- 河原塚 篤(Atsushi Kawaharazuka)准教授(2009年10月当時)
社会のあらゆる所で使われている半導体
半導体は現在、社会のあらゆるところで使われています。コンピューターをはじめ、携帯電話、家庭用電気製品、車、電車、光通信など、私たちの生活に欠かせないものとなっています。
半導体とは、シリコンなどの結晶に少量の「不純物」を添加するドーピングにより電気の流れやすさを制御できる物質で、導体と絶縁体の中間の性質をもちます。添加する不純物の量は非常に少なく、結晶の10万~100万分の1程度。このため半導体は純度が命であり、高純度の半導体結晶を作ることが大きな課題となっています。
私は1972年に生まれ、まさに半導体ブームのなかで育ってきました。大学では電気工学科に入り、そこで電子工学や物理の面白さを知り、半導体分野に進むことを決めました。私は半導体の研究を通して、応用技術のほかに、大学で研究するからこそできる半導体の基礎的物性の解明に取り組みたいと考えています。
画期的な発光ダイオード
半導体はおもにN型とP型の2種類があり、これは結晶と不純物の組み合わせによって変わります。この2つの半導体を組み合わせると、発光ダイオードを作ることができます。発光ダイオードは電球などに比べて寿命が長く省エネなので、LED電球や信号機などさまざまなものに使われています。
N型は、結晶より価数(最外殻の電子数)の高い不純物をドーピングさせることで、自由に動ける伝導電子をもった半導体です。P型は、逆に結晶より価数の低い不純物をドーピングさせ、正孔とよばれる電子が不足することで生じる電子の隙間をもっています。この2種類の半導体を接合させて電圧をかけることで、伝導電子と正孔を動かします。半導体の接合部分で電子と正孔が再結合したとき、半導体内部のエネルギー差(バンドギャップ)に応じた光を発します。この技術を用いたのが発光ダイオードです。この技術を逆に利用すると、光を当てて電気を生む太陽電池を作ることもできます。
バンドギャップを調整すると、さまざまな色の光を発生させることができます。とくに、赤、緑、青の光の三原色を生み出すことができれば、それを組み合わせて白色光などあらゆる色を作り出すことができます。
窒化物半導体を用いてさまざまな色の光を生みだす
現在、発光ダイオードで光の三原色を作り出すことはできていますが、課題として半導体の材料が色によって異なることがあげられます。
そこで私は、窒化物半導体を使って、ひとつの材料ですべての色を発光させることを目指しています。これが達成できれば、製造工程が簡略化でき、生産コストも下がるでしょう。
窒化物半導体は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)などの母体となる物質を変えることで、バンドギャップに大きな変化を生み出すことができます。理論的には、窒化物半導体ですべての色の発光ダイオードを作ることができるのです。
現在、実用化されている窒化物半導体は、窒化ガリウムと窒化インジウムの混晶であるGaInNです。この素子は青色の光を発し、ブルーレイなどに使われています。そこで、私の現在の目標は、インジウムの量を調整して高効率の赤や緑の発光ダイオードを作り出すことです。
高純度の窒化物半導体を作る
私は新たな窒化物半導体を作るために、分子線エピタキシー法を利用しています。これは、半導体製造装置の中を高真空にすることで可能な限り不純物を取り除いたうえで、基盤上に分子線により材料を供給し結晶化する方法です。これにより、原子1個を敷き詰めたような原子層単位で半導体の成長を制御でき、高品質・高純度を実現できます。
私は今、アンモニア分子(NH3)を使ってガリウムの窒化物半導体(GaN)を作ることを試みています。アンモニアをヒーターで加熱して解離させ、熱活性アンモニアをつくり、分子線で結晶化させます。これによりGaNの結晶の純度が飛躍的にあがり、高品質の半導体が作れるようになりました。

分子線エピタキシー法。アンモニアをヒーターで1100℃まで加熱して活性アンモニアを作り、基盤上に飛ばし結晶化させる。
次は、高周波のRFプラズマを用いてまずInNを作り、そこにガリウムを加えてGaInNの成長を目指します。GaNの成長が700℃以上で行われるのに対してInNは600℃以下であるため、この温度差をどう対処するかが今後の課題です。
この研究が成功すれば、窒化ガリウムと窒化インジウムの混晶を用いてさまざまなバンドギャップをもった半導体が作れるようになります。これにより、ひとつの材料ですべての色の発光ダイオードが作れるようになります。また、これは太陽電池にも応用できます。バンドギャプに応じた光をキャッチすることで、これまでよりはるかに多くのエネルギーの光を電気に変えられる太陽電池が製造できるようになると考えています。
取材・構成:吉戸智明/渡邉友一郎
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy