「表現の軸をあえてブレさせると、変えられない自分の芯が見つかる」
文化構想学部 3年 笹川 幹太(ささがわ・かんた)

早稲田キャンパス早稲田大学坪内博士記念演劇博物館前にて
幼少期からのミュージカルや歌舞伎など多様な舞台での経験を生かし、幅広い身体表現を武器に演劇や踊りでマルチに活躍する俳優の笹川幹太さん。ある日はミュージカル、また別の日は、会話劇、ダンス作品。あえて活動の主軸を絞らない理由、早稲田での学びとのつながり、今後の展望など、笹川さんのキャンパスライフに迫りました。
――舞台芸術に取り組むようになったきっかけを教えてください。

幼稚園の時、ABBA(※1)の音楽が好きだった父親に、ミュージカル「マンマ・ミーア!」に連れて行ってもらったことがきっかけで演劇が好きになり、小学1年生の時に横浜市民ミュージカルに参加しました。ここで、ミュージカルを見るのもやるのも楽しい、と関心が芽生えたんです。オペラや歌舞伎にも出演していたのですが、これは市民ミュージカルのご縁で、自分でも不思議な巡り合わせだなと思います。特に歌舞伎では、“すり足”をはじめあらゆる所作をひたすらたたき込まれ、舞台芸術への純粋な関心を追求していました。
※1 1972年結成のスウェーデンの世界的なポップス・グループ
――高校では舞台芸術科だったと聞きました。そこから早稲田を選んだのはなぜですか?
知らない領域のことを学びたくて一期生として入学した神奈川総合高等学校は、芸術教育としては相当とがっていて、何もかも面白かったです。日本の演劇史をたどりながら、今まで自分が取り組んでいた大劇場での芸術とは全く違う、小劇場でのアングラ演劇(※2)や翻訳劇(※3)を座学・実習両面で学び、オペラ、歌舞伎に続いてそれまでの常識が再び上書きされました。他にも、踊りの授業を履修してみたら、「内臓の音を感じて」っていきなり言われたり(笑)。コンテンポラリーダンスの授業では、振り付けがない即興の踊りを学び、「踊り」の定義を広げていきました。
※2 1960~70年代の日本で隆盛した演劇の潮流。実験的で独特な世界観を持つ。「アングラ」はアンダーグラウンドの略
※3 戯曲の原語を自国語に翻訳して上演する劇。その先駆者の一人は早稲田大学黎明期の重要人物である坪内逍遥
パントマイムから狂言に至るまで、高校では必修科目にとどまらず受講できる全科目を履修しました。学業として舞台芸術をやるのはもう楽しみつくしたな、と思ったんです。舞台芸術は仕事としてどれくらいやれるか挑戦しつつ、大学は芸術系ではない場所で、純粋に自分の知的好奇心を満たすために行きたいなと。そんな中、以前から気になっていた演劇博物館へ行って早稲田に興味を持ち、授業内容への関心から文化構想学部に入学しました。

高校3年生の時の卒業公演「一人芝居『針』」。60分間の一人芝居を創作した
――大学では何を学んでいますか?
表象・メディア論系に所属して、「メディア論」や「キュレーション」(※4)を中心に“どう世界を捉えるか”という自分を主語にした学びを深めています。お客さんから自分がどう見えるかという客観的な部分は舞台芸術の稽古で変えられますが、一方で自分がどう「見る」かという主観的な部分は勉強でしか変えられないと思っていて。例えば、新聞の一面にはさまざまな情報がフラットに並んでいますが、Webサイトだったらクリックしないと触れられない情報があります。こういった、さまざまなフィルターによる伝わり方の違いを「メディア論」で学んだことが、自分が演じる上で強い興味を抱いている、演者と観客の間の一線や距離感について考えるきっかけになりました。
※4 美術展などの展示のコンセプトを構想し、作品やアーティストの見せ方を編集すること
特に「メディア論」の授業で耳にした、先生の「身体ってメディアだよね」という一言には「あ、メディア論ってそのレベルの話をするんだ…!」と衝撃を受けました。新聞やテレビといった一般的な情報媒体に限らず、私たちの身体も世界を受容し他者と関わるメディアの一つだというのは、パフォーマンスで何かを日々伝えている私には馴じみやすい考え方でした。
――大学入学後、どんな活動をしていますか?
身体表現が好きなので、演劇はもちろんダンサーとしても、非常に幅広く活動しています。ダンスカンパニーへの参加、音楽と映像を駆使するオーディオビジュアル系のアーティストとのコラボ、学校という場を借りたイマーシブ演劇、二人ミュージカルなど、巡り合わせでさまざまな仕事の機会をいただいています。
写真左:ミュージカル『モイ・ミリー』で演じる笹川さん(撮影:松永幸香)
写真右:ダンスカンパニー『機密猫化センター』。左から二番目が笹川さん(撮影:アラキミユ)
劇団にはそれぞれ特有のプロジェクト性があるので、出演作品や観客の傾向はある程度固定化されますが、私の場合一か所に所属はせず、今月は会話劇、来月は二人芝居、その次はミュージカルといった具合で、どんどん違うものに挑み、カオスに向かっています。でも取り組み方を毎回変え軸をあえてブレさせているからこそ、自分の芯がはっきりしてきていると感じます。毎回の仕事が異文化交流のようで、まるでたくさんの国を旅しているような気分で過ごしています。
――多様なジャンルの舞台を両立しているのはなぜですか?
どれにも飽きなかったからです。一口に舞台といっても、大劇場と小劇場とではお客さんとの距離感がまるで違いますし、それに伴ってコミュニケーションの形態も大きく変わります。その違いを楽しめる気質なので、どれもやめたいと思えなかったんです。これまでの経歴が、旅をするような今の活動のあり方を楽しめている土台かもしれません。
写真左:『ザジ・ズー現代銭湯劇場』。閉業した昔ながらの銭湯を舞台に演じた。風呂おけで客席を作ったという
写真右:『A World Unchosen』。オーディオビジュアルアーティストとコラボし、近未来的な音楽と映像に合わせてパフォーマンスを披露した。笹川さんが持つカメラの映像をリアルタイムでスクリーンに映し出している(撮影:Hiro Shirato)
――今後の展望を教えてください。
当面は、俳優として演じる技術を磨きつつ、映像やポッドキャストといった演劇以外の分野での創作にも取り組むつもりです。俳優は指示に従う仕事ではなく、作品づくりに積極的に提案する仕事だと思うので、将来的にはそういった「作る視点」を持っている俳優でありたいと思います。もちろん、高校生の時から演劇の創作が好きなので、俳優としての探究をさらに深めた後で、並行して脚本や演出など演劇を作る側にも挑戦するのを目標にしています。

『THE GAME OF POLYAMORY LIFE』(撮影:佐藤茉優花)
生成AIやバーチャルが発展し、タイパやコスパが叫ばれる中で、あえて膨大な手間を費やし、観客の前で全力でフィクションを演じるから、かっこいい。演劇経験の価値は、今こそ高まっているように思えてならないんです。
目の前で汗ばんで疲れているのがお客さんにビリビリと伝わってくる、そんな「実在感」のあるパフォーマーでありたいです。
第931回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター
法学部 3年 金井 秀鴻
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ギギ1:『HUG!!!』(主催:川合凜)2026年7月2~5日、早稲田小劇場どらま館にて上演される。笹川さんのInstagramから
【プロフィール】

旅先での一枚
神奈川県出身。神奈川県立神奈川総合高等学校舞台芸術科卒業。演劇倶楽部(公認サークル)、ドミニク・チェン教授(文学学術院)の発酵メディア研究ゼミに所属している。好きなワセメシは、「キッチンミキ」のミキランチ。趣味は散歩、書店巡り、ポッドキャストを聴くこと。
Instagram:@kantabile_sasa
X:@Kantabile_sasa
笹川さんのWebサイト:https://sites.google.com/view/sasagawa-kanta/home










