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化石から生物の進化を探る~気温変化にともなう哺乳類の体サイズ変化~ 西岡佑一郎 助教

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寒いところでは太っている方が有利?

「雪山や海(水中)で遭難した時、太っている人の方が生き残れる確率が上がる」という話(いわゆる迷信)があります。実際は一概に言えませんが、なんとなく太っていると寒冷環境下における適応力が高くなるという共通認識はあるのではないでしょうか。
クマなどの冬眠する動物は、直前に腹いっぱい食物を食べ、栄養を蓄えてから冬眠します。こういったイメージから、「太っている=より多くの栄養を蓄えている=生存率を上げる」という思考につながっているのかもしれません。また、非科学的ではありますが、「太っている=暑苦しい=熱を蓄える」というイメージもあるかもしれません。
これらはあくまで個々人がもつイメージですが、実際に、ドイツの解剖学者であるカール・ベルクマンは、同じ種でも寒い地域ほど体が大きくなる傾向があることを発見しました。これを「ベルクマンの法則」といいます。この現象の理由は、体が大きいほど体重当たりの体表面積が小さくなり、寒冷環境下における体温維持が有利になるからと考えられています。

ニホンザルの大きさはどう変わったか

ベルクマンの法則は、一般的に動物の体サイズ変異と各地の気温との関係を示した法則ですが、この体サイズの変化が年代的な気温変化にも影響されるのか興味を持ち、研究を始めました。これを検証するためには、化石として残る歯や骨のサイズがベルクマンの法則にしたがうのかという点から調べ始める必要があります。修士課程から京都大学の霊長類研究所に進み、まず、ニホンザル現生種の歯のサイズにベルクマンの法則が当てはまるかを調査しました。
一般的に、体のサイズと歯(大臼歯)のサイズは相関します。体が大きくなると頭が大きくなり、それにともない顎や歯も大きくなるのです。多くの哺乳類は永久歯の大きさがあまり変化しないため、体のサイズを知るのに適した材料になります。
そこで、ニホンザルの現生種において、地理的な環境勾配と歯のサイズの関係を調べました。本州、四国、九州各地の群集の歯のサイズを計測して解析したところ、最寒月(1月)平均気温の高い地域から低い地域にかけて、各地域群集の大臼歯歯冠面積の平均値が明らかに減少する傾向が見られました。すなわち、ニホンザルは歯のサイズにおいても寒冷地の群集ほど大型化しており、ベルクマンの法則にしたがうことが証明できたわけです。

次に、ベルクマンの法則が現生種の地域変異だけではなく、時間的なサイズ変化にも当てはまるのか、ニホンザル化石を用いて検証しました。最終氷期(約1万年前以前)から現代にかけての気温の上昇で、ニホンザルの体が小さくなったかどうかを、大臼歯の化石を用いて調べたのです。
ニホンザルの化石は現生種の分布域である本州、四国、九州の数百地点から見つかっていますが、ある人は現生種より大きい化石が出てきたと言ったり、ある人は現生種より小さい化石が出てきたと言ったり、意見はさまざまで、過去と現在におけるニホンザルの体サイズ変化についてはよくわかっていませんでした。そこで、一通り調べ直してみようと思ったのです。現生のニホンザルは遺伝子レベルで東日本集団と西日本集団に分かれることが知られています。この区分にしたがってニホンザル化石の大臼歯サイズを比較したところ、後期更新世(約13〜1万年前)の集団では、東西群集間にさほど差が見られませんでしたが、完新世初頭(約1万年前以降)になると、西日本(中国・九州地方)に比較的小さい大臼歯をもった集団が出現したことがわかりました(図1)。つまり、過去から現在にかけて一部の地域ではニホンザルが小型化した可能性があります。

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図1 ニホンザルの大臼歯化石に基づく地理的分化の考察(西岡ほか,2011の計測データによる)

このような定量分析では、現生種の骨格標本や化石をいかに集められるかも重要です。ニホンザルの場合は有害駆除されることもあり、日本各地の現生骨格標本を収集することができましたが、一方でニホンザルの化石はサンプル数が少なく、今後も継続的な調査を進めていく必要があります。現在は、これらニホンザルの研究で積んだ経験を活かし、化石が比較的多く見つかっているネズミやコウモリのような小型哺乳類の研究に着手しました。

早稲田大学所蔵の直良信夫化石コレクション

早稲田大学には、直良信夫氏(当時、理工学部教授)が収集した化石コレクションが収蔵されています。コレクションの大半は戦時中に焼けて消失したと言われていましたが、近年、早稲田大学の調査で、その一部が本学の本庄考古資料館に保管されていることがわかりました。直良コレクションの中には数百点の哺乳類化石が含まれており、その中から栃木県佐野市の葛生採石場で採取された第四紀(約260万年前から現在まで)の堆積物が発見されました(図2)。

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図2 直良コレクションの葛生産堆積物に含まれる大量の小型化石

この堆積物をふるいで水洗したところ、アカネズミやハタネズミ、ジネズミ、コウモリ類など小型哺乳類化石が何百点も発見されたため、現在はその種同定と形態解析を進めています(図3)。ニホンザル化石では実現し得なかった、1地点からの大量の化石サンプルが収集できたことによって、時代変化にともなった動物のサイズ変化を明らかにできるだろうと期待しています。

西岡先生_図3_左   西岡先生_図3_右
図3 左:直良コレクションから採取された小型哺乳類の顎や歯の化石。左上から時計回りにキクガシラコウモリ、ニホンジネズミ、ヒミズ、ヒメネズミ、アカネズミ、スミスネズミ属の一種、ハタネズミ。右:小型哺乳類化石の観察と計測は実体顕微鏡下で行う。

化石研究から理論を導き、未来につなげる

進化論の父、ダーウィンは数々の生物や絶滅動物を観察して、生物がどのように進化してきたのか考えました。近年は、生物進化と言えばDNAなどを用いた分子進化学的研究が盛んですが、私の研究スタイルはダーウィン同様、伝統的かつ古典的な形態観察に基づいています。「化石(生物)を分類して何のためになるの」と問われれば、せいぜい博物館の展示物及び解説パネルが入れ替わる程度の貢献しかできないと正直に答えますが、こうした基礎データの収集こそが理論構築につながることは言うまでもありません。生態学の分野では、生物の観察結果(数値データ)をグラフ化し、その時間的な動態や進化のプロセスを数理モデルとして示す研究もあります。仮に哺乳類の体サイズが時間的な気温変化にともなって大小変化することが示されれば、それをモデル化して、哺乳類が将来起こりうるであろう環境変化によって形がどのように変わっていくかを予測することも可能でしょう。今現在も地球上にはあと一歩で絶滅する動物がたくさんいますが、そのような動物がこれ以上減らない策を考案する上でも、生物の進化と絶滅に関する理論が必要になることは間違いありません。

最終氷期から現在にかけて多くの哺乳類が絶滅しました。一般に、恐竜も含めて過去の動物がなぜ絶滅したのかという点が注目されやすい古生物学ですが、逆に厳しい環境変化に耐えた現生種がなぜ生き残ることができたのかに焦点を当て、未来につながる研究成果を出していきたいと思います。

 

取材・構成:秦 千里
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

 

 

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