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私を変えた留学 —— 古典文学から最先端AIへ歩んだデビット・ベネット氏の軌跡

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Thu 22 Jan 26

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「全員留学」を掲げる 早稲田大学は、60年以上にわたり北米との間で交換留学プログラムを展開し、これまでに6,000人を超える北米からの留学生を迎えてきました。彼らの多くが、早稲田での学びを糧に世界各地で活躍しています。

今回ご紹介するデビット・ベネット氏も、その一人です。現在はAIコンピューティング分野の最前線で活躍されていますが、意外にもその出発点は「日本古典文学」でした。そして、その原点となったのが、早稲田大学で過ごした留学時代です。

ベネット氏に、2000年代に早稲田で過ごした学生生活、日本古典文学からAIコンピューティングへと広がっていった自身のキャリア、そして今の学生たちへのメッセージについて伺いました。

デビット・ベネット氏

デビット・ベネット氏

偶然の出会いから始まった日本との縁

ベネット氏が初めて日本を訪れたのは、ほとんど「成り行き」だったといいます。

「多くの人には日本に来る理由がありますが、正直に言うと、当時の私は特に理由がありませんでした。日本や日本語への興味は、日本に来てから芽生えたんです。」

ジャマイカで生まれ、カナダで育った彼は、自分に全く縁のない国へ行ってみたいと考えました。1997年、高校時代に交換留学の機会を得た際、留学先として日本を選んだのは、そんな理由からでした。横浜市にある横浜商科大学高等学校での一年間の留学中、彼は日本語に強く惹き込まれました。

「私はもともとプログラミングが好きで、分析的な性格なんです。だからこそ、日本語の語尾変化や文の構造がとても興味深く感じられました。」

その後、トロント大学に進学したベネット氏は、高校時代の経験に背中を押され、再び日本への交換留学を決意します。早稲田大学はトロント大学と長く交流を続けるパートナー大学であり、彼は自然に早稲田で学ぶ道を選びました。

早稲田大学在学中は、学業に加えてサッカーなどのクラブ活動にも積極的に参加。秋田県で経験したホームステイでは、日本でも特に難しいとされる方言に触れるという忘れがたい経験をしました。こうした体験を通じて多くの友人と一生涯の友情を築き、今もなお続く早稲田コミュニティの一員としての確かなつながりを感じているといいます。

「人生のさまざまな場面で、早稲田の卒業生と出会う機会がありました 。ここには本当に驚くほど素晴らしいコミュニティがあると思います。」

留学体験を振り返り、彼はこう語ります。

「留学すると“外国のことを学ぶ”と思いがちですが、実際は留学先で自分の国のことを質問されることが多いんです。そのたびに自分の内側を見つめ直し、自国について語れるようになる必要がある。そこに、とても大きな学びがあります。」

さらに続けます。

「他国の文化や言語を学ぶだけでなく、自分自身や自国への理解が深まる——この内省のプロセスが、留学のもう一つの重要な価値だと思います。」

日本と世界を舞台に築いたテクノロジーキャリア

早稲田での1年間を終えた後、ベネット氏はカナダへ戻り、東アジア研究の学士号、そして日本古典語・古典文学の修士号を取得しました。再び日本へ渡ると、「国費外国人奨学生プログラム」に参加し、その後は香川県で国際交流員(CIR)として勤務。その後、半導体企業のAMD社に契約社員として入社しました。

「コンピュータや技術への興味は昔からありましたが、“本業”になるとは思っていなかったんです。」

米コロンビア大学で博士課程に進む予定もありましたが、家庭環境の変化から進学を見送り、日本で働き続ける道を選びました。「第一子が生まれたタイミングで、“博士に進む前にまずはお金を稼がないと”と考えたんです。」

その決断がキャリアを大きく転換させます。AMDでの責任範囲が広がり、日本からカナダ、米国、シンガポールへと活躍の場を広げました。その後、レノボ社にスカウトされ、レノボの日本法人社長 兼 NECパーソナルコンピュータ社CEOに就任。当初想い描いた学術の道とは全く異なるキャリアを切り開きました。

レノボの日本法人社長として演説をしている様子

レノボでの5年間を経て、AIへの好奇心から米テキサス州オースティン発のAIスタートアップ「Tenstorrent」へ移籍し、Chief Customer OfficerとしてAIコンピューティング分野の最前線に立ちます。

「AIについてもっと深く学びたい——そんな思いが転職の原動力になりました。」

現在はTenstorrentを離れ、2026年から始まる新たな挑戦に向け準備を進めています。

一方で、日本語や学術とのつながりは今も大切にしており、毎年数回来日し、山形大学で客員教授として授業を担当。2020年には、日本語の癖や難しさを外国企業の社長の視点からまとめた著書『外資系社長が出会った ふしぎすぎる日本語』(KADOKAWA)も出版しました。この書籍は、高校時代に日本語学習を始めて以来、長年にわたり丹念に書き留めてきたメモをもとにまとめられたものです。出版されたことに加え、早稲田大学の日本語教育学生読書室(22号館3階)にも所蔵されたことは、ベネット氏にとって学びの原点へと立ち返る象徴的な出来事となりました。

2020年、KADOKAWAより刊行された『外資系社長が出会った 不思議すぎる日本語』

未来を拓く学生たちへのメッセージ

学生へのアドバイスを尋ねると、彼は迷わずこう答えます。

「自分が本当に“好きだ”と思えるものを学んでください。興味のないことを“仕事のため”だけに勉強するのは、続けるのが大変です。」

そしてこう続けます。

「キャリアで最も大事なのは、“何を学んだか”より“どう学んだか”、そして“社会にどう貢献できるか”です。」

日本語の構造への興味が古典文学の研究につながり、それがのちに国際的なビジネスの現場で予期せぬ形で役立つ——そんな経験が、彼自身の言葉に重みを与えています。

たとえばレノボ日本法人の社長時代、ソニー株式会社元社長 の故出井伸之氏(本学名誉博士、1960年第一政経学部卒)と会った際のこと。

「3時間以上、仕事の話を一切せず、ずっと日本古典文学について語り合いました。その“余分に見える時間”が、相手との信頼を築くきっかけになったんです。」

留学についても、強い思いがあります。「留学は、行き先の国について学ぶだけではありません。自分自身を知り、より多面的な人間になるための機会だと考えます。」

短期間でも十分に価値があると話し、自身の子どもたちにも積極的に海外経験を積んでほしいと語ります。最後に、挑戦の一歩を踏み出せずにいる学生たちに向けて、彼はこうエールを送ります。

「新しいことに直面すると、“自分にはできないんじゃないか”と不安になります。でも、それは誰でも同じです。大事なのは“今できるかどうか”ではなく、“努力を続ければできるようになるか”。答えがイエスなら、自信と勇気を持って挑戦すべきです。」

本インタビューは早稲田大学早稲田キャンパスにある国際文学館(村上春樹ライブラリー)にて行われました

PROFILE

デビット・ベネット
カナダ出身のテック実業家。日本で国際交流員としてキャリアをスタートし、その後AMDで半導体分野に携わる。レノボ・ジャパン社長、NECパーソナルコンピュータ社CEOを歴任。直近ではAIコンピューティング企業Tenstorrentの経営幹部として活躍。現在、株式会社サンリオおよびD4エンタープライズの社外取締役を務める。

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