Frontier of Embodiment Informatics: ICT and Robotics, Top Global University Project早稲田大学 ICT・ロボット工学拠点

海外派遣学生

田中 啓太郎
Keitaro TANAKA

先進理工学研究科 博士2年 田中啓太郎 Keitaro TANAKA

  • 派遣期間:2023年3月~9月
  • 派遣先大学:ロンドン大学クイーンメアリー校
  • 派遣先国・地域名:イギリス・ロンドン

 

派遣先と希望理由

私は、英国ロンドンにある Queen Mary University of London (QMUL) の Centre for Digital Music (C4DM) にて、Simon Dixon 教授の指導のもと音楽情報処理分野の研究に従事しました。C4DMは当分野において世界をリードするトップラボであり、多くの著名なスタッフと、総勢70名を超える博士学生が在籍しています。これらのラボメンバーのほとんどが日本ではやや珍しい当分野の研究者であるという環境は、学部4年次より研究を続けてきた私にとってまさに夢のような場所でした。そうした中で、この度SGUより滞在費用をご支援いただけることとなり、私はC4DMへの派遣を希望しました。

 

現地での研究内容・成果

今回、私は音楽情報処理分野の中でも特に楽器認識タスクに焦点を当てました。このタスクは、コンピュータが音楽演奏音源内で使用されている全ての楽器を予測するものであり、当分野の他の研究の基盤となる役割を果たしています。近年の深層学習の進展により、楽器認識の精度は大幅に向上しました。しかしながら、従来は主にベンチマークデータセットでのみ精度が評価され、特にデータ量の少ない他のデータセットに対しては、期待される認識精度が得られないという課題がありました。そこで、本派遣プログラムでは、人工的に作成されたデータセットを活用することで、他のデータセットに対する認識精度の向上を目指しました。プログラム期間中に一定の成果を挙げることができ、国際会議 24th International Society for Music Information Retrieval Conference (ISMIR2023) の Late-Breaking Demo セッションに採択、イタリアのミラノで発表を行いました。
(参考:“On the Use of Synthesized Datasets and Transformer Adaptors for Musical Instrument Recognition,” Tanaka et al., ISMIR2023 LBD.

 

学校環境

QMULはロンドン大学群の中でも国際色の強い大学で、日本人の学生には出会いませんでしたが、他国からの留学生が大勢いました。C4DMもそれに違わず、少なくとも15の国と地域(イタリア、インド、英国、カナダ、韓国、コソボ、スペイン、中国・台湾、ドイツ、フランス、米国、ポルトガル、メキシコ、ロシア等)からの学生が在籍していました。フルタイムの学生だけでなく、私と同じように期間を定められた客員研究員も多くいました。設備面では、最新鋭のスタジオ機器や計算資源に総額11億円以上が投資されています。コロナ禍の影響から、いたるところに小型の防音室が設置されており、リモート会議も気軽に行うことができました。非常に多様で優秀な研究者たちと、世界随一の研究設備を使って研究に携われたことは、とても貴重な機会でした。

 

国際交流

ラボメンバーとは、研究だけでなく、多くの場面を共にしました。昼食は主に、QMUL内にある学食「The Curve」で一緒にとっていました。夕方6時ごろになると、誰からともなく声がかかり、近くにあるレストラン「The Half Moon」へ出かけます。そこではカジュアルな話題から研究のことまで、飲食を楽しみながら会話が盛り上がりますが、その後はまたラボへ戻り研究をすることが多かったです。休日にはみんなでロンドン市内を散策したり、ホームパーティーを楽しんだり、レストラン巡りをしたりしてリフレッシュの時間を楽しみました。私の印象に残っていることの一つに、映画鑑賞があります。翻訳も字幕もない英語の映画を観るのは当初は特に大変でしたが、ロンドンではさまざまな人がさまざまな英語を話していたこともあり、徐々に慣れていきました。これまで1週間以上海外に滞在したことがなかった私にとって、このような国際的な仲間と半年を過ごしたことは、人生でかけがえのない経験でした。帰国後も、現地でできた友人が日本を訪れることが多くあり、共同研究に加え、プライベートな交流も今なお続いています。

 

住居環境

QMULは、地下鉄マイルエンド駅を最寄り駅とする、ロンドン東部にあります。そのため、ロンドン中心部とは住環境がやや異なります。私の滞在先は低中所得層向けの環境で、知らない人が家に突然押しかけてきたり、2週間に一度くらいの頻度で近所のお店が強盗被害に遭ったりと、なかなかにエキサイティングな環境でした。が、豊かな自然に囲まれており、徒歩2分ほどの距離にはヴィクトリア・パークという広大な公園がありました。木々にはリスを多く見かけ、部屋の中に鳥が入ってくることもありました(ベッドにフンをして飛び去っていったこともあります)。私は、現地の不動産会社で見つけた、オラートングリーンという場所にある、定員5人のシェアハウスを借りていました。それぞれに一部屋が割り当てられ、シャワールームやトイレ、キッチンは共用です。みな国籍が違い、異なる生活習慣に戸惑うことも最初はありましたが、次第に生活レベルで他文化を理解できるようになりました。
ロンドンに暮らす上で特筆すべきは、気候と物価です。まず、よくロンドンの空は灰色と言われるように、曇か小雨のことが多く、冬から春にかけてはほとんど毎日小雨が降っていました。洗濯物がなかなか乾かないのには本当に困りました。一方、夏は気温が高くなることもあります。基本的に涼しいロンドンですが、夏の数日は40度を超えることもあります。暖房はあっても冷房は少なく、緯度の高さゆえ夏は日照時間の長い(朝4時から夜10時くらい)ロンドンでは、このような日は非常に苦しい一日となります。物価については、円安ポンド高と英国内の物価高騰に苦しめられました。留学初期は1ポンド150円でしたが、期間の終わりには180円にまで上がりました。不安定な世界情勢からものの価格自体も高止まりしており、体感する物価はおよそ日本の3倍で、帰国後は日本国内の物価に思わず驚いてしまうほどでした。

 

周辺環境

ロンドン東部にはストラトフォードという若者向けの街があり、ショッピングモールから飲食店、さらには近くにサッカースタジアム(ロンドンスタジアム)まで整備されています。私の滞在先の周囲を含め、あたりにはカフェやパン屋さん、インド料理専門店が多くありました。私もいきつけのお店がいくつかできましたが、どのお店もフレンドリーな接客で、友達になった店員さんも多くいました。中心部に比べて暗い印象を持たれてきた東部ですが、ロンドンオリンピックをきっかけに開発が進んでおり、その影響を肌で感じる半年でした。
ロンドンで最も有名な川はテムズ川ですが、これに限らず、ロンドンの川の多くは実際に交通手段として利用されています。私の家の近くにもリージェンツ運河という川があり、日々の通学や帰宅の途中では、水上で生活する人たちを見かけました。もちろん、ロンドンは主に地下鉄とバスで構成された交通網も極めて発達しています。ロンドン市内の各地へ容易にアクセスすることができ、私も時間のあるときは中心部まで足を運びました。レンガ造りの建造物が建ち並ぶ街の景色には、大層感動しました。

 

現地の文化

日本との最も大きな差を感じたのは、多様性です。恥ずかしながら渡英前の私は知らなかったのですが、ロンドンは非常に国際化が進んでおり、多種多様な人が暮らしていました。そのため、皆が皆、私たち日本人の思い描くようなイギリス英語を話すわけではなく、十人十色の英語が日常的に使われています。また、いい意味で彼らは人目を気にせず、自分のしたいように振る舞います。これらのことは私にとって衝撃だったと同時に、一種の安心感を与えてくれました。日本人訛りなど一切気にすることなく、コミュニケーションを取ることができ、何も気にせず暮らすことができたからです。
その一方で想像通りだったのは、世界的な文化の中心地としてのロンドンです。大英博物館やナショナルギャラリーに代表される多くのミュージアム、ビッグベンやバッキンガム宮殿、ウェストミンスター寺院のような歴史ある英国中枢。ベイカーストリートやアビーロードをはじめとする文学や音楽の地、バーバリーやダンヒルのようなファッションブランド、はたまた名門高級紳士服店の集中するサヴィル・ロウ。三越のモデルとなったハロッズ、英国王室御用達の紅茶ブランド、フォートナムアンドメイソン。本初子午線の通るグリニッジ天文台、007やハリーポッターシリーズのロケ地にいたるまで、文字通り全てがありました。レストランやカジノ、ミュージカルなども数多あり、ナイトライフまでもが充実しています。このような英国文化を溢れるほど浴びて悦に入りながら、日本でいかにおいしいものを食べていたのかを痛感したのも事実でした。

 

海外経験を経て今後の目標

今回の留学は私の価値観を大きく変え、また人生の視野も広がりました。留学中は英国ロンドンだけでなく、国際会議に参加するためにアイルランドのダブリンやフィンランドのヘルシンキ、研究ディスカッションのためにフランスのパリにも行きました。さらに、冒頭で述べた成果発表のためにイタリアのミラノも訪れました。これら一連の海外経験を通じて、日本と海外それぞれの長所と短所を多面的に理解することができました。特に、海外の人たちが日本という国とその文化に対し、非常に好意的な関心を抱いており、日本人である私を通してさらに理解を深めようとしていたことは、留学前には予想だにしていなかったことでした。将来的には、今回の経験と今後の私の興味関心に照らして、場所を問わず世界を舞台に活動していけたらと思います。

 

おわりに

まったくの偶然ですが、2023年5月にチャールズ3世の戴冠式が執り行われ、私はこの目で英国王を見ることができました。さらに2023年はちょうどC4DMの設立20周年にあたり、6月には記念祭が行われました。英国内外から多数の著名な音楽情報処理分野の関係者が集まり、研究のことからキャリアパス、雑談まで、さまざまな方とお話しすることができました。憧れの研究者に会ったり、トップ研究者たちの日常に触れたりと、非常に心躍る時間でした。
SGUの皆様には、このような貴重な機会を提供してくださり、心より感謝いたします。世界的な物価の高騰と円安の中、厚いサポートのおかげで念願の研究留学を果たすことができました。熱心に相談に乗ってくださった、西村さんと森島先生に深く感謝いたします。
最後に、Simon先生とJunは私を温かく迎え入れてくださり、現地での研究生活を支えていただきました。京都大学の吉井先生にも、ロンドンとダブリン、パリでお世話になりました。皆様のサポートなしに私の留学生活はありませんでした。心から感謝申し上げます。

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