Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

その他

新しい世界史像の可能性

研究の概要

これまでの研究経緯と全体の概要

本プロジェクトは、2014年度~2016年度の3年間にわたって行われた、「新しい世界史像の可能性」の継続プロジェクトで、従来の近代化論や一国史観の発想から脱皮し、政治、軍事、法、思想、宗教、美術、文学などの要素を含めて人・モノをとらえ、中世・近世、あるいは近世・近代など長い時間軸を射程において、新たな世界史像を考察することを目的としている。これは、民主主義や資本主義が、移民や文化衝突、軍事的緊張などのグローバルな広がりにより危機に直面している状況下で、人文科学のみならず社会科学も解決策を見いだせないことにかんがみ、今一度我々が自明の前提としていた、「近代」なるものを見直そうとする発想にもとづいている。アメリカやヨーロッパの近代的学問そのものを相対化し、新たな世界史像を摸索する試みとも言える。すでに歴史学界ではグローバル・ヒストリーが流行しているが、これは商業交易や疫病、あるいは海域に注目した経済活動の歴史を中心としている。

2016年度までの3年間、世界史を諸地域の相互交流の視点からとらえ、2つの研究エリア①「近代移行期における軍事と名誉・忠誠・愛国心の比較研究」(責任者:谷口眞子)と②「中近世キリスト教世界の多元性とグローバル・ヒストリーへの視角」(責任者:甚野尚志)を設定し、軍事と宗教の側面から、人文科学諸分野、さらに社会科学の研究者も交えて、それぞれの専門分野の知見を共有し、これまでのディシプリンの枠を超えた超領域的会話を試みた。その結果、3年間で合計33回にわたるシンポジウム、講演会、若手セミナーを開催し、その参加者数は累計で946人にのぼった。研究報告者は、大学院博士後期課程の院生から、世界的に有名な研究者まで多岐にわたり、日本各地さらにヨーロッパからも報告者を招くことができた。2つのテーマの責任者の専門は、日本史および中世ヨーロッパ史だが、知的交流は日本史・東洋史・西洋史の歴史学を中心に、美術史、文学、哲学、宗教学、政治学などの諸分野に及んだ。これらの取り組みにより人文科学分野では、オープンな知的交流の場として認知されつつある。取り組みの成果は高等研究所の紀要に掲載している。

本プロジェクトは2017年度から3年間の継続が決定し、高等研究所OB、現文学学術院教授の飯山知保氏をプロジェクトメンバーに迎える。また、人文科学分野で採用された研究所研究員の講演も2019年度に実施する。高等研究所と学内教員、さらに学外研究者との連携によって、本プロジェクトが引き続き、活力ある知的交流の場として機能していくよう努めていきたい。

テーマ1「軍事的世界における近代移行期の人と知の交流」(責任者:谷口 眞子)

(全体目的)

2014年度~2016年度の3年間は、「近代移行期における軍事と名誉・忠誠・愛国心の比較研究」というタイトルのもと、いわゆる近代移行期の日本・ヨーロッパ・東アジア・中東イスラーム地域において、軍事の担い手が帯びていたエトス―名誉・忠誠・愛国心―を比較研究してきた。ユーラシア大陸の東から西までを射程に入れ、日本史・西洋史・東洋史という3区分を超えて、歴史学として共通に議論できる場を設定し、相互比較を通じてヨーロッパ中心史観からの脱皮を目的としたものである。これまで軍事史は忌避される傾向にあったが、軍事に従事する人々のエトスを分析することにより、当該期の国家・社会の多様な側面を新たな角度から照射できる可能性を示した。その成果の一端は、2015年度と2016年度の『早稲田大学高等研究所紀要』に掲載している。また本研究の一部は、2017年6月の日本西洋史学会大会で、エリアリーダーと3人のプロジェクト研究員により、小シンポジウム「忠誠のゆくえ」として発表した。

2017年度からは思想史や法制史、あるいは医学史など人文・社会科学分野の研究者を招聘して講演会を開催し、近代移行期の軍事というフィールドにおける超領域的な共同研究を進めたいと考えている。エリアリーダーの谷口は、文学研究者との共編著『日本<文>学史 第二冊』(勉誠出版)を2017年6月に刊行し、2018年3月には法学研究者と『日本法史から何がみえるか 法と秩序の歴史を学ぶ』(有斐閣)を共同執筆した。人文科学内部の諸分野、あるいは社会科学と人文科学との共同研究は、これから深まっていくと予想される。高等研究所が今後、分野を超えた共同研究を行う場となれば、早稲田大学のみならず、世界の研究に資するところ大となろう。

(全体計画)

3年間の研究により、軍事の担い手が帯びていた名誉・忠誠・愛国心は、軍事技術の導入・開発、軍事編成や徴募方法、軍事教育や軍事訓練、軍事学と啓蒙思想、民族的・宗教的アイデンティティ、身分・社会・国家の性格と深く関係していることがわかった。各国での近世・近代という時代区分とともに、19世紀を中心とした「時間」をグローバルな空間領域において共有していたことは、きわめて重要な意味を持つ。幕末から明治中期にかけて日本から留学して帰国した、いわゆる「啓蒙思想家」も軍事とは無関係ではなく、当時の知識人は軍事、政治、法、歴史など、人文・社会諸分野の学術を導入し、またそれにかかわっていた。軍人の中にはヨーロッパに留学して、その学問を積極的に吸収した者もおり、太平洋戦争の「日本軍」のイメージとはまったく異なる軍事の世界が、近代移行期にはみられる。軍人のネットワークや軍事技術の移転、軍制の創出など、文化史的側面も含めて比較研究することにより、新しい世界史像の構築を目指したい。

テーマ2「中近世キリスト教世界の多元性とグローバル・ヒストリーへの視角」(責任者:甚野 尚志)

(全体目的)

このテーマでは、中近世キリスト教文明の諸問題を「ヨーロッパ世界」に限らず、「キリスト教世界」という「ヨーロッパ」を超えた地理的な枠組、すなわち中近世ヨーロッパとその外部に広がるキリスト教文化圏-アメリカ大陸、地中海・中東、アジア世界-にまで考察の対象を広げ、中近世キリスト教世界を宗教文化史的な視点に立つ「文明の連関史」として再考し、それにより中近世ヨーロッパで多元的に形成されたキリスト教文明とは何であったのかを解明することを目指す。

本テーマの表題にある「グローバル・ヒストリー」とはいうまでもなく、現代のグローバル化に対応して「一国史観」を排し、世界史を諸地域の相互交流の視点から「文明の連関史」として理解する歴史学の潮流であるが、これまでの「グローバル・ヒストリー」は、商業交易や疫病の歴史など、経済や環境に関するテーマで語られてきたのに対し、ここでは「キリスト教世界」をキイワードとして、ヨーロッパ世界で多元的な発展を遂げ宗派化現象を生んだキリスト教が、政治、社会、文化、芸術の諸側面で、どのようにヨーロッパ世界自体を変化させ、同時にいかにヨーロッパと類似の宗教的、文化的事象を他の地域にもたらしたのかをグローバルな視野から考えていくことを目的とする。

(全体計画)

全体の計画としては、各年度、領域横断的な視点からの研究会、シンポジウムを行う。また、中近世のキリスト教の問題をヨーロッパ世界のみに限定せず、アメリカ大陸、地中海・中東、アジアにおけるキリスト教諸宗派の問題も対象とする比較文明史的なアプローチを取り、地域を横断してキリスト教文明の接続の問題を扱っていきたい。このグループは、プロジェクト研究所の「ヨーロッパ中世・ルネサンス」研究所の活動と連携して研究活動を行う。また、中近世キリスト教文明にかかわる問題を研究する大学院生など若手研究者の研究活動を支援していくことも目的とする。研究会やシンポジウムにおいて、若手研究者が自身の研究成果を発表できる場を数多く作り、またその成果を紀要や論文集に刊行することを支援したい。

研究拠点

早稲田大学 高等研究所 エリアリーダー:
谷口 眞子        (文学学術院    教授、高等研究所 兼任研究員)

メンバー

甚野 尚志        (文学学術院 教授、高等研究所 兼任研究員)
飯山 知保        (文学学術院 教授、高等研究所 兼任研究員)
柳澤 明            (文学学術院 教授、高等研究所 兼任研究員)
小松 香織        (教育・総合科学学術院 教授)

シンポジウム・セミナー・研究会の情報

本プロジェクトに関する情報は以下のページ、サイトでもご覧いただけます。

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