LGBTの話題に関わるとき、必ず思い出す人がいる。高校時代に出会ったT君という人物である。T君とは高校最後の年に、はじめて同じクラスになった。いままで、T君とは一度も話したことがなかったが、学年の友人関係の中心にいることは、なんとなく認識していた。学期が始まり、T君と話してみると、T君が人から好かれる理由がすぐに分かった。「ギャル」のような特徴的な話し方、柔らかい所作、抜群のユーモア、時折あらわれる激しい気性。人を引き付ける要素にあふれており、いままで出会ったことのないタイプの人だった。当時の僕はあまりにも無知で、T君をLGBTと結び付ける発想はなかった。
T君と出会ったことは、僕の人生の中でかなり重要なポイントだが、特別、劇的な何かがあったわけではない。むしろ、頭に残っているのは一瞬の出来事である。
たぶん休み時間だのことだったと思う。クラスの何人かで、おしゃべりをしていた時のことである。話の流れで、T君は化粧品会社の良しあしについて話し出した。今思えば、あそこで会話が硬直していてもおかしくはなかったと思う。しかし、会話はいたってスムーズだった。女子たちがT君の評論に同調し、男子たちは高校生特有のツッコミをここぞとばかりに入れた。この瞬間、T君はT君であり、性の壁はどこにもなかった。
高校生活を通して、T君に対する配慮はあったが、だからといって特別扱いすることはなかった。T君を取り巻く状況をどう表現していいか、いまだに分からない。だが、あの光景が自分の中で理想となっているのは確かである。
文学部3年
イベント企画サークルqoon所属
三嶋 立志