「中学生のときに行った留学先で、進路を決めた出会いがありました」
大学院創造理工学研究科 修士課程 1年 藤川 真智子(ふじかわ・まちこ)
2020年11月より始動した、国際機関日本アセアンセンター主催の 「未来のリーダー達による国際海洋プラスチックごみに対する日ASEAN協力宣言」プロジェクト(以下、日ASEAN協力宣言プロジェクト)。日本とASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国から選ばれた22名の学部生・大学院生が、国際海洋プラスチックごみの課題と政策提言について話し合い、宣言書を作成するこのプロジェクトに、藤川真智子さんは参加しました。翌2021年3月にプロジェクトの宣言式を終え、10月には自身の母校である広島なぎさ高等学校で、海洋プラスチックごみ問題について講演を行うなど、環境問題に真摯(しんし)に取り組んでいます。そんな未来の地球環境を見据える藤川さんに、このプロジェクトでの体験や環境問題に興味を持ったきっかけ、今後の目標などを聞きました。
――まずは、「未来のリーダー達による国際海洋プラスチックごみに対する日ASEAN協力宣言」について教えてください。
環境問題に関連する分野を専攻している、日本とASEAN加盟国の22名の学生たちが、有識者の指導の下、力を合わせて「海洋プラスチック問題」の解決に向けて協力宣言を起案する、というプロジェクトです。各国から選抜されたメンバーで数回にわたりセッションを行い、国際海洋プラスチック廃棄物に対する知識や問題意識をいっそう深めた上で、みんなで宣言を作成しました。ノーベル物理学賞を受賞した東京大学の梶田隆章教授など、錚々(そうそう)たる先生方が学生の講義・指導に当たってくださいました。
――このプロジェクトに参加したきっかけを教えてください。
私が所属する地球・環境資源理工学専攻の大河内研究室では、大気中マイクロプラスチックの調査をはじめ、さまざまな環境問題の研究をしています。昨年、念願かなってこの研究室に入れたものの、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、研究を思うように進められませんでした。そんなとき、大河内博教授(理工学術院)から、私の研究内容に即していると、このプロジェクトを紹介されました。活動の内容もさることながら、環境問題の分野を専攻している海外の同世代の方たちとディスカッションできるという、またとない経験ができることに引かれ、応募を決意。「日本とASEANが海洋プラスチックごみ問題解決のために協働できること」という応募課題の英文のエッセイを執筆し、無事に採用されました。
――国境を越えたプロジェクトということもあり、苦労したことも多かったと思います。
セッションは全て英語、しかもオンラインなので、メンバーとのディスカッションには大変苦労しました。もともと英語は好きですが、ASEAN加盟国出身の他のメンバーと比べて、自分の英語が拙いと感じる場面が多くありました。初めてディスカッションをした際は、みんなの勢いに圧倒されて全く話せませんでしたね。また、内容が専門的なので、自分の意見が細部まで伝わらないことも多々あって…。一筋縄ではいかないと気付いてからは、自分の意見を事前に資料にまとめたり、その日にうまく伝わらなかった意見を補足したメールを送ったりと、いろいろな工夫をしていきました。そうして何度も挑戦するうちに、いつの間にか堂々と自分の意見が言えるようになったことは、どちらかといえばシャイな性格の私にとって大きな成長だと思います。
完成した宣言書には、環境中のプラスチックごみの実態解明と生態系への影響評価や、プラスチックに代わる持続可能な環境に優しい素材の技術革新の必要性など、海洋プラスチックごみ削減を目的とした政策の提言が記載されています。そして、その中に私の研究内容も加えられることになったときは、努力が実を結んだようでとてもうれしかったです。
メンバーはさまざまな分野で研究を行っており、それぞれが確固とした考えを持っていました。彼らと話し合う中で、自分にはなかった意見や考えと出合い、環境問題に関する多くの知見を得るとともに、視野が大きく広がったのを感じています。プロジェクトでは苦しいこともありましたが、メンバーとの出会いはどれも刺激的で、このプロジェクトに参加したからこそ得ることができた、かけがえのないものとなりました。
――いつから環境問題に興味を持ったのでしょうか。
最初のきっかけは、中学生の時に行ったニュージーランドでの短期留学です。2週間ほど滞在したホームステイ先で出会ったホストマザーが、環境問題を心理学の面から研究している大学の教授でした。彼女は徒歩や自転車での通勤をはじめ、自家菜園で野菜を育てたり、休日にはボランティアに参加したりするなど、地球に優しくエコな生活を送っており、その姿がすてきに感じられたんです。彼女と過ごしていく中で環境分野への興味が湧き、「環境問題について知りたい」と思うようになりました。大学選びの際は、環境問題について勉強できる学部があることが最優先事項で、中でも創造理工学部の環境資源工学科に大変魅力を感じました。そんな経緯で、現在も早稲田で環境問題の研究を続けています。
――では、現在取り組んでいる研究内容や研究室での活動について教えてください。
洗剤や柔軟剤の中に含まれているマイクロカプセルというものを研究しています。マイクロカプセルには、中に合成香料を閉じこめることで香りを持続させる効果がありますが、このカプセルがめまいや吐き気などを引き起こす、いわゆる「香害」や化学物質過敏症の原因の一つになっているんです。また、洗濯によって衣類に付着したマイクロカプセルが大気に出ていくことで、環境にも悪影響が及ぶと考えられています。私の研究では、その二つの観点から、マイクロカプセルがどのような影響をもたらしているかを調査しています。
所属している大河内研究室は大気中マイクロプラスチックの調査に力を入れています。私たちが無意識に大量に使っているプラスチックは、海洋だけでなく都市や遠隔地の大気にも及んでいることが明らかになり、さまざまな場所の大気を定期的に調査しています。2週間に一度は富士山のふもとに行ってサンプリングを行っていますし、夏には富士山の山頂まで登って、データを取ることも。研究室はとてもアットホームな雰囲気で、上下関係もなく、みんなで協力して研究を進めています。
写真左:富士山中腹の太郎坊にて雨・霧水などをサンプリング
写真右:福島県森林内の放射能汚染調査の様子。防護服を着て川砂や落葉を採取
――最後に、今後の目標について教えてください。
現在、日本アセアンセンター主催の「広島ASEAN・エコスクール」というプロジェクトに参加しています。海洋プラスチックごみ問題について、若い世代にも知ってもらおうという趣旨のもので、2021年9月から始まりました。広島県内の小学校や高等学校、そしてフィリピンの学校向けのオンライン講義を行っており、冬季期間には、講義を通じて問題意識を共有した日本とASEAN地域に住む生徒たちを招いてディスカッションをし、意見交換を行うシンポジウムの開催を予定しています。参加してくれた生徒たちが、環境問題に興味を持つきっかけになるようなプロジェクトにするべく、準備にまい進しています。
また、今後は研究テーマの深化にも力を入れていきたいです。これまでの調査に加えて、今後はマイクロカプセルが生活空間にどんな影響を及ぼしているかについても調査していきたいと考えています。例えば、マイクロカプセル入りの柔軟剤を使って洗濯した衣類を室内干しし、その部屋の空気をサンプリングするなど、現在行っている研究とは違ったアプローチ方法を模索しています。香害に関しては、まだまだ研究を始めたばかりで分からないことだらけですが、着実に一歩一歩研究を進めたいと思っています。
第804回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
法学部 2年 佐久間 隆生
【プロフィール】
広島県出身。広島なぎさ高等学校卒業。地球環境資源理工学の大河内研究室に所属。研究室のスローガンは「ONE TEAM」。食べることが好きで、休日は友達とカフェ巡りをしている。料理教室にも通っており、夕食は自炊することが多いという。