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地域統合における国家―EUから東アジアの地域統合を考える 舒旻 准教授 (2009年11月当時)

  • 舒 旻(Min Shu)准教授(2009年11月当時)

地域統合を通じた国家のあり方

私の専門は地域統合論です。地域統合の問題を通じて、国家のあり方について、「空間」や「利益」「アイデンティティ」などの面から考えています。現在は、地域統合の代表ともいえる欧州連合(EU)に関する議論をもとに他の地域、とくに東アジアにおける地域協力の現状との比較、分析を行っています。

地域統合を進める国家と国家-地域間の“tension”

「国家の衰退」はグローバル化が進行する現代の世界における重要なテーマの一つですが、地域主義もまた、地域レベルの政策決定の協力と支配権の共有によって国家の主権を弱めています。それにも関わらず、戦後なぜ多くの国々が積極的に地域統合を進めていったのでしょうか。

私は国家が地域統合を追求する要因を、(1)自国の地政的なコンテクストの再構築、(2)利益の追求、(3)地域協力を通じたアイデンティティの強化の3点だと考えています。しかし、(2)、(3)の要因は同時にマイナスの側面も孕んでいます。たとえば「利益」そのものが、指導者や政府によって常に変化していきますし、行き過ぎた自国の利益の追求は地域統合に不安定な要素をもたらすこともあります。また国家アイデンティティについても、強くなりすぎれば地域統合に対する人々の支持は弱くなります。このように国家と地域の間にはtension(拮抗)も生まれているのです。

ヨーロッパと東アジアの地域統合の比較

ひとくちに地域統合といっても、ヨーロッパにおける統合と東アジアにおけるそれには大きな違いがあります。ヨーロッパの地域統合は、超国家法的フレームワークや複雑な機構、脱国家的な専門官僚の存在などが特徴として挙げられます。一方、東アジアの地域統合は、東南アジア諸国連合(ASEAN)やアジア太平洋経済協力(APEC)、上海協力機構をはじめとする多くのサブ的な地域協力の枠組みはあるものの、制度的・法的な基盤はなく、内政不干渉の原則をとっています。
それぞれの国民アイデンティティについても違いがあります。ヨーロッパにおけるアイデンティティにまつわる言説は「自己」参照的(self-reference)で、移民問題や国家経済など国内的側面がより注目されています。一方、東アジアでは領土紛争や歴史問題が大きく注目されるなど、「他者」参照的(other-reference)です。またこの国民アイデンティティの政治動員も、ヨーロッパでは極右・極左政党が牽引しているのに対し、東アジアでは主流政党によって積極的に行われています。

さらに統合に至る過程も、ヨーロッパでは多くの国々が成熟した近代国家を構築した後に地域統合が進んでいきましたが、東アジアでは現在でも多くの国家が政治的にも経済的にも発展途上にあり、国家建設と地域協力が同時に進んでいます。そのために東アジアでは主権の問題が国家間の関係に多大な影響をもたらしていることも、ヨーロッパとは明らかに異なる点だといえるでしょう。

「東アジア共同体」へ向けた課題

近年、日本でも大きな注目を集めている「東アジア共同体」について考えてみましょう。ここでまず問題となるのが「東アジア」の範囲についてだと思います。しかし、実はこれは非常に難しい問題です。ASEANや日中韓に加え、インドやオセアニア、場合によってはアメリカにまで及ぶことも考えられるからです。
ヨーロッパでの事例をみてみましょう。ヨーロッパにおける地域統合も6カ国から始まり、徐々に拡大してきたという経緯があります。現在EU加盟国は27カ国に上りますが、加盟国が増え、統合の範囲が拡大したことは、同時に効率の低下というデメリットももたらしました。

したがって、どこまでを「東アジア」とし、地域統合・協力を進めていくか、そのあり方はまだ検討が必要でしょう。またアジアでは、地域統合を進めていくために必要な制度面の整備もまだ十分ではなく、このような状況下でのふさわしい国家間の交流のあり方も同時に模索していく必要があります。

地域統合のこれから

東アジアではこのような状況に加えて、日本の政権交代による外交政策の方針転換の影響も見込まれ、これからの動向がさらに注目されます。しかしEUでも、リスボン条約最後の未批准国であるチェコの批准書署名により2009年12月1日には条約が発効、欧州理事会常任議長(EU大統領)が選出されるなど、新たな局面を迎えています。

今後はヨーロッパと東アジアの地域統合の違いのメカニズムを解明し、いずれ南米やアフリカなど、東アジア以外の地域の統合の問題への応用もできたらと考えています。

 

取材・構成:吉戸智明/松村みどり
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy/J-School

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