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イノベーション活動が他の企業に与える影響-自動車産業とエレクトロニクス産業における違い 袁 媛 准教授 (2011年6月当時)

  • 袁 媛(YUAN Yuan)准教授(2011年6月当時)

中国の技術促進政策

世界中が中国経済の成長に注目しています。しかし、成長を維持するためには、それだけでなく技術の発展がなければなりません。1990年代に本格的に市場経済化した中国は、外国直接投資を急速に導入し、これが経済成長に貢献してきました。しかし、最近はエネルギー不足と環境汚染問題をきっかけに、戦略的に外国からの投資を導入する方針を取っています。さらに、近年では、外国企業の中でも、中国でイノベーション活動を行っている外国企業からの投資を積極的に受け入れるようになっています。その背景には、イノベーション活動を行う外国企業からの投資を通じて、地場企業への技術波及を促し、さらには地場企業の自発的な技術開発を促進する狙いがあります。

生産システムの違いと技術波及効果

今回、私は東京大学の元橋一之教授との共同研究で、外国企業によるイノベーション活動が中国の自動車産業とエレクトロニクス産業の地場企業に与える技術波及効果を分析しました。自動車産業とエレクトロニクス産業の生産システムは、多くの工程によって成り立ち、長いサプライチェーンが必要だという共通の特徴があり、外国の組み立て企業から地場の部品企業への技術波及効果が発生しやすいと考えられます。しかし一方で、両産業には相違点もあります。自動車産業が生産する製品は典型的なインテグラル型製品であり、製品は組み立て企業と部品企業の間の緊密な協調を経て生産されます。それとは対照的にエレクトロニクス製品はモジュール型製品と呼ばれ、組み立て企業と部品企業が比較的独立しています。
外国直接投資に関する先行研究の蓄積は非常に豊富です。しかし、生産システムの違いを含めて技術波及効果を検討した研究はこれまでにありませんでした。

この研究では、自動車産業とエレクトロニクス産業における技術波及の違いを明らかにするため、中国国家統計局の大中企業調査データのうち自動車産業とエレクトロニクス産業のデータを利用して計量分析を行いました。主として、生産システムの違いによって生じる、企業のイノベーション活動の波及効果の違いを分析しました。また産学連携と技術輸入が中国の地場企業に与える影響も分析しました。分析期間は1995~2004年の10年間。サンプルの数は自動車産業で2702、エレクトロニクス産業では5249です。

この研究で注目している技術波及効果は2つあります。1つは、垂直的波及効果です。つまり、外国あるいは地場の組み立て企業から地場の部品企業への技術波及です。もう1つは、水平的波及効果です。これは部品企業間の技術波及です。

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図1 自動車産業とエレクトロニクス産業における技術波及効果の違い(提供/袁 媛准教授)

分析の結果、自動車産業では地場の組み立て企業と外国の組み立て企業の両方から技術の垂直的波及効果が認められたのに対し、エレクトロニクス産業では地場の組立企業からのみ垂直的波及効果が認められました(図1)。 エレクトロニクス産業は各企業の独立性が比較的高いのですが、実際は一部の組み立て企業が特定の会社に部品を特注していることが多いのではないかと考えています。両産業ともに、水平的波及効果はみられませんでした。また産学連携と技術輸入が企業の付加価値にポジティブな影響を与えることがわかりました。

イノベーション活動の重要性

この研究によって、今後の中国を含めた開発途上国の発展戦略に3つの重要なインプリケーションを与えることができると思います。自動車産業において、外国の組み立て企業によるイノベーション活動を促進すべきだということ、両産業で地場の組み立て企業からの技術の垂直的波及効果が見られたため、地場企業のイノベーション活動やクラスター化を促進する政策が重要だということ、そして、産学連携・技術輸入を促進すべきだということです。

研究者としての今後の展望

私はもともと中国の銀行で働いていたこともあり、金融改革後の中国の金融業と企業の資金調達やガバナンスを主な研究対象として扱ってきました。今後は、今回の研究を、企業のイノベーション活動と金融の結びつきに関する研究へと進めていきたいと考えています。

取材・構成:青山聖子/須賀恭平
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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