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“らしさ”引き出すメイクアップアーティスト・レイナ 遠回りしてつかんだ夢

メイクも生き方も、気になる点を隠すより自分らしさを伸ばすべき

メイクアップアーティスト レイナ

東京・恵比寿にある自身のメイクアップサロンCrystalline(クリスタリン)にて

幅広い年齢層の女優やタレント、文化人、一般の方まで、これまでメイクを施した人数は1万人以上。「その人らしさを生かしつつ、隠れた魅力を引き出すメイク」を得意とするメイクアップアーティスト、レイナさん。そんな彼女が早稲田大学に進学した理由、在学中に気付いたこと、卒業後に見つけた可能性の広げ方とは? コスパ重視の世の中だからこそ、「遠回りをしたから今がある」と語るレイナさんの生きざま、考え方は必見だ。

早稲田で気付いた「やっぱり私はメイクがやりたい」

小学生のときに化粧品の魅力に目覚め、中学生になると、もう将来の仕事として「メイク」の道を志していたというレイナさん。ただ、両親の反対もあって大学進学の道を選んだ。

「『メイクの専門学校に行きたい』と親に言ったら、『4年間大学に行って視野を広げて、それでもまだやりたいのだったら…』と説得されて進学することに。今となっては親に感謝ですが、当時は遠回りしているように感じました」

自由な校風に惹(ひ)かれて早稲田大学に入学したレイナさんは、商学部で国際マーケティングマネジメント論を専攻。早稲田での生活は実際に自由を満喫できるものだったが、それでも違和感は拭えなかったという。

ゼミの同期との1枚(2列目左端が太田正孝教授、前列中央がレイナさん)

「小学生の時に塾で習った『鶏口牛後』の教え、つまり、大きな組織の末端にいるよりも、たとえ小さな組織でもそのトップを目指すべき、という考え方を思い出しました。早稲田には勉学において私よりもすごい人がたくさんいる。『ここじゃ戦えない』と思ったんです。自分だけの力で戦える場所、私自身を認めてくれる場所はどこだろうと考えた結果、『やっぱり私はメイクがやりたい』と再認識できました。そこで、ダブルスクールで頑張りたいと両親に直談判しました」

ゼミと就職活動で忙しいはずの3年生後半、レイナさんは夜間のメイクアップスクールに通ってメイク術はもちろん、呼吸法や正しい姿勢、顔の骨格や表情筋の仕組みなどを基礎から学んだ。

「周囲からは、私は変人扱いでした(笑)。『レイナは何になるの?』『そんな仕事で食べていける保証は?』と言ってくる人もいましたね。ただ、自分の選択に疑いはゼロでした。当時は金融危機。大企業でもつぶれる可能性はある。確実に保証された人生なんてどこにもないなら、失敗するかもしれないけれど、やらないで後悔するより、やってみて自分で責任を取った方が気持ちがいいな、という考え方でした」

写真左:メイクアップサロンCrystalline(クリスタリン)でのプライベートメイクレッスンを行うレイナさん
写真右:サロンにはさまざまなブランドのコスメが並ぶ。中には発売前の新色も

徒弟制度にも似たメイクアップアーティストの世界で、レイナさんは卒業後、百貨店の化粧品販売員としてキャリアをスタートさせた。もっとも、その道は新卒採用ではなく、自ら切り開いたものだった。

「いずれフリーランスになりたいと思っていましたが、そのための準備として、給料も得ながら多くの人の顔に触れ、技術が磨けて、化粧品や仕事道具もそろえられる仕事は何だろう? と考え、店頭で働こうと決めました。そこで、私自身がよく利用していたコスメブランドRMKに電話をして、『採用してください!』と自らを売り込みました。きっと私の勢いがすごかったんでしょうね(笑)。募集予定はなかったのに『履歴書を送ってください』と言われて、契約社員として採用されました」

『眉の本』(光文社)マスク着用が日常化し、「眉メイクこそ大切」と言うレイナさんの最新刊。眉の描き方をロジカルに分かりやすく解説する1冊

販売員時代は、客層の違う3つの百貨店でカウンセリングやアドバイザーをする傍ら、百貨店バイヤーとの交渉や店舗運営など、さまざまな経験を積んだレイナさん。3年後、本社勤務の誘いを受けるまでに成長を遂げたものの、それを断りフリーへの転身を決意した。

「商学部時代、マーケティングやマネジメントを勉強したおかげか、そういった部分でも評価をいただけました。でも、やっぱり私は人に触れたい、メイクをしたい…。何の保証もないフリーの道を選ぶことに迷いはありませんでした。『信念を貫く』というのは早稲田に通っていたころから、知らずに身に付けたことかもしれないですね」

「早稲田という遠回り」が今では一つの財産に

自ら「何の保証もない」と語るメイクアップアーティストの仕事。だが、今のレイナさんは女優、モデル、作家と、幅広い分野のクライアントから指名が殺到する状態だ。どうやって仕事の幅を広げてきたのだろうか?

「この仕事は、本当に技術とご縁とご紹介だけ。まさにご縁だなと思ったのは、RMKを辞めるタイミングでSUQQU が新たに立ち上がったのですが、ブランド責任者として、ヘアメイクアップアーティストの第一人者、田中宥久子さんが就任されたこと。田中さんがアシスタントを探しているということで、お声掛けいただけたんです」

ある化粧品会社の新製品発表会でのメイクショーの様子

それ以外にも自らを売り込むべく、仕事がなかった期間には知り合いのモデルや知己のカメラマンに協力してもらい、「BOOK」と呼ばれる自分の作品集づくりに励む日々が続いた。

「ある日、そのモデルから『レイナちゃんのメイクに興味がある出版社があったよ』と連絡をもらいました。彼女も自分のBOOKを作っていて、その9割は私がメイクしたもの。それを見た編集者が『どれもが違う人物に見える』ということで興味を持ってくれたんです」

声を掛けてくれたのは小学館の美容雑誌『美的』編集部。その編集者と顔を合わせたところ、なんと田中宥久子さんの仕事を通しても会ったことのある人物だった。まさに縁が円としてつながったのだ。

「私は、周りの方に名前で呼ばれるフリーランスになりたかったんです。仕事を得るきっかけはご縁ですが、それを継続し、さらに広げていくには『自分なりの強み』を持つことも大切です。私の場合、別人に作り変えるメイクも得意ですが、それ以上に『その人らしさを生かしつつ、隠れた魅力を引き出すメイク』を得意とすることでしょうか。あとは『自分だけのパイを作る』発想も必要です。ライバルが多いと、必然的にパイを奪い合って自分の取り分は小さくなる。それよりも、誰も食べていないパイを作ればいいんだと気付いたんです」

クライアントの方々と。写真左:僧侶で作家の瀬戸内寂聴さん(左)、60歳差の秘書で文筆家、TVにも出演される瀬尾まなほさん(右)と。お二人の共著の表紙のヘアメイクを担当 写真右:元女子プロテニス選手で現在はテニス指導者・スポーツコメンテーターの杉山愛さん(左)と

レイナさんの見つけた「独自のパイ」の一つは、文化人のメイクを多く手掛けることだ。

「文化人からのご依頼が多いのは、遠回りしてさまざまな経験を積んだことも幸いしているかもしれません。実は、大学時代のことをコンプレックスに思っていた時期もありました。『遠回りしてしまったな』と。でも、今でも早稲田の同期と時々会うのですが、違う世界で活躍している仲間の話はとても参考になります。もしメイクの世界だけを歩んできたら、存在し得ない人脈が私にはあって、それが今ではすごく財産だと思っています。早稲田は『人との出会い』という財産がたくさんある場所ですからね」

自身が出演するCMの撮影風景

メイクとは人に自信を与えるもの。人が変わる瞬間に立ち会えることが醍醐味(だいごみ)、と語るレイナさん。その目線から、学生が自信を持って学生生活を送るためのメイク術と生き方のヒントをもらった。

「メイクもそうですが、気になる点を隠すのではなく、一つでもいいところを伸ばした方がいいです。コンプレックスに思う部分って、意外と周りの人は見ていないもの。大事なのは人と比べないこと。人と違うからすてきなんです。その上で、どうしても気になるところだけをメイクで、もしくは自分の好きなことや得意なことで補えばいいんじゃないでしょうか。性別に関係なく誰でも、まずは自分を認めてあげることから始めてみてください」

出張でのグループレッスンの様子(2019年)

取材・文:オグマ ナオト(2002年第二文学部卒業)

撮影=石垣星児

【プロフィール】
東京都出身。早稲田大学商学部卒。大学在学中にメイクアップスクールに通う。大学卒業後、化粧品会社勤務を経て、2006年よりフリーランスのメイクアップアーティストとして活動。完全予約制のメイクアップサロンCrystalline(クリスタリン)を主宰し、プライベートメイクレッスンやグループレッスンを行う。「美容を通じてより多くの人々のお役に立つこと」がテーマで、大きな目標は「学校を作ること」。内(心)と外(メイク)の両面をケアできるメイクアップアーティストの育成を目指して、プロ向けのメイク教室、研究室にも携わっている。「メイクをすることによって、外側だけでなく心が元気になる。自信が持てる。そのことを体現できる人材を育てていきたいと思っています」。
YouTube:REINA channel
Instagram:@reina.official

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