2011年12月7日、東京証券取引所の鐘を力強くたたく青年の姿がニュース番組に何度も映し出された。画面に躍るのは「最年少上場記録更新」の文字。大学在学中に設立したネットメディア運営会社リブセンスをわずか6年で東証マザーズ上場企業に育てた村上太一さんは、当時25歳になったばかりの若者だった。
母親から学んだ本質を突く視点と合理的思考

1986年生まれ。2009年、早稲田大学政治経済学部卒業。2006年、在学中にネットメディア運営会社リブセンスを設立。2011年東証マザーズ、 2012年に東証一部へ史上最年少25歳で上場。会社事業が何より好きで、365日仕事を楽しむ。事業の合間をぬって学生向けに講演し、次代を担う後進に エールを送っている。
小学生時代、村上さんは経済ドキュメンタリー番組を好む少年だった。「幼いころから周囲に必要とされるモノや仕組みをつくって人を喜ばせたい、という思いが根本にありました。それを大規模に展開しているのが“会社”だと気付いて、ビジネスに強い興味を覚えたんです」。
子どもの意外な関心を知った母は、息子と積極的にビジネスの話を楽しんだ。「例えば一緒に買い物に行くと、単純な価格の比較ではなく、価格をグラム数で割った値を比較したりするんです。すると、特売品が実質、他の商品より高いこともある。なるほど、と感心しました」。
母との会話を通じて本質を突く視点や合理的な思考を身に付けた村上さんは、自身の将来も極めて合理的に決断した。すなわち、「世の中の課題を解決し、人に喜ばれる」という自己実現を図るためには、起業が一番であると。
会社の方向性が決まったのは高校3年のとき。ヒントは、起業資金をためるために始めたアルバイト探しにあった。「費用を掛けて求人サイトに掲載する企業もあれば、求人費用を抑えるために店頭の張り紙でアルバイトを募集する企業もある。これでは情報の所在がバラバラで探す方は不便です。そこで、求人側も求職側も満足できる求人サービスを作ろうと思い立ったのです」。
思い描いたのは一般的な広告掲載型ではなく成功報酬型システム。村上さんは学内外から4人の友人を集め、会社設立に動き始めた。
週100時間超の作業にもブレなかったメンバーの志
大学1年のとき、早稲田大学の寄附講座「ベンチャー起業家養成基礎講座」のビジネスプランコンテストで優勝した村上さんは、その特典として1年間無料で貸し出される学内オフィスを拠点とし、2006年2月に株式会社リブセンスを設立。それから2カ月間、アルバイト求人サイト「ジョブセンス」を開始するべく、創業メンバー4人は身骨を砕いた。
サイトリリース後、半年間は結果が出なかった。転機が訪れたのはアルバイトを決めたユーザーに祝い金を支給する仕組みを導入してから。ユーザーメリットの高い仕組みが評判を呼び、瞬く間に利用者数は増加。会社は急成長し、東証一部上場を果たしたほか、東洋経済新報社作成の最新版「新・企業力ランキング」で15位に選ばれるなど、躍進を続ける。
元は10代の若者が立ち上げたベンチャー企業。青春のただ中には、週100時間超の労働を強いられる苦しい時期もあった。その壁を乗り越えることができたのは、「メンバー一同、良質なサービスをつくって多くの人を喜ばせたいという思いがブレなかったから」。村上さんは高いモチベーションで壁を乗り越えてきたからこそ、学生にもやりたいことを探す努力を惜しまないでほしいと願う。
「将来の目標が明確になると、物事の見え方が一変します。やりたいことは、皆さんの過去に必ずある。これまでの意思決定のときを振り返り、決断の背景にある考え方を見つめ直せば、自分が大切にしてきた気持ちが見えてくるはずです」。
早稲田大学というチャンスに満ちた環境を生かすためにも、まずは自分と向き合ってほしい──。村上さんからのエールは、これからの学生生活を支える大切な心得になるだろう。