Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

再開発で変わりゆく東京

私たちは、これからの社会における街の生き残りに対してもっと危機感を持つべきです。

建築家 内藤 廣(ないとう・ひろし)

1950年、神奈川県横浜市生まれ。1974年、早稲田大学理工学部卒業後、1976年、同大学院理工学研究科修士課程修了。1981年、内藤廣建築設計事務所を設立。住宅や美術館、駅舎などを手掛け、近年では渋谷駅と渋谷ヒカリエをつなぐ渋谷駅街区東口2階デッキの設計で知られる。現在は、東京大学名誉教授でもある。

2020年のオリンピックに向けて、建設ラッシュを迎えている東京。

人口の減少・高齢化の進む中で、あらためて「まちづくり」のあり方が問われています。日本全国で市街地の活性化などに取り組んできた建築家の内藤廣さんに、より良い「まちづくり」について尋ねました。

内藤さんがまちづくりに関わるようになったきっかけを教えてください。
「1994年に宮崎県の日向市駅、1996年に北海道の旭川駅の設計に携わったことです。どちらも構想から10年を超える事業で、高架や駅舎といったハードウエアの整備をきっかけに街全体を活性化させようというもの。ですから、建築家である私が地域の人々と同じ目線を持つことが必要でした。その場所が地域にとってどんな意味があり、どんな歴史があるのか。とことん会話を重ねて完成したデザインは、将来にわたって人々のにぎわいを生むものになったと考えています。一見すると効率的ではないし、実際に負担も少なくないですが、事業の規模が大きければ大きいほど、本来の目的を見失わないよう、人々に身近なまちづくりでなくてはならないのです。」

これからのまちづくりで重要なことはなんでしょうか?
「まちづくりというと、市域拡張や施設建設などの開発の方につい目が向きがちですが、人口の減少・高齢化が進む日本では、街をいかにコンパクトにするかという見極めも重要になってきます。また、複合商業施設ありきの経済効率だけを考えた従来の公共整備では、人々の心をつなぎとめることはできません。立派できれいな街が衰退していくこともあるのです。50年、100年先と、これまで以上に長期的な視点に立ったまちづくりが求められていると思います。」

では、街が衰退しないためにはどんなまちづくりが考えられますか?
「私は、街には『表』と『裏』があると考えています。都市計画の下に整備された『表』に対し、自然発生的に生じた雑居ビルであったり、いかがわしい横町のある場所が『裏』。文化の発信場所といえる『裏』を無視したまちづくりは、街の過去だけでなく、未来も消し去ってしまいかねません。東京全体を眺めてみても、街ごとに顔が違うから面白いのです。」

内藤さんが再開発に関わっている渋谷の魅力を教えてください。
「渋谷の魅力には、独特の地形が関係しています。日本では古くから高台には武家屋敷、低地には町人の家があり、それぞれに異なる文化がありました。中でも谷底にある渋谷はいわば、大衆の欲望がたまる場所。街そのものに『裏』の文化が染み付いているのです。だからこそ、時代を超えて若者をひき付け、集まった彼らによって新たな文化がつくられてきたのではないでしょうか。」

まちづくりの観点から、若い学生に期待することはありますか?
「近年、日本全国でいくつもの再開発が行われ、今もさまざまな街で進行中です。しかし、関係者の中には本来のまちづくりの目的とはかけ離れた自分の価値観や損得を押し付け、街の魅力が損なわれたことも少なくありません。私たちは、これからの社会における街の生き残りに対してもっと危機感を持つべきです。そのためにも、10年先に完成を見る街と長く関わっていく若い人たちにまちづくりの中心になってもらいたい。そのお膳立てをするのが私の役目だと考えています。」

(『新鐘』No.82掲載記事より)

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