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政治における現象を科学的に分析する~なぜ投票率は低下したのか~ 飯田健 助教 (2009年4月当時)

  • 飯田 健(Takeshi Iida)助教(2009年4月当時)

政治を科学で解く

私の専門は政治学です。政治学の研究というと、歴史や法律、哲学などの立場から政治の望ましいあり方を考察するといった記述的な手法をとるイメージがあるかもしれません。
ですが、英語では政治学を「Political Science(政治の科学)」といい、20世紀初頭から米国を中心に、科学的な手法を用いて政治現象を分析する研究が主流になってきました。科学的な手法をとることによって、有権者や政治家、あるいは国家がなぜそのような行動をとったのかという一般的なメカニズムを見いだすことができるようになります。
とはいえ、政治は人の営みによってなされる不確実な事象なので、そこに一貫した法則を見いだすことは簡単ではありません。数学や統計学などのモデルにあらゆる工夫をし、法則を導くための方法論を確立することも重要なテーマになります。

なぜ投票率は変化するか

私は一般大衆の行動に焦点を当て、「なぜ有権者は投票するのか」「どのようにして有権者は候補者を決めているのか」という疑問の解明に、科学的手法で迫っています。今回は前者の研究について紹介しましょう。
1960年以降、日本の国政選挙や地方選挙の投票率は低下傾向にあります。投票率低下の理由を探るために、今までさまざまな研究が行われてきました。しかし、これらは総じて「誰が投票するか」という問いに答えることに終始しています。投票率の変化を説明するためには、「なぜ投票するか」という因果関係を明らかにしなくてはいけません。
そこで私は、1960年から2005年に行われた16回の衆議員議員選挙と15回の参議院議員選挙の投票率のデータを用いて、時系列分析を行いました。時系列分析とは、一定の時間経過ごとにデータを記録し、その変動の原因を探ったり、将来の予測を行ったりする解析方法です。
ただし、選挙が行われる間隔は一定ではないので、投票率の実データのままでは時系列分析ができません。そこで、投票率の変動の背景に「投票参加意識」という集団意識があると仮定し、投票率の実データから一定時間ごとの投票参加意識の変化を導きました。そして、この変化がほかのさまざまな要素(国内総生産、失業率、物価、内閣支持率などの変数)の和で表されるというモデルを立てて、重回帰分析という統計学の手法を用いて、どの要素の変化がどれだけ投票率に影響を与えているかを求めました(さらに変数間の独立性などを保証するために、さまざまな数学的処理も行っています)。
その結果、国内総生産が増加したり、失業率が上昇したりすると投票率は上がり、一方、無党派層が増加したり、与野党支持率の差が拡大したりすると投票率は下がることがわかりました。ただし、失業率と与野党支持率は、時期によって投票率への影響が異なりました。たとえば、失業率が上がると、現政権への不満から投票率が上がると考えられますが、もともと失業率が低ければ、少しくらい失業率が上がっても、あまり投票率には影響しないのではないかと推測されます。このことについては、今後の課題としてさらに詳しく分析を進めていこうと思っています。

政権交代の可能性を占う

最近では、1993年に衆院選による政権交代が起こりました。この事例に関する過去の研究によれば、与党に対して失望や怒りといったマイナスのイメージがあり、かつ、野党に対して期待や信頼といったプラスのイメージがあるとき、政権交代が起こると分析されています。
昨年9月から、早稲田大学と読売新聞は与野党に対する有権者の意識を調べるため、共同で全国世論調査を始めました。これは次期衆院選を視野に入れた調査で、私もメンバーのひとりです。
この調査では、自民党と民主党について「期待している」「期待していない」(未来に対するイメージ)、「満足している」「満足していない」(過去に対するイメージ)という4つの感情を有権者に定期的に聞いています。この設問は読売新聞が設定したもので、電話による比較的簡易な調査ですが、大勢に定期的に(月1回)調査をすることに意味があるのです。
この調査で得られたデータをもとに、今回紹介したような科学的手法を用いて分析することで、政権交代が起こる仕組みについて、過去の研究よりも正確かつ客観的な法則を導くことができるはずです。そうした分析を行うための方法論の確立にも力を入れていきたいと思います。

飯田先生_図(投票率)  飯田先生_図(時系列データ)
実際の投票率のグラフ(左)と仮想的に導き出した「投票参加意識」のグラフ(右)。
実際の投票率のデータは時間の間隔が一定ではないため、投票率のデータから「投票参加意識」という変数を導き出し、この変数の時系列データを用いて分析した。(提供/飯田 健助教)

 

取材・構成:秦千里
協力:早稲田大学大学院政治学研究科MAJESTy

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