっと自分の貯金になるはずですから」

取材・文=オグマナオト
撮影=石垣星児

 

 

画像提供 NHK 神原さんが制作する大型企画、NHKスペシャルの新シリーズは、日本社会のさまざまな問題を、AI(人工知能)の分析から導き出す『AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン』

神原さんが制作する大型企画、NHKスペシャルの新シリーズは、日本社会のさまざまな問題の解決策を、AI(人工知能)の分析から導き出す『AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン』(画像提供 NHK)

 

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【プロフィール】

神原 一光(かんばら・いっこう)
1980年、東京都出身。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業後、2002年に日本放送協会(NHK)へ入局。静岡局、青少年・教育番組部を経て、大型企画開発センターディレクター。これまでの主な担当番組に『トップランナー』『大!天才てれびくん』『週刊ニュース深読み』『しあわせニュース』など多数。2010年、2011年に制作したピアニスト・辻井伸行さんのドキュメンタリー番組は、初の著書として刊行され、文庫化にも。現在、2020年まで続くNHKスペシャルの大型シリーズ『AIに聞いてみた どうすんのよ⁉︎ ニッポン』を担当。(公財)日本テニス協会の普及プロジェクト委員や、大企業の若手有志団体「One JAPAN」の幹事も務めている。庭球部OB。在学中は関東学生単複2冠、大学王座日本一など数々の功績を残し、小野梓記念スポーツ賞受賞。

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