文化政策の増加により、芸術文化活動に携わるNPO法人が必要とされています。
特定非営利活動法人 芸術公社 代表理事 相馬 千秋(そうま・ちあき)
アートプロデューサー。1998年早稲田大学第一文学部卒業。2000年リヨン第二大学で学ぶ。2006年横浜の舞台芸術創造拠点「急な坂スタジオ」、2009 ~ 2013年まで「フェスティバル/トーキョー」ディレクターを務める。2014年「NPO法人芸術公社」を設立。
地域の振興、コミュニティの形成に寄与する芸術文化活動など、専門性を有する特定非営利活動法人(NPO法人)が地域に拠点を持ち、先駆的な芸術文化活動を展開し始めている。
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私はこれまで「フェスティバル/トーキョー」のディレクターを務めるなど、数多くの現代演劇やダンスパフォーマンスの企画をプロデュースしてきました。また、同時に日本国内の舞台芸術を紹介するほか、世界各国のアーティストを招聘(しょうへい)する活動もしています。NPO法人の一員として活動してきたこの約10年間で、日本のアートシーンは大きく変わりました。中でも顕著なのは、芸術文化活動に携わるNPO法人数の増加です。2003年時が535団体だったのに対し、2013年時には4,867団体と、約9倍に増えています。

地域の振興、コミュニティーの形成に寄与する芸術文化活動など、専門性を有する特定非営利活動法人(NPO法人)が地域に拠点を持ち、先駆的な芸術文化活動を展開し始めている
その背景として、日本各地でアートイベントが盛んになったことが挙げられます。以前のアートイベントといえば、都市部にある美術館や劇場を会場に、官庁や民間企業などの各運営母体が独自の展覧会や舞台の企画を行っていました。しかしバブル崩壊後の2000年代後半からは、地方自治体主導によるアートイベントが開催され始めます。「越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」などが地域のブランド戦略として多大な効果を認められたことから、他の地方自治体や国が乗り出し、文化政策に力を入れるようになりました。その結果、アートマネジメントの必要性が高まり、芸術文化活動に携わるNPO法人の設立数が増えていったのです。
このような官民協働モデルの確立で、盛り上がりを見せる国内の芸術文化活動ですが、2020年に開催される東京五輪に向けて、国と東京都の文化関係予算はさらに増えることでしょう。それによって、一時的なアートバブルが起こると思いますが、五輪後にバブルが弾けてしまわないよう、持続可能なアートの新しい枠組みをつくる必要があります。私は近年、アジアのアーティストとも仕事をしていますが、韓国や中国では文化を外交政策の一つとしてとらえ、多額の予算を芸術文化活動に投じているケースが多いです。近年は、大劇場やアートセンターの建設ラッシュで、これまで以上にアーティストの活動や交流が活発になると予想されます。つまり、今後アートシーンの中心を担うであろうアジア独自のモデルをつくることが、新たな文化や地域の活性化につながるのです。
アートとは、その時代を敏感に感じ取る表現者によって、未来を予見するものだと私は考えています。だからこそ、各都市にある社会課題を顕在化させる存在になり得るのではないでしょうか。私は、アートの枠組みづくりを通じて、問題意識を持ってもらったり、社会の新しい価値観やコミュニケーションの形を考えていったりしたいと思います。
(『新鐘』No.82掲載記事より)