
早稲田大学校歌の歌詞「東西古今の文化のうしほ」にもあるように、早稲田大学では創立以来、多様性を重んじる精神を受け継いできました。現在では、スチューデント・ダイバーシティ・センター(以下、SDC)が中心となり、国籍や性別、障がいの有無などに関わらず、誰もが平等な学びの機会を得られるよう、キャンパス全体でDEI(Diversity、Equity、Inclusion:多様性、公平性、包摂性)を推進しています。この取り組みや制度を知るきっかけとして、今回、SDCのセンター長を務める秋葉丈志教授(国際学術院)にインタビューを実施。さらに、SDCを構成するICC(異文化交流センター)、アクセシビリティ支援センター(ARC)、ジェンダー・セクシュアリティ・センター(GSセンター)、学生相談センター(SCC)の利用方法についても紹介します。早稲田に根付くダイバーシティの精神を、自分ごととして考えてみましょう。
INDEX
▼大切なのは“気付く力” 秋葉先生が考えるダイバーシティ
各センター紹介
▼ICC(異文化交流センター)
▼アクセシビリティ支援センター(ARC)
▼ジェンダー・セクシュアリティ・センター(GSセンター)
▼学生相談センター(SCC)
大切なのは“気付く力” 秋葉先生が考えるダイバーシティ
早稲田大学スチューデント・ダイバーシティ・センター長
国際学術院教授 秋葉 丈志(あきば・たけし)

戸山キャンパス学生会館内にあるGSセンター本館にて
キャンパスに根付く大隈重信の理念 誰でも学ぶ権利があり、誰からも学び得るものがある
――早稲田大学でダイバーシティが大切である理由を教えてください。
まず大学として、学生一人一人の学びの機会と環境が整っていることが大切だからです。それが多様な視点を生かした創造的な教育や研究につながると考えています。また、早稲田大学には、将来リーダーになる学生が多いことも挙げられます。就職すればいずれ管理職に就く人や、起業する人、学校の先生、公務員や政治家になる人もいるでしょう。多くの人に影響を与えるポジションに就くのだから、相手の状況や特性などに素早く気付いて行動を起こせる人になる必要があると思うのです。
リーダーでなくても、例えば親になれば子どもに与える影響は大きいですよね。それに学生生活の中でも、サークルのリーダーだったらそのメンバーに、塾講師のアルバイトをしていたら生徒たちに、飲食店で働いていたらお客さんに対して影響を与える、といったことを考えると、気付く力を養っておくことはとても大切です。
――SDCが創設されて8年たちますが、学内の意識はどのように変わったと感じていますか?
ダイバーシティ関連の課題は、かなり可視化されてきたように感じます。例えば、ジェンダー・セクシュアリティの話題については、学生の皆さんも一度は聞いたり触れたりしたことがあるのではないでしょうか。関連する授業もありますし、GSセンターが毎年4つのキャンパスで行っているパレードなど、イベントや啓発活動の影響も大きいと思います。またここ数年は、ほぼ全ての学術院の教授会などでジェンダー・セクシュアリティと障がい学生に対する合理的配慮についての研修を行っているので、教員の意識も高まっていると感じています。
今は、実践として何ができるかを考える段階です。その一環として、GSセンターでは2025年3月に『サークル・課外活動 ジェンダー・セクシュアリティ DE&I ガイドブック』を学生スタッフが制作しました。こうした早稲田の取り組みには、全国の大学が注目しています。他大学の教職員が視察に訪れたり、SDCの職員が講演をするために他大学へ伺ったりしているんですよ。

GSセンター制作のガイドブック。ジェンダー・セクシュアリティに関する基礎知識の他、サークル・課外活動の運営で活用可能な実践例などを掲載している
――今や早稲田大学は、全国の大学におけるダイバーシティ推進をリードする立場にあるんですね。その理由を先生はどのように考えていますか?
本学の創立者であり初代総長の大隈重信の理念が、深く根付いているからだと考えています。誰でも学ぶ権利があり、誰からも学び得るものがあるという姿勢を説いていた大隈は、当時から留学生の受け入れや国際交流に積極的でしたし、女子教育の重要性を唱え、日本女子大学校(現在の日本女子大学)の創設にも尽力しました。
また、皆さんにぜひ注目してほしいのが、大学のマスコットのWASEDA BEAR(以下、ワセダベア)。今ではすっかり見慣れていますが、つえをついていますよね。大隈は1889年の爆弾による襲撃事件で右足を失い、義足を使用していました。大隈がモデルとなったワセダベアには、「障がいもその人の一部であることを認め、かつ障がいで相手を判断しない」というメッセージが込められているように思います。そうして受け継がれたDNAが、国籍、性別、障がいの有無などに関わらず、多様な個性が共存する早稲田のキャンパスに生きているのです。
人に優しく、お互いを受け入れるのがダイバーシティ
――秋葉先生がダイバーシティを推進する背景には、どのような経験がありますか?
学生時代、アメリカ留学中に孤立してしまい、挫折しかけたんです。プログラムには自分の他に日本人がいなかった上に、指導教員がなかなか決まらず、プライベートで遊ぶ仲間も少なくて。もう辞めようと思って奨学金の継続申請を出さずにいたら、自分が困っていることに気付いた現地の先生がアシスタントに雇ってくれて、日米の学術交流の場に誘ってくれました。他にもさまざまなサポートを通して居場所を作ってくれて、生活が激変したんです。何かしらの困難を抱えている人も、周りがちょっと気付いて動くだけで救われるかもしれない。その時に感じた気持ちが、今につながっていますね。
――相手に対して“気付く力”は、誰にとっても居心地の良い、まさにダイバーシティな社会を築いていくために不可欠ですね。
早大生には“気付ける人”になってほしいです。「ちょっと居心地が悪そう」「何か悩んでいそう」という人がいたら、SDCのようなリソースを紹介してあげるとか。自分から救いを求めることはなかなか難しいので、周りが気付けるかどうかが鍵なんです。早稲田の卒業生は毎年約1万人。1万人が100人に良い影響を与えられたら100万人が変わる。そしたら、世の中はすごく変わっていくだろうと思います。
とはいえ、余裕がなくて十分に気付けないことは誰にでもあります。そういうときには今度は周りがその人の状況に気付いて補ってあげる。ダイバーシティとはつまり、人に優しく、お互いを受け入れるってことなんです。お互いに無理せず、受け入れ合える気持ちを持ちたいですね。
取材・文:吉田 けい
撮影:平野 桃里
各センター紹介
SDCを構成する4つのセンターの基本情報や利用方法について紹介します。少しでも気になった人は、ぜひ気軽に足を運んでみてください!
ICC(異文化交流センター)

早稲田キャンパス 3号館1階。入り口の様子
どのようなことができますか?
英語や日本語をはじめ、さまざまな言語で会話を楽しめる言語交流イベントや、日本・世界各国の文化を体験できるイベント、ラウンジに集う多様な学生との交流を通して、語学力向上や異文化理解、友人づくりのきっかけを提供しています。「英語を話したい」「新しい友達が欲しい」「異文化交流に興味がある」、そんなときは、ラウンジの利用やイベントへの参加など、ぜひICCを活用してください。
ICCラウンジの様子。季節やイベントに合わせた装飾をしている
利用時のポイント・注意事項
ICCラウンジは、早大生なら誰でも利用可能です。昼食を食べる場所を探しているとき、ちょっと一息つきたいとき、誰かとおしゃべりしたいときなど、気軽に立ち寄ってみてください。また、ICCのイベントには申し込み不要のものと、事前申し込みが必要なものがあるので、詳細や最新情報はWebサイトやInstagramで確認してください。イベント情報を見逃したくない人は、ICCメールニュースへの登録もお勧めです。
早大生へのメッセージ
ICCは国籍や言語の壁を越えて交流できる場で、学生スタッフが主体となって年間約200のイベントを企画・運営しています。ICCラウンジには多様なバックグラウンドを持つ学生が集い、自然と会話が生まれるフレンドリーな空間が広がっています。
語学力に自信がなくても大丈夫! 「異なる文化に触れてみたい」「いろんな人と話してみたい」、そんな気持ちがあれば十分です。初めてでも安心して参加できるよう、ICCのスタッフがしっかりサポートするので、ぜひ気軽に、イベントやラウンジに足を運んでみてください。きっと、まだ知らない世界や価値観に出合えるはず!
基本情報
場所:早稲田キャンパス 3号館1階
開室時間:月~金曜日 10:00~16:00(土・日・祝日閉室 )
※イベントなどにより開室時間が変更となる場合があります。最新情報はICCのカレンダーを確認してください。
Webサイト:https://www.waseda.jp/inst/icc/
Instagram:@iccwaseda
アクセシビリティ支援センター(ARC)

早稲田キャンパス 3号館1階にあるARC(身体障がい部門)のカウンターの様子
どのようなことができますか?
「学びを支え、共に歩む」をスローガンに、障がいなどの理由により困難を抱える学生が他の学生と平等に学習機会を得られるよう、修学上の合理的配慮の円滑な実施に必要な調整、およびリソースの提供を行う他、障がいについての理解を広める取り組みを通じて、学びへの参加を支援します。
利用時のポイント・注意事項
障がいなどにより修学上の合理的配慮を必要とする場合は、毎学期申請が必要です。申請手続きの詳細はWebサイトを確認してください。
写真左:早稲田キャンパス 3号館1階を入ってすぐ左手にある、ARC(身体障がい部門)入り口
写真右:早稲田キャンパス 19号館1階のARC(精神・発達障がい部門)内にある個室相談ブース
早大生へのメッセージ
アクセシビリティ支援センターでは、障がい学生への授業支援を行う支援学生も募集しています。関心のある人は気軽に問い合わせてください。障がい学生、支援学生、教職員が一体となり、早稲田大学のアクセシビリティを推進していきましょう!
基本情報
場所:【身体障がい部門】早稲田キャンパス3号館1階
【精神・発達障がい部門】19号館1階
開室時間:月〜金曜日 9:00〜17:00
Webサイト:https://www.waseda.jp/inst/dsso/
ジェンダー・セクシュアリティ・センター(GSセンター)

戸山キャンパス30号館1階 学生会館内にあるGSセンター本館の様子
どのようなことができますか?
個別相談では、ジェンダーやセクシュアリティに関するさまざまなことを1回だけでも継続的な相談でも、利用者のニーズに合わせて専門職員に相談できます。
・自分の性のあり方をもっと理解したい
・LGBTQ+の人のアライ(性的マイノリティー当事者の理解者、支援者のこと)としてレベルアップしたい
・社会的なジェンダー規範が苦しい
・恋愛に関する悩みがある
・家族関係のこじれで安心できる場所がない
・LGBTQ+コミュニティーの人間関係で悩んでいる
・ジェンダートランジションやカミングアウトについて考えたい
・ジェンダーやセクシュアリティに関する情報が欲しい
・通称名使用や合宿の部屋割りなど学内制度について知りたい
・過去の経験を含む性暴力について話したい
・SOGIE(性的指向・性自認・性表現)について考えたい
・ハラスメントについて情報収集したい
・自分の未来像をクリアにしたい
戸山キャンパス 30号館1階 学生会館にある本館のラウンジ風景。本棚にはジェンダーやセクシュアリティに関する書籍がズラリ! 早大生ならいつでも貸し出し可能
利用時のポイント・注意事項
コミュニティー・スペース、図書、個別相談の利用やイベント参加の際、学籍上の名前を使う必要はありません。「話したいことだけ話していい」「誰がいたか・何を話したかを本人の同意なく話さない」をはじめとする、場の安全性を守るための約束事があります。
早大生へのメッセージ
ジェンダーやセクシュアリティに関することに少しでも関心がある人は、ぜひ気軽に遊びに来てください!
基本情報
場所:【本館】戸山キャンパス 学生会館(30号館)1階103
【分館】早稲田キャンパス 10号館2階213 ※2025年11月現在閉室中。
開室時間:月~金曜日 ※時間はWebサイトで確認してください。
Webサイト:https://www.waseda.jp/inst/gscenter/about/facility/
Instagram:@gscenter.waseda
Instagram(図書アカウント):@gscenter.waseda_library
note:https://note.com/gscenter
メールマガジン:https://www.waseda.jp/inst/gscenter/more/sns/
学生相談センター(SCC)

早稲田キャンパス 25-2号館6階のカウンター
どのようなことができますか?

早稲田キャンパス内の学生相談センター。個室相談ブースを6部屋設けている
「一人一人、自分らしく」が私たちの合言葉。臨床心理士が対応し、学業や進路、対人関係、心身の健康など、何でも相談できる窓口です。その他、弁護士による法律相談も行っています。
Webサイトには各種相談の予約方法や、学内外のメンタルヘルス情報も掲載しています。最新情報は、学生相談センターのWebサイトをチェックしてください。
利用時のポイント・注意事項
学生相談センターは各キャンパスに分室があり、どこでも利用可能です。相談は対面の他、電話でも実施しています。相談は全て無料で、日本語、英語、中国語に対応しています。外部オンライン相談サービス「cotree」は24時間365日利用可能です。いずれの相談も、予約の上利用してください。
早大生へのメッセージ
心の癒やしを目的とした「アートセラピーグループ」や、発達障がいのある学生同士が支え合う「WADS(WASEDA DEVELOPMENTAL DIFFERENCES SOCIAL GROUP)」も実施しています。困ったときは一人で悩まず、気軽に学生相談センターを利用してください。
基本情報
場所:各キャンパスによって異なります。こちらを確認してください。
開室時間:月〜金曜日 9:15〜13:00/14:00〜17:00
Webサイト:https://www.waseda.jp/inst/scc/
☆ダイバーシティ月間開催中!
現在SDCでは、2025年10月から12月をダイバーシティ月間と称し、多様性を改めて見直すきっかけとなるイベントを複数開催しています。詳細はこちらからチェックしてください。

【次回Special Issue予告】11月10日(月)公開「ワセダ大喜利グランプリ」






