• ニュース
  • 【キープレーヤー】「データが最重要」AIロボ協会の尾形哲也氏〈上〉
  • Featured Article

【キープレーヤー】「データが最重要」AIロボ協会の尾形哲也氏〈上〉

  • #WASEDA レビュー
  • #研究の今を知る

Thu 07 May 26

  • #WASEDA レビュー
  • #研究の今を知る

Thu 07 May 26

実社会で動くAIロボット(フィジカルAI)の分野で、日本の強みは何か。社会実装を進める一般社団法人AIロボット協会理事長の尾形哲也・早稲田大教授(56)に聞いた。

※本記事はDOW JONES 読売新聞 Proに掲載された記事を転載したものになります。

―AI(人工知能)とロボットを融合させるフィジカルAIの意義は。

「一般的な産業用ロボットは、あらかじめ整備された工場内や環境で同じ動作を繰り返す。フィジカルAIは、環境が変わっても臨機応変に反応できる」

「現在、介護の現場を想定して人間の体を拭くロボットなどを開発している。今はまだ安全性などの問題もあって社会実装はできていないが、人手不足が進むことが明白な将来、必ず社会が求めるようになるだろう」

尾形教授らが開発を進めている介護用ヒト型ロボット。要介護者の体を拭くことができる(4月14日、東京都新宿区の早稲田大リサーチ・イノベーション・センターで) Photo: 読売新聞社

尾形教授らが開発を進めている介護用ヒト型ロボット。要介護者の体を拭くことができる(4月14日、東京都新宿区の早稲田大リサーチ・イノベーション・センターで) Photo: 読売新聞社

―経済産業省の資料によると、多用途ロボットの市場規模は2040年までに約60兆円規模になり、現状のままでは中国が半分以上を獲得すると想定されている。日本が後れを取ってしまったのはなぜか。

「AIをロボットの動作生成に使っている製造業は国内にまだ少ない。増えつつあるが、日本が世界に後れを取ってしまった理由は、ハードに比べAIが注目されていなかったことだ」

―世界から見た日本の現状は。

「AIの開発や利用、データの扱いは、規制が厳しい欧州と比べ、日本の方が、やりやすいだろう。必要な規制はするべきだが、新しい技術が規制で活用できなかった過去の歴史がある。例えばドローンもその一つと言えるだろう。ドローンは、ロボットのモーターの開発に関わるキーテクノロジーでもあった」

■AIとロボットの「共進化」

―日本の強みは。

「ロボットというハード面は、日本は強い。早大の加藤一郎教授が1973年、世界で初めてヒト型ロボット『WABOT―1』を開発した」

「また、日本の若者は新しい技術への適応力が高いと感じている。特にロボットが大好きだ。ペットロボットが売れたり、産業用ロボットに愛称をつけて使ったりする国は、世界でも珍しい」

―日本はどうしていくべきか。

「AIのロボットへの導入を急ピッチで進めれば、日本はまだ戦える余地はあると考える。日本だけでなく、中国や米国もAIを進化させるためのデータが枯渇している。現実世界のデータを取り込んでいく必要がある。AIとロボットを共に進歩させるには、互いが必要になっている。私はこれをAIとロボットの『共進化』と呼んでいる」

「必要なのはデータに尽きる。量も大事だが、必要なデータを必要なタイミングで取れる仕組みが重要だ。データを取り、共有できるように公開する枠組みを作るのが、AIロボット協会の取り組みだ」

「協会は、事業者やAIロボット開発企業と協力してデータを収集しており、AIロボットに使用できるデータが集積された基盤モデルの初期バージョンを6月に公開する計画だ。研究者や企業に利用してもらい、開発を後押ししたい。現在、公開の仕方などを検討している状況だ。今後はデータの種類などの検討を重ねて、基盤モデルの改良を繰り返していきたい」

―協会の他の取り組みは。

「AIロボットの開発コンペティションを実施している。8社を採択し、9月には試作機のお披露目イベントを開催する。利用や購入の希望者を増やすことで量産につながるようにしたい」

■絶対的安全求める文化はAIと相性悪い

AIロボットの日本の強みを語る尾形教授(4月14日、東京都新宿区の早稲田大リサーチ・イノベーション・センターで) Photo: 読売新聞社

AIロボットの日本の強みを語る尾形教授(4月14日、東京都新宿区の早稲田大リサーチ・イノベーション・センターで) Photo: 読売新聞社

―アカデミア(学術界)の役割は。

「アカデミアの視点ではAIにはまだまだ課題がある。例えば、学習に大量のデータや電力が必要なことだ。こうした課題を研究しながら、社会実装を進めて日本の強みにしたい」

「海外ではアカデミアと産業が連携するのは当たり前になっている。ほとんどのスタートアップは大学発だ。アカデミアと産業が離れている日本の現状を変えていきたい」

「一方で、ヒト型ロボットや脳の仕組みを模倣した計算モデルであるニューラルネットワークの基礎研究を私が始めた当初は、実用化は遠い未来だとされていた。基礎研究ができる環境は重要だ」

―AIロボットの社会実装を進めるためには。

「社会受容性が重要だ。社会制度として受け入れるのに時間がかかる。日本の絶対的な安全性を求める文化と、100%の保証ができないAIは相性が悪い」

「自動車も最初は人間と馬と一緒に走っていたら事故が起きて、信号機や横断歩道などができた。こうしてルールが足されていった。今はまさに信号機や横断歩道がないような状況。起こりうる事故を想定、発見していく必要がある。そのため、試験的に実装できる場所を利用してデータを集められると、社会実装をする際の強みになる。利用場面を増やすことで起こりうる危険性をチェックできる」

「データを収集した基盤モデルがあることで、スタートアップも挑戦しやすい環境になる。協会はそういった環境の土台作りをしたい」

尾形哲也氏(おがた・てつや)

1969年、東京都生まれ。93年早稲田大理工学部機械工学科卒。2000年同大大学院で博士号取得。12年から同大教授。日本ロボット学会理事や人工知能学会理事などを経て、25年からAIロボット協会理事長。

LINK