Waseda Weekly早稲田ウィークリー

キャリアコンパス

“理系女子”からコスメ開発者へ - 資生堂 研究員 関根 知子

「トライ&エラー」の日々を支えるのは、
大学で培った「こつこつと続ける力」

株式会社資生堂 基盤研究センター 研究員
関根 知子(せきね・ともこ)

国内化粧品市場シェア第1位であり(※1)、化粧品メーカーのビューティー部門年間売上高では世界第5位(※2)の規模を誇る資生堂。その研究員として、スキンケア部門の第一線で活躍しているのが関根知子さんだ。2000年には「マルチプルエマルションの開発」で油脂工業論文賞を受賞。現在は大学との共同研究や学会での調整役など、さらに活躍の幅を広げている。2児の母として、公私共に忙しい日々を過ごす関根さんの原動力を探ると、早稲田大学で研究に明け暮れた日々があった。

※1 日本経済新聞社調べ(2014年)
※2 WWD(Women’s Wear Daily)『BEAUTY INC』ANNUAL RANKING(2015年4月発行)より

サイエンスは、人のためになってこそ意味がある

研究室時代に完成したポルフィリンの分子模型と。卒論提出直前で睡眠時間が取れず、とても眠かったのを思い出すという

小学生のときの将来の夢は「生物学者」。小さなころから“理系女子”だった関根さんは、高校生で実験の面白さに目覚め、早稲田大学理工学部応用化学科に進学。3年生以降は、学生生活のほとんどの時間を研究室で過ごしていたという。

「私の大学時代の思い出は、ほぼ研究室一色。ポルフィリンという化合物に関する研究に没頭し、白衣はいつも赤色に汚れていました。その研究の何が面白かったかというと、化学式が左右対称でとてもきれいなんです! 一般的には分かりづらい感覚かもしれませんね(笑)。とにかく研究室にいるのが好きな学生でした」。

研究漬けの大学生活。「研究内容は今とは違いますが、研究室で教わったことは多いです」と関根さんは当時を振り返った。

「こつこつと研究を重ねる大変さと重要性を学びました。研究職はトライ&エラーの連続です。仮説を立て、文献を調べ、実験してその結果を検証し、また仮説を立て…という工程を反復する毎日。こつこつこつこつ、年単位で同じことを繰り返すことができる“研究者としての基礎体力”は、あの時代に培われたんじゃないでしょうか」。

研究室以外では、体育の授業に通った戸山キャンパスで、理工学部以外の友人と知り合えたことがいい思い出だという。

早稲田大学理工学部の卒業式にて。総代として答辞を読んだ思い出も

「合気道の授業で初めて文系の友人ができ、その子の影響で歌舞伎や文楽を見るようになりました。おかげで、日本文化の奥深さを知ることができましたし、そのことが今、海外の研究者と接する上で役に立っていると思います」。

そんな大学時代、同じ研究室にいた先輩からの言葉が、その後の進路選択を考えるきっかけの一つになった。

「『サイエンスは、人のためになってこそ意味がある』。そんな主旨の話を何度か聞いていました。私が就職活動をしていたとき目にした資生堂のキャッチコピーがまさに『ヒトを彩るサイエンス』。人の生活を豊かにするサイエンス…これだ!と思いました。女性としても憧れの企業でしたし、女性であることを仕事に生かすことができるのも決め手になりましたね」。

内にこもらず、五感をフル活用して外に意識を!

資生堂に入社後、一貫してスキンケア製品の基礎研究(新規乳化技術開発)に携わってきた関根さん。「乳化」とは、水と油のように本来混ざらないはずの2つの液体が混ざり合うことで、化粧品には欠かすことができない技術だ。その成果が「リバイタル バイタラクティブ マッサージ」として商品化された。

「最初に関わった研究テーマが『マルチプルエマルション』という3層構造の乳化で、マッサージしているうちに2段階で感触が変わるという特徴を持つ商品になりました。商品が世に出たときは本当にうれしくて、何度も売り場をのぞいてみたり、こっそり陳列の向きを整えたりしちゃいました(笑)。研究者冥利(みょうり)に尽きる瞬間です」。

もっとも、「その裏では数えきれないほどの『世に出ない研究』もあります。面白い研究が必ずしも売り上げにつながるわけではないですね」と語る関根さん。苦労が報われないとき、どのように気持ちを切り替えているのだろうか?

「研究を少しずつブラッシュアップしたり、ちょっと目先を変えたりして、諦めずに何度も製品担当へ売り込み続けます。また、社内では年に1度、自由に研究成果をプレゼンテーションできるアイデアコンテストがありますので、毎回手を変え品を変え、最大限に活用しています。そういう意味では、研究者といえども、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力が求められます。あとは雑談力も大事ですね」。

地道な研究を黙々と続ける日々

最近では、大学の研究所や海外の専門家との共同研究も増えてきたという関根さん。より専門的な知見を深めるために博士号の資格を取得するなど、自己研さんにも余念がない。

「一緒にお仕事をする海外の研究者のほとんどが博士号を持っています。自分もその環境で肩を並べていくために、2年半かけて去年ようやく博士号を取得しました。返す返すも、学生時代にもっと勉強しておけば良かったなぁと。特に、学生のころ苦手にしていた物理化学の知識を求められる場面が多く、仕事中何度泣きそうな思いをしたことか(笑)。自分一人ではくじけそうなので、同じ研究チームのメンバーと一緒に2年ほど物理化学の勉強会を続けています。ここでも、大学時代に培った『こつこつと続けること』が生きていると思います」。

毎年恒例になっている息子との古都二人旅にて

そんな関根さんだからこそ、今の学生にも「興味を持って勉強しておきましょう!」と伝えたいという。

「どの教科でもいいんです。何か一つ、『これだけは勉強した!』『この分野だけは任せて!』と自信が持てるものがあると、社会に出てからも強いと思います。それともう一つ、内にこもらず、外に意識を向けるといいですね。メールよりも電話、電話よりもテレビ電話の方が相手の人となりがよく分かりますし、さらに実際に会うと印象も全く異なる場合があります。自分の目で見ることはもちろん、肌で感じて、空気に触れて、匂いを感じる、といった具合に、五感をフル活用して日々過ごしてみてはいかがでしょうか」。

 

 

【プロフィール】

関根 知子(せきね・ともこ)
1970年生まれ。1993年、早稲田大学理工学部応用化学科卒業後、株式会社資生堂に入社。入社後一貫して、スキンケア製品の新規乳化技術開発に携わる。2000年、「マルチプルエマルションの開発」で油脂工業論文賞受賞。2013年、女性科学者奨励賞(日本油化学会)受賞。2015年、東京理科大学大学院で博士(工学)取得。

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日はほぼ毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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