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賢いメディア・ユーザーを育てる

早稲田大学人間科学学術院教授 竹中 晃二(たけなか・こうじ)

新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、いまだ収束のめどがたちそうにありません。社会では、3密を避けながら経済活動を続ける方法としてテレワークが奨励され、さらに外出制限が続く中で、インターネット、オンラインゲーム、SNSなどの利用が幅広い年齢層で普及しています。子ども・青少年の間では、感染拡大に伴って学校の休講措置や分散登校などが実施されたことで、自宅でスマートフォンやタブレットを利用する機会が増加し、以前にも増してSNS絡みなどで犯罪に巻き込まれるケースが増加しています。また、オンラインゲームなどの使用過多によって、例えば学習の遅延や健康阻害なども指摘されています。そのため、子どもや青少年に対して、SNSやゲームに接する時間を制限する条例を設ける自治体も現れ、その賛否については専門家の間で意見が分かれているところです。

私たちは、現在の子ども・青少年のメディア利用に関して制限や取り締まりを行うこととは別の視点を持っています。その視点とは、自身でメディアへの制御能力を強化できるようにさせるメディア・エンパワメント教育プログラムの開発です。「エンパワメント」とは、広義に、人びとに夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来持っている生きる力を湧き出させることと定義されています。「エンパワメント」は、一般に、個人や集団が自らの生活への統御感を獲得し、人々を取り巻く組織、社会、環境に影響を与えること意味します。そこで、『メディア・エンパワメント』では、主に健康心理学の領域における理論的洞察に基づいて、子ども自身の考えや感覚によってメディアが持つ影響力に気づかせ、そのことで彼らのメディアに関わる感情や行動を制御できるようにしようとしています。

現状や将来を見据えたメディア対応アプローチの必要性

出生時から10代の青年期に至る子どもたちは、早期から様々な情報通信媒体、例えばコンピューター、タブレット、スマートフォンなどを通してメディアの世界に慣れ親しんでいます。彼らは、早期から「あって、あたり前」の中で育ち、逆に中高年世代がこれらメディアの開発初期に見聞きし、その初期段階から試行錯誤的に利用してきた経験とは大きく異なっています。しかも、彼らは、次から次へと様変わりし、発展を遂げる新しいメディアの開発過程に触れながら、きわめて早いスピードで順応していきます。現在、メディアを媒体とするサービス、例えばオンライン・ゲーム、動画配信サービス、交流サイトは、子どもたちに娯楽、教育、コミュニケーションを目的に多岐にわたる有益情報の取得や活動実践を行わせ、彼らの意思を同世代のみならず他世代にもつなぐ接触ツールとして貴重な機会を提供しています。しかし、成長段階にある子どもたちには様々なメディア関連の問題が待ち受けており、単に規制するだけではなく、彼らの将来にも適合する取り組みが必要とされています。

教育利用を目的とするメディア利用の試みは、現在、小・中学生を対象として、学習支援サービス機関などを中心に民間レベルで進んでいるほか、文部科学省が構想するGIGA(Global and Innovation Gateway for All)もコロナ禍において動きが加速化しています。これらの普及のスピードには、地域差があるにせよ、近い将来、教育のIT化が大きく前進することは間違いありません。そのため、節度あるメディア利用のルールづくりや自己制御の方法を示しておく必要があります。

一方で、刻々と変化するメディアの様相に適応し、メディアの意図を理解しながら、柔軟に対応できる「健全なメディア発・受信者」に育てることも求められます。メディアは、現在、従来型のマス・メディアから、対象や興味によって分割化されたメディアへ、そして個人の興味に適合し、個別化されたメディアへと進化を遂げています。今後、メディアの形や仕組みが加速度的に変化していくことが予測され、禁止や規制を行うよりはむしろメディアの安全な使い方を自主的に学ばせることを優先すべきです。

メディア・エンパワメント教育プログラムの紹介

私たちは昨年度、教員が学校において利用できる教育プログラムを考えました。その中でも、教室で子どもに視聴させる2種類の動画と教員用教育マニュアルをご紹介しましょう。

1. 動画制作

1)「気持ちを上手にコントロールする仕組み」:熱くする君キャラクター(大脳辺縁系の働き)と冷ます君キャラクター(前頭前野の働き)を用いてメディアに対する衝動的感情やすぐさまの行動について説明する動画。

2)「気持ちを上手にコントロールするコツ」:メディア利用に伴って生じる衝動的な行動とその行動を自制する仕組みおよび自己制御方略を解説する動画。

2. プロトタイプの教員用マニュアルの開発

教員が子どもに教授できるマニュアルを準備し、①プログラムの目的・内容、②メディア利用の現状、③メディア・広告制作者の意図・戦略、④メディア利用に関わる感情の表出、および⑤感情コントロールの方法、のそれぞれをレッスンとしてマニュアル化しました。

最後に、私たちは、子どもたちに対して、現在のみならず将来において「賢いメディア・ユーザー」に育てることを目的に、メディア・エンパワメントの強化を目的とした介入プログラムの開発および評価を行っています。現在、研究をさらに進めるために、神経生理学や認知心理学など幅広い専門分野の研究者14名で共同研究(2021年度人間総合研究センター研究プロジェクト拠点形成支援型「メディア対応能力の強化に関する包括的支援システムの開発」)を始めたばかりです。成果にご期待ください。

竹中 晃二(たけなか・こうじ)/早稲田大学人間科学学術院教授

1975年早稲田大学教育学部卒業。
1990年Boston University大学院博士課程修了。
Doctor of Education(Boston University)、博士(心理学)九州大学。
関西学院大学助教授、岡山大学助教授、早稲田大学人間科学部助教授を経て1997年4月より現職。

専門:健康心理学、応用健康科学

主な著書
・健康心理学. 北大路書房
・アクティブ・ライフスタイルの構築―身体活動・運動の行動変容研究―. 早稲田大学学術叢書、早稲田大学出版
・運動と健康の心理学. 朝倉書店
・ストレスマネジメント-「これまで」と「これから」. ゆまに書房
・日常生活・災害ストレスマネジメント教育-教師とカウンセラーのためのガイドブック-. サンライフ企画
・アクティブ・チャイルド60 min.-子どもの身体活動ガイドライン-. サンライフ企画

※当記事は「WASEDA ONLINE」(2021年9月27日掲載)からの転載です。

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