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芥川賞から1年 又吉直樹著『火花』生みの親は早稲田出身だった ― 文藝春秋編集者 浅井茉莉子

「気になったらすぐ」の行動力が結んだ縁

株式会社文藝春秋
浅井 茉莉子(あさい・まりこ)


累計発行部数250万部を超え、2015年の出版界で最大のヒット作となった小説『火花』。お笑いコンビ「ピース」又吉直樹さん初の中編小説であり、芥川賞を受賞したことでも話題を集めた。その担当編集者であり、「作家・又吉直樹」の生みの親として注目されているのが、文藝春秋の浅井茉莉子さんだ。

編集者として忙しい毎日を過ごす浅井さん。その原動力を探ると、早稲田時代から変わらない「人と出会うこと」というキーワードがあった。

いろんな学部・タイプの人と出会えることが早稲田の醍醐味

「小さい頃に読んでいたのは、とにかく漫画ばっかり。でも、小学校高学年で星新一作品に出会って、一気に本を読み始めました。今ここじゃない場所に行ける、という感覚がすごく面白いなと思ったんです」。

読書に目覚めたことで世界観が広がったという浅井さん。中学生の時の家庭教師が早稲田大学出身だった縁もあって、早稲田大学第一文学部に進学した。

「大学時代も一日中本を読んでいるか、映画を見ているかの毎日。あまり褒められた学生ではなかったですね(笑)。でも、大学の図書館は大好きな場所で、いつも制限数ぎりぎりまで本を借りていました」。

本や映画に夢中になる以外の時間は、旅をしていたことが大学時代の良い思い出と語る。

「気になる場所や気になることがあるとすぐに行動に移すタイプなので、思い立って一人旅をすることは結構ありましたね。あとは、学部横断で履修できる『テーマカレッジ』の授業で行った合宿旅行が楽しかったです。いろんな学部の人、タイプの違う人とも出会えることが、早稲田大学ならではの醍醐味(だいごみ)だと思います」。

就職活動では「好きな本に関わる仕事がしたい」と出版社巡り。念願かなって、文芸作品を数多く手掛ける文藝春秋に入社を果たした浅井さん。だが、最初の配属先は総合週刊誌で売り上げ日本一を誇る『週刊文春』の記者職だった。

「楽しかったですが、学生時代の生活とのギャップが大きく、とにかく苦労しました。不規則な生活とストレスで8kgも太ってしまったり…。でも、根性をたたき直された気がします。実は学生時代、卒論を担当してくださった先生から、『君は器用かもしれないけど、社会人として今のままじゃやっていけないよ』と言われたことがあって、それがずっと心に残っていたんです。まさに、その洗礼を浴びた格好でした」。

自分じゃないものにより多く触れた方が人生は楽しい

記者として鍛えられた2年間を経て、希望していた文芸畑である『別冊 文藝春秋』編集部へと異動。編集者としての道を歩み始めた。

「周りの先輩編集者の仕事ぶりを見ていると、皆マメだったり、作家さんに対して伝わる言葉を持っていたりと、打ちのめされることばかりです。でも、自分ならではの強みがあるとすれば、“気になったらすぐ、そこに行く!”という行動力。イベントもそうですし、会いたい人がいたらすぐ会いに行きます。そんなタイプの編集者が一人くらいいてもいいんだ、と思うようにしています」。

又吉直樹著『火花』文藝春秋

気になったらすぐ、そこに行く…そんな浅井さんの強みが形に結び付いたのが、入社5年目の2011年、プライベートで訪れたイベント「文学フリマ」での出来事。このイベントで偶然、同じくプライベートで訪れていた又吉さんとの出会いを果たしたのだ。

「本が好きということはテレビなどのインタビューで知っていましたし、又吉さんの書いたエッセーなどを読むたびに、表現力や視点のユニークさが気になって、こういう書き手は今いないな、と思っていたんです。何か一緒にできれば楽しいだろうな、という思いはずっと持ち続けていました」。

偶然の出会いをきっかけに、定期的に又吉さんと連絡を取るようになったという浅井さん。そのやり取りを何度も重ねた先に、又吉さんから送られてきたのが小説『火花』の第一稿だった。

「まだ冒頭の10ページ位だったんですが、読んだ瞬間、何か面白いものが生まれる予感めいたものがありました。そして、『これはちゃんと完成させて雑誌に載せなければ!』という使命感が沸き上がりました。もちろん、ここまで世の中で話題になるとは、さすがに想像はできませんでしたが(笑)」。


又吉さんの例に限らず、浅井さんが編集者として心掛けているのは、「新しい人と出会い、新しいことをする」という点だという。

「編集者になって一番良かったことであり、大切にしているのが『いろんな人と会える』ということ。人と会うことで、自分の中にある感情が突き動かされたり、人とぶつかったりすることで新しく生まれるものがあると思うんです。そして、最初の読者として作品と向き合い、一緒に、というと少しおこがましいですが、小説をつくる力になっていると感じるときが、この仕事をやっていて良かったと思う瞬間ですね」。

浴衣で参列した友人の結婚式にて(右が浅井さん)

人と出会い、そこで生まれる化学反応を重視する浅井さんだからこそ、今の学生にも「出会いを大切にしてほしい」とアドバイスを送る。

「自分じゃないものにより多く触れた方が人生は楽しい。そんなふうに私は考えています。その接し方は、直接でもいいですし、本や雑誌を通して出会うこともできると思います。本には、一人の人間が頭の中で考えたことを文章として形にする、というすごみがあります。会ったことのない人と深く何かを共有することで、自分自身の何かが広がるはず。だからこそ、ぜひ、本や雑誌をもっと読んでほしいなと思います」。

【プロフィール】

浅井 茉莉子(あさい・まりこ)
1984年生まれ。2007年、早稲田大学第一文学部卒業後、株式会社文藝春秋入社。『週刊文春』記者を経て、『別冊 文藝春秋』『文學界』で編集を担当。2015年に出版され、第153回芥川賞を受賞した『火花』の担当編集者。2016年7月より、単行本の編集を行う出版局第二文藝部に在籍。

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