Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

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【開催報告】早稲田大学高等研究所15周年記念シンポジウム「不確実な時代のウェルビーイングとは」

Dates
  • 1212

    MON
    2022

    1213

    TUE
    2022

Place
早稲田大学小野記念講堂/Zoomウェビナー配信

2022年12月12日(月)~13日(火)の2日間にわたり、早稲田大学高等研究所15周年記念国際シンポジウム「不確実な時代のウェルビーイングとは」を開催しました。

高等研究所が設立されたのは2006年のため、本来なら2021年が設立15周年の年でした。しかし、コロナ禍は2021年も続いており、ようやく落ち着きを見せた2022年、ようやく15周年の記念シンポジウムを開催できる道筋が見えてきました。
企画を立てるにあたり、さまざまな分野の研究者が集まる高等研らしいシンポジウムにするにはどうしたらよいか、種々に検討されましたが、時あたかも、収まらないコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻など、心身や社会の安定が脅かされる事態が続いており、ウェルビーイングの実現にこそ学際的なアプローチが必要なのでは、と方向性がまとまってきたのです。そして、2021年に早稲田大学が発表した「カーボンニュートラル宣言」も踏まえて、「エネルギー」「ライフ」というサブテーマが設定されました。
高等研を巣立ち、現在は第一線で活躍するかつての研究所員(所友)にも声をかけ、多くの方から賛同、参加をいただきました。それに加えて、かねてより交流を深めていたドイツ・コンスタンツ大学高等研究所、名古屋大学高等研究院からも力添えをいただけることとなり、大学付属の高等研究所が今の時代に果たすべき役割についても考える機会にしようということになりました。

なお、本シンポジウムはスーパーグローバル大学創成支援「Waseda Ocean構想」の以下の拠点との共催にて開催されました。
国際日本学拠点・実証政治経済学拠点・ICT ロボット工学拠点・数物系科学拠点・グローバルアジア研究拠点

当研究所前所長、コンスタンツ大学高等研究所長、名古屋大学高等研究院長の基調講演、さまざまなトピックを掲げた5つのラウンドテーブルからなる2日間のシンポジウムが無事開催されましたので、以下、振り返ってまいります。

基調講演

UBIAS(University-Based Institutes for Advanced Study)ネットワークからコンスタンツ大学 高等研究所 所長のGALIZIA Giovanni先生、名古屋大学 高等研究院 院長 阿波賀 邦夫先生、そして高等研究所前所長の有村 俊秀先生にご登壇いただきました。

有村 俊秀先生「カーボンニュートラルと社会科学:経済学の役割を中心に」

地球温暖化の趨勢を踏まえ、経済から疎外されている二酸化炭素排出の問題を、カーボンプライシングの導入により経済に取り込むべきであることを主張しました。ミクロの視点からは、例えば「夏場の冷房の温度を高めに設定する」といったある一人の小さな行動が周りの人々の行動を変え、規範となって社会全体に大きな影響を及ぼす可能性を示唆しつつ、一方で産業構造の変化はそれに従事する人々のウェルビーイングにつながることを歴史的・国際的事例も踏まえ説明しました。

特定の研究分野のみから世界が直面する複雑な課題に対応することは難しく、学際的なアプローチが不可欠であり、高等研究所こそが重要な役割を果たすことができるとして、以後2日間にわたるディスカッションの幕を開けました。

GALIZIA Giovanni先生“Well-being in an animal society: thoughts about honeybee collectives – and comments on institutes for advanced studies”

シェイクスピアにはじまる過去の文献から最新の研究成果までを総括しながら、社会性昆虫としてのミツバチの生態を紐解きました。ミツバチの集団においては、女王バチがフェロモンを使って群れを統べているものの、それは上意下達の統制を敷くことを意味せず、多様な世代が形成するボトムアップの力が次世代へと持続可能な集団を作り続けていることが明らかになっています。ミツバチは、人間、そして他の昆虫とさえも単純に比較することの難しい、複雑かつ相互性のある制御システムを安定的に構築していることを主張しました。

また、GALIZIA先生が所長を務めるコンスタンツ大学 高等研究所(Zukunftskolleg, 略称ZUKO)についてもご紹介をいただきました。ZUKOは若手研究者が国際的に(international)、世代を超え(intergenerational)、 他学部と連携し(intra-university)、学際的な視点から(interdisciplinary angle)独立性(independence)を確立することを基本戦略とし(=5i Strategy)、研究者の早期キャリアを支えるとともに、トップレベル研究の担い手としてコンスタンツ大学全体をけん引しています。

参考:コンスタンツ大学 高等研究所Webサイト

阿波賀 邦夫先生「想像の共有がもたらすウェルビーイング」

「空想的虚構 (Imaginaly fiction)」 というキーワードを具現化する、名古屋大学高等研究院のプロジェクト「アンドロイド観音」「古代エジプトのピラミッドの研究調査」を紹介していただきました。各先生方のプレゼンテーションからは、伝統的ディシプリンや基礎研究を基盤にしつつも、自ら楽しみながら新たな境地を切り開く姿が伝わってきました。

さらに阿波賀先生ご自身のご研究に基づき、環境とエネルギーの相関関係分析への取り組みを紹介していただきました。これは早稲田大学、そして高等研究所でも重点分野の一つに位置付けているカーボンニュートラルの研究課題とまさに軌を一にしたものであり、名古屋大学高等研究院の先進的取り組みは、高等研究所にとっても心強い指針であると実感しました。

参考:名古屋大学高等研究院Webサイト

ラウンドテーブル

Day1 Roundtable 1「エネルギー問題」

エネルギーの重要性が日々高まり、とりわけウクライナ紛争に端を発するエネルギー危機に瀕する中、自らの研究の推進のみならず社会実装の進展に向けて研究者ができることとは何なのか。登壇者は「次世代ヒートポンプ」「エネルギー使用のモデリング」「足尾銅山採掘と電化の功罪」「事業者のエネルギー消費に制度が与える影響」という多様な観点から話題提供を行い、さらに自らがとるべきネクストアクションを表明しました。

Day1 Roundtable 2「持続可能な社会」

超高齢化社会における孤独と都市デザイン、持続可能な開発の実現に向けて教育の果たす役割、多民族・多文化社会の歴史や感染症に直面する国家の理想的な体制についてなど、社会や集団が持続するための条件について、会場との質疑応答も交えて多角的な議論を展開しました。「サステナブル」「持続可能」という語の意味の拡張性に注意を払いつつ、様々な立場や意見を持つもの同士が議論をすり合わせ、とりうる選択肢を検討していくことの重要性を再確認しました。

Day2 Roundtable 3「文化・アート」

文化財、他者の聞こえに対する想像力、占星術、セクシュアリティ、エコクリティシズムといった多様な視点から検討を行うことで、文化や芸術の持つ、隠された問題を浮き彫りにし新たな価値や秩序を生み出す可能性を示しました。人間が人間としての“ライフ”を営む上で不可欠な空想や虚構の力を考えることの大切さを共有しました。

Day2 Roundtable 4「健康と安全」

動物との関わりから人間の社会を照射することや美学と政治性の関係、ジェンダー規範という社会性、「細胞のウェルビーイング」という新たな視点をもってウェルビーイングという課題の多面性を明らかにしました。人間中心的ではない思考を獲得することが、逆説的に人間がよりよく存在できる世界を構築することにつながるのではないかという今後の課題も提起されました。

Day2 Roundtable 5「インクルーシブ社会」

社会の枠組みをなす法、多民族社会と高齢化社会、細胞のコミュニケーション、他者理解の第一歩である「模倣」という、大小様々なスケールの観点からの提言を通じて、より多角的なコミュニケーションの方法を獲得することで、動物や昆虫も含めた多くの生命の生存しやすい社会を構築できる可能性を感じさせる議論となりました。

閉会挨拶

最後に、2010年より高等研究所の所長を8年間務めた宮島 英昭 先生(早稲田大学 常任理事(財務担当)、高等研究所 顧問)より高等研究所の設立からこれまでの歩み、今後の展望や課題についてご挨拶をいただき、閉会を迎えました。

 

当イベントは早稲田大学キャンパス内小野記念講堂とZoomオンライン配信のハイブリッド形式での実施となりました。新型コロナウイルス感染防止対策を講じ、現地参加・オンライン視聴合計で265人の方にご参加いただく大盛況となりました。このような大規模の国際シンポジウムは当研究所としても初の試みであり、配信や通訳など様々な外部関係者の方の協力を得て無事開催することができました。
ご参加ならびにご協力をいただきました皆様、まことにありがとうございました。

動画

早稲田大学高等研究所オンラインアーカイブス(公式YouTubeチャンネル)よりご覧いただけます。

日本語音声版:https://www.youtube.com/playlist?list=PL-yezBjYm-RhW5GRkOP1W_Fzu4suz3Qb3
英語音声版:https://www.youtube.com/playlist?list=PL-yezBjYm-Ri1cKPNKtViT4nXpWLm_vhi

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