参加者が楽しめるイベントで多大な寄付金を調達する
「資金調達の目標はあります。日本の場合、2013年度は2億円です」。開発途上国で教育支援を行う国際的なNGO「ルーム・トゥ・リード」の日本事務局代表、松丸佳穂さんは事もなげにこう口にした。
2000年の創設以来、ルーム・トゥ・リードが残した実績は、建設した学校1,677校、設立した図書館・図書室1万5,119室、現地語図書の出版 874タイトル、児童書の配布1,338万7,051冊、女子教育支援を受けた児童2万1,582名、教育機会を得た児童781万5,000名(2013 年9月時点)という多大なもの。プロジェクト資金は全て寄付金で賄われているため、先進国の職員は募金活動に奔走しているという。
「募 金の方法はさまざまですが、個人を対象とする場合は主に、チャリティーイベントへの参加や自主開催を呼び掛けています。例えば、専門的知識を持つ人が勉強 会を開いたり、料理好きの人が質の高い料理を提供するパーティーを開催して、参加費を寄付してくださっています。いずれにしても、『自分も楽しむ』ことを 重視しています。これが結果的に寄付にもつながります」。
新たな募金形式との出会いが運命を変えた
大学卒業後、リクルートで7年半にわたって広報や編集に携わり、その後、出版社で役員秘書を務めていた松丸さん。そんな彼女の元に、知り合いから突然の依頼が舞い込んだ。
「ルーム・トゥ・リードの創設者ジョン・ウッドが来日するので、PR活動を手伝ってほしい、と。寄付活動にはそれほど関心があったわけではないのですが、一度イベントをのぞいてみることにしたのです」。
そのイベントには南アフリカ共和国の大使が公邸を開放し、同国 の会社が地元のワインを無償で提供。参加者の多くもさまざまな料理や商品を持ち寄っていた。
「目の前のぜいたくな空間 が全て無償で成り立っていることにも驚きましたが、それ以上に驚いたのは募金額。イベント中、主催者が参加者に募金を呼 び掛けると、私の隣にいた同年代の男性が2,500ドルをクレジットカード払いで寄付したんです!」。
寄付行為の盛んな欧米な らまだしも、日本の感覚では信じられない光景である。この瞬間、彼女の寄付への考え方は一変した。
「ルーム・トゥ・ リードは、企業顔負けの経費削減と使途の明確化を徹底していて、寄付金の扱いに透明性があった。だから彼も2,500ドルもの大金を寄付できたのでしょ う。そして、何より素晴らしかったのは、さまざまな工夫で経費を掛けずに楽しみながら寄付できる環境が築かれていたこと。支援者はそれぞれの得意な領域で イベントに貢献していて負担は少ない。それが結果として大規模な寄付を生み出すことに、支援活動の新たな可能性を感じました」。それから程なくして彼女はルーム・トゥ・リードへの転職を決意。日本事務局の立ち上げを任された。
目指すは草の根運動学生の情報発信力に期待
現在、松丸さんの業務は日本での募金活動のみにとどまらない。サンフランシスコ本部や各国支部と連携を取りながら、予算編成や支援計画などに取り組む日々を送る。そんなグローバルな舞台において、事業をスムーズに進める秘訣はコミュニケーションの取り方への配慮だ。
「常に意識しているのは抽象的な発言を控えること。バックグラウンドが異なる者同士の会話において共通言語となり得るのは“客観的事実とデータ”です。相 手が判断できる材料をより多く提示することが、グローバル社会で円滑なコミュニケーションを生み出すと実感しています」。
世界を股に掛ける仕事への憧れか、最近はインターンシップの問い合わせも増えているという。自身の学生時代と比べ、学生の社会貢献に対する意識がポジティブに変化しているという松丸さんは、そのような学生への期待に胸を膨らませる。
「今、世界にはこういった課題があると知り、問題意識を持ったら、そのことを自分のネットワークを生かして広めてほしいのです。そこから先進国にいる自分たちができることは何なのか、一人一人が考えてもらえればと思っています」。