高等研究所セミナー:スピン1フェルミオンの量子輸送現象(11/21)
主 旨
名古屋大学博士後期課程1年の菊地理紗子氏を招いて、最近注目が集まっているスピン1フェルミオンの量子輸送現象に関する研究成果について議論・講演していただく。
近年、ディラック/ワイルフェルミオン系を超えて、3本以上のエネルギーバンドが1点で交差した新しいトポロジカル半金属系が提案されている[1]。その1つとして、ディラックコーンに加えて、トリビアルバンドと呼ばれる平坦なバンドが1点で交差する、「スピン1フェルミオン系」がある。2019 年には角度分解光電子分光(ARPES)測定により、CoSi でスピン1フェルミオン系の存在が観測されている[2]。
我々は、線形応答理論の自己無撞着ボルン近似を用いて、不純物散乱を受けるスピン1フェルミオン系の電気伝導現象を解析した。平坦なトリビアルバンドが存在する低エネルギー領域では、スピン1フェルミオン系の状態密度は増大する。一方で電気伝導率は、状態密度の増大に反して、低エネルギー領域で大きく抑制されることが明らかになった。さらにこの領域の電気伝導率は、散乱の強さに対してほとんど変化しないという、非自明な不純物効果を示す。本講演では、電気伝導率をバンド内効果・バンド間効果に分解し、これらの非自明な電気伝導現象について詳細に議論する[3]。また遮蔽効果を考慮した場合、トリビアルバンドが遮蔽効果を異常に増強し、低エネルギー領域の電気伝導率の増大を引き起こす。時間が許せば、この特異な遮蔽効果についても紹介する[4]。
[1] Bradlyn, J. Cano, Z. Wang, M. G. Vergniory, C. Felser, R. J. Cava, and B. A. Bernevig, Science 353, aaf 5037 (2016).
[2] D. Takane, Z. Wang, S. Souma, K. Nakayama, T. Nakamura, H. Oinuma, Y. Nakata, H. Iwasawa, C. Cacho, T. Kim, K. Horiba, H. Kumigashira, T. Takahashi, Y. Ando, and T. Sato, Phys. Rev. Lett. 122, 076402 (2019).
[3] R. Kikuchi, T. Funato, and A. Yamakage, Phys. Rev. B 106, 235204 (2022).
[4] R. Kikuchi and A. Yamakage, Phys. Rev. B 108, 085204 (2023).
講演者
名古屋大学理学研究科理学専攻物理科学領域
物性理論研究室 量子輸送グループ(St研) 所属
博士後期課程1年(D1)
名古屋大学融合フロンティアフェロー
日 時
2023年11月21日(火) 13:30-17:30
会 場
西早稲田キャンパス55号館N棟3階 物理応物会議室
※事前申し込み不要
対 象
学生・研究者・教職員
主 催
早稲田大学高等研究所(企画:早稲田大学高等研究所 講師 大湊 友也)