教育・総合科学学術院教授
三村 隆男(みむら・たかお)

イタリア・ヴェローナの野外オペラで『アイーダ』(ヴェルディ作曲)を観劇する三村教授=【プロフィール】県立高校教師を24年間務めた後、上越教育大学講師、准教授を経て2008年より現職。学会認定キャリア・カウンセラー、学校心理士。現在、アジア地区キャリア発達学会副会長、日本キャリア教育学会会長、厚生労働省労働政策審議会委員。専門はキャリア教育、生徒指導、教師のキャリア形成。
オペラの殿堂ミラノ・スカラ座でオペラ『アンドレア・シェニエ』(ジョルダーノ作曲)を観た後、パリを経由して日本に戻るはずだったが、濃霧のためミラノ・リナーテ空港で足止めにあった。雪を抱いたアルプスの眺めに慰めを感じながら空港で不安な気持ちでいた。そこに現れた若者が私たちを救った。前の晩、主役を歌ったホセ・カレーラスが空港の待合室に入ってきたのだ。1982年の冬のことである。
その後、カレーラスは白血病と闘うことになり、歌手生命を危ぶまれたが見事に復活し、一時期は三大テノールの一人として活躍した。オペラは総合芸術で、歌あり、芝居あり、管弦楽あり、舞台芸術もそろっている。ヴェルディの『リゴレット』の原作はヴィクトル・ユゴーである。晩年、自分の作品をオペラで見たユゴーは、3幕の4重唱を称賛した。理由は、道化の父親(バリトン)、父親の意に反し浮気な侯爵に心を奪われる純情な娘(ソプラノ)、浮気な侯爵(テノール)、侯爵に口説かれる殺し屋の妹(メゾ・ソプラノ)の4 人が同時にそれぞれの思いを歌で表現していたからである。

ミラノ・スカラ座の内部(AFP PHOTO / Teatro alla Scala / Brescia/Amisano)
芝居では登場人物の感情は常に重層的に流れているが、セリフで表現するには限界がある。しかし、重唱というオペラの表現がそれを可能にしたのである。もちろん、ヴェルディのオペラ作曲家としての力量に負うところが大きいが。
最初の話に戻るが、リナーテからシャルル・ドゴール空港にたどり着いたが日本便が出た後であった。われわれはパリに1泊することになった。しかも、クリスマス・イヴに。
オペラは奇跡をいくつも起こしてくれる。

スペインのテノール歌手ホセ・カレーラス(AFP PHOTO / POOL / CARL DE SOUZA)