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自然資源を生かした環境都市づくり―「風の道」で東京を冷やす 増田幸宏 准教授 (2009年9月当時)

  • 増田 幸宏(Yukihiro Masuda)准教授(2009年9月当時)

熱に汚染された東京

夏の都心は異常な暑さに見舞われます。気温の分布を見ると、都心部が周辺にくらべて高い気温を示す赤い島として浮かび上がります。いわゆるヒートアイランド現象です。
1900年からの100年間で東京の平均気温が3℃上昇したうち、環境省によると1℃が地球温暖化によるもの、2℃がヒートアイランド現象によるものだとされています。つまり、温暖化よりもヒートアイランドによる影響が大きく、世界に先駆けて都市の高温化リスクに直面しているのです。

このような大都市特有の「熱汚染」をいかに解消するか。私は自然資源としての風に注目してこの課題に取り組み、東京湾からの冷たい海風が都心を通りぬける「風の道」を整備して、東京を冷やそうと計画しています。

風をはかる―世界に類を見ない大規模な風観測

東京湾から吹いた風は本当に都市の過密化で阻まれているのか。海風が通り抜けると、本当に都心は涼しくなるのか。身近な風ですが、未知なる部分は案外多いものです。
風のことを知るためには風速や風向きの観測が必要ですが、アメダス(AMeDAS)が風向風速を計測している地点は、東京23区の都心では東京、新木場、羽田、練馬の4地点。これだけではこうした都市環境計画の判断材料として不十分です。
そこで私たちの研究グループでは、東京駅周辺から新橋、汐留、品川、目黒川、大崎にかけて、大規模な風の観測をしました。温湿度、風向風速を含めた気象観測を190地点で行ったのです。国土交通省の総合技術開発プロジェクト研究の一環として実施したものですが、これほどの高密度でかつ大規模に、海からの風の影響を綿密に計測したのは世界でも私たちのグループが初めてで、貴重なデータだと考えています。
この観測から、風が道幅の広い道路を通り抜ける様子や、海風と市街地内の気温差は日中で約4~5度あることなど、多様な温度分布の現状がわかりました。「風の道」の有効性を裏付けるデータです。またこれまでは、昼間は海から陸への海風、夜間には逆の陸風が一般的な考察対象でした。しかし、熱帯夜など夜間静穏時に海から吹く涼しい微風についての新たな知見も得られてきています。地表面の蓄熱や人工排熱によって都心部が夜に冷えないためだと考えていますが、都心臨海部に特徴的な現象だと考えられます。

190点のデータはシミュレーションソフトの開発にも使われました。都市環境の研究では、実際に都市を改造して風の道の効果があったかどうか実測するといった検証実験はできません。そこでコンピューターシミュレーションが必要となります。私たちのデータは、シミュレーションソフトがどの程度の誤差を含むかを検証するデータとしても役立ちました。

風をつなぐ―鉄道会館ビルをツインタワーに

東京都心部には高層ビルが隙間なく立ち並ぶといったイメージがありますが、皇居や新宿御苑、明治神宮といった豊かな緑の空間が残されています。幅員の広い道路や河川、大きな公園をうまくつなげば「風の道」が通り、都心を冷やすことができそうだということがわかってきました。都市内の生活空間におけるオープンスペースのデザインに新たな視点を与えるものです。

私たちの研究知見は、実際の都市計画にも反映されはじめています。東京駅八重洲口で、東京駅に接続している老朽化した商業ビルを建て替える構想がありました。そこで、東京駅周辺の都市模型を作成し、風を観測できる実験室に入れる「空洞実験」を行いました(図1)。ビルを東京駅に隣接するツインタワーに移転する再開発計画案では、東京湾から八重洲通りを通り、皇居へ抜ける「風の道」が有効に機能することも実験結果として得られました(図2)。もちろん、ほかにも複雑な要因が絡み合ってこうした計画案は決められますが、「風の道」が都市計画のなかでこれまでより重要視されつつあるという手ごたえを感じています。

増田先生_図1 増田先生_図2
(左)図1 東京駅周辺の都市模型 (右)図2 ツインタワーの完成により、写真奥の八重洲から手前の丸の内への「風の道」ができた。(提供/増田幸宏准教授)

多様な魅力をあわせ持つ都市を目指して

都市環境計画に関わる者として大切にしていきたいのは、そこで暮らす人にとって魅力的な都市を作るということです。
都市には、人がたくさん集まることで便利なことも不便なこともあります。私たちは、都心では利便性をとる代わりに快適性や安全性は犠牲にしても仕方ないと考えがちですが、そうではなく、質の高い暮らしができる都市を目指したいのです。
私は東京を、高さを利用する地域(アップゾーニング)と自然を生かす地域(ダウンゾーニング)とに分けて、メリハリのある都市づくりを進めるとよいのではないかと考えています。高さを利用する地域は都市としての利便性と効率性をさらに追求し、自然を生かす地域は自然資源を徹底的に享受できるようにするのです。

東京には、丸の内、新宿、浅草、お台場など地域の魅力があり、それぞれのよさを最大限に引き出すやり方は違うはずです。私は、多様な魅力を合わせ持つ都市の環境計画を打ち出していくことに挑戦したいと思っています。世界に類を見ない大都市東京の都市環境計画は、アジアの国々の都市づくりにも活かされていくことでしょう。東京での挑戦は、複雑なだけにやりがいにあふれています。

 

取材・構成:大石 かおり
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy

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