Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

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選挙を「自由で公正な」ものにするために
門屋 寿 講師

門屋 寿 講師

研究を始めたきっかけ

私が研究を始めたきっかけは、大きく二つあります。ひとつは、合理的選択論に基づく政治学との出会いです。もともと政治に強い関心があったわけではなく、大学進学の際にも政治学は志望分野ではありませんでした。むしろ、政治家の行動を規範的に批判するような、メディアなどでよく見られる議論にはどこか違和感があり、政治学に対してもあまり良い印象を持っていませんでした。しかし、早稲田大学政治経済学部経済学科に進学後、政治家を自己の便益を最大化する主体として捉え、その行動の結果として政治現象を分析する合理的選択アプローチに触れました。この考え方は、もともと関心のあった経済学的な思考とも通じるところがあり、政治を分析対象として捉える視点に強い面白さを感じました。これをきっかけに、政治学そのものに関心を持つようになりました。

もうひとつは、権威主義体制下の選挙研究との出会いです。一般に選挙は、暴力に代わる競争の手段として理解されていますが、権威主義体制のもとでは、むしろ選挙が暴力の契機となることもあります。こうした選挙は、日本で私たちが見ているものとは大きく異なっており、それまであまり関心のなかった「選挙」という制度に対する見方が大きく変わりました。この経験を通じて、いわゆる先進民主主義国の外における選挙競争の構造とその帰結に関心を持ち、研究したいと考えるようになりました。

具体的な研究内容、明らかになること

選挙競争の構造とその帰結というテーマは、さまざまな角度から分析できますが、現在はとくに「選挙前野党連合」に注目して研究を進めています。選挙前野党連合とは、選挙の前に複数の野党が協力関係を結ぶことを指します。こうした連合は、不確実な選挙競争のあり方を変え、野党の躍進や、ときには大きな政治変動につながることが知られています。実際に、フィリピンやケニア、ガンビアなどでは、長く続いた権威主義体制が野党連合によって崩れた例があります。

これまでの研究では、こうした野党連合のインパクトの大きさが強調されてきました。ただし多くの場合、「連合があるか・ないか」という単純な区別で扱われ、しかも主要な野党がすべて結集した「統一連合」のみが注目されてきました。しかし現実には、野党連合にはさまざまな形があり、主要野党の一部だけが協力する「部分連合」も数多く見られます。こうした部分連合がどの程度の影響力を持つのかを明らかにすることは、各国の野党の戦略や国際社会にとって政策的な含意を持つと考えます。というのも、すべての野党が結集することを要求する統一連合に比べて、部分連合の方が現実的に実現しやすい手段だからです。

こうした問題意識から、1990年から2025年までにサブサハラ・アフリカで行われた619件の国政選挙を対象に、野党連合を柔軟に捉えた独自のデータセットを構築しました。図1は、その分布を示したものです。これを見ると、そもそも選挙前に野党が連合を組むケースはそれほど多くありませんが、連合が形成される場合には、統一連合よりも部分連合の方が多いことがわかります。

図1 野党連合の形成状況
注:サブサハラ・アフリカ諸国で1990~2025年に実施された国政選挙を、連合なし(No coalition)、部分連合あり(Coalition [partial])、統一連合あり(Coalition [full])の3つに分類し、それぞれの割合を示しています。

つづいて、こうした野党連合がどのような政治的帰結をもたらすのかを検討しました。ここでは、市民が選挙をどの程度「自由で公正だ」と認識しているかに注目しています。選挙の正当性は民主主義の根幹に関わる重要な要素であり、市民の評価が大きな意味を持ちます。本研究では、「選挙が意味のある競争として見えるほど、市民はそれをより公正だと評価しやすい」という考えに基づき、野党連合が競争性を高めることで、公正性の認識にも影響を与えるのではないかと考えました。

アフロバロメーターの個票データを用い、国ごとの特徴や時期ごとの違い、過去の選挙状況などを統制したうえで分析を行った結果、図2に示すように、統一連合のみが市民の選挙公正性認識と明確に正の効果を持つことがわかりました。一方で、部分連合については明確な関係は確認されませんでした。つまり、野党が単に一部で協力するだけではなく、主要な勢力が広く結集していることが、選挙を「意味のある競争」として市民に見せるうえで重要だと考えられます。また、この傾向は特定の政党に強い支持を持たない無党派層にも見られました。

この結果は、一見すると統一連合の重要性を改めて確認しただけのようにも見えます。しかし、統一連合と部分連合を明確に区別し、その違いをデータで検証した点に本研究の意義があると考えています。

図2 野党連合ごとの限界効果
注:連合なしの選挙と比較したときの、統一連合(Coalition [full])と 部分連合(Coalition [partial])の平均限界効果を示しています。点は推定値であり、縦線は95%信頼区間です。信頼区間が0と重なっていないため、統一連合の限界効果のみ、正方向に統計的に有意であるといえます。

今後の抱負

本研究の結果は、統一連合の重要性を示唆するものですが、現実の野党連合はそれほど単純ではありません。部分連合といっても、どの程度の主要野党を含んでいるかには大きな違いがあります。ごく一部の野党だけが参加する場合もあれば、野党票の大半をカバーするような連合も存在します。さらにいえば、野党連合はその規模だけでなく、協力の形態や戦略などさまざまな点で多様です。こうした多様性を踏まえたうえで、野党連合が選挙の公正性認識やその他の政治的帰結にどのような影響を与えるのかについて、引き続き検討していきたいと考えています。

また近年では、選挙に関する国際比較を可能にする大規模データセットが数多く公開されていますが、変数の粒度が粗く、細かな分析には限界がある場合も少なくありません。現在構築している野党連合データのように、より詳細な情報を持つデータセットを整備・公開することで、比較政治学の研究基盤の充実にも貢献したいと考えています。最終的には、こうした研究を通じて、選挙が平和的で正当な紛争解決の手段として機能する条件を明らかにすることに寄与できればと思っています。

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