高等研究所「人新世と人文学」セミナーシリーズ(第8回)公開講演会
「産業政策史からの視点―高度成長期後半の保守政治体制下における公害対策」(12/17)
趣旨説明
このセミナーシリーズは、2021年10月より活動開始した、早稲田大学高等研究所「人新世と人文学」プロジェクトの一環として実施するものです。人新世の概念を共有した領域横断的な対話の場を設けることで、細分化された専門知を連結し、人文学の新たな可能性を拓くことを試みます。第6回セミナーでは、産業史・環境史を専門とする長井景太郎氏に1960年代の公害対策について取り上げていただきます。概要は以下の通りです。
公害に対する国家的対応の未成熟な段階にある1960 年代後半に、保守自治体である千葉県市原市域で発生した大気汚染に対する公害対策を、農業被害・健康被害双方の事例より検討する。農業被害の事例である梨被害に対し行政は、1966年5月に市原地区梨等被害調査委員会を設置しエビデンスを積み重ねた結果、企業側に補償金を支払わせ行政独自の「ナシ被害注意報」を制度化させた。行政側は注意報には一定の効力があるとみていたが、梨被害を食い止めるには至らず最終的に農家の希望により永久補償がなされることとなった。一方、健康被害への懸念により住民運動が発生し、1968年10月に市と千葉塩素化学による覚書が締結された。その過程では、県によって同社の計画はより大気汚染に配慮した内容に変更された。また市による同社への計画に慎重な姿勢は新聞報道へとつながり、住民運動の一端となった。覚書は実のある内容となっており、市側の情報開示の意識は低かったにもかかわらず有効に機能していた。こうした公害対策は、千葉県、市原市、保守系・共産党市原市議会議員、大学教員、住民といった様々な担い手によって実行されていた。
登壇者
長井景太郎(早稲田大学政治経済学術院 助手)
早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。現在早稲田大学政治経済学部助手。専門は日本経済史、特に産業史、産業政策史、環境史。主要業績として、「高度成長期後半の石油化学産業における誘導品の設備投資調整―中低圧法ポリエチレン、スチレンモノマー、エチレンオキサイドを事例に―」(『早稻田政治經濟學雜誌』、2020年)、「高度成長期日本の石油化学産業における設備投資調整政策の実態の再検討―エチレン年産30万㌧基準制定後の個別認可過程に着目して―」(『経営史学』、2020年)、「高度成長期前半の石油化学業界における協調懇談会の選択理由―設備投資の業界内調整に着目して―」(『産業経営』、2017年)など。
司会:
山本 聡美(早稲田大学高等研究所 副所長/文学学術院 教授)
日 時
2022年12月17日(土)10:00~12:00
会 場
Zoomによるオンライン開催
言語
日本語
プログラム
10:00~10:05 | 開会挨拶(山本聡美) |
10:05~11:35 | 講演 「産業政策史からの視点―高度成長期後半の保守政治体制下における公害対策」(長井景太郎) |
11:35~11:40 | 休憩 |
11:40~12:00 | 質疑応答・討議、司会(山本聡美) |
対 象
教員・研究者・大学院生
主 催
早稲田大学 高等研究所
共 催
早稲田大学 SGU国際日本学拠点
総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所
早稲田大学 美術史学会
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