「大学で学んだことを今後のバレエ界の発展につなげたい」
人間科学部eスクール 4年 藤室 真央(ふじむろ・まお)
バレエ文化が深く根付くロシアにある、世界最高峰の国立バレエ学校「ワガノワバレエアカデミー(以下、ワガノワ)」に3年間留学し、現在はロシア・ペトロザボーツクのカレリア音楽劇場バレエ団に在籍している藤室真央さん。バレリーナとして活躍するだけでなく、SNSなどを通してバレエに関する情報を発信し、さらには人間科学部eスクール(以下、eスクール)で学びを深めています。そんな藤室さんに、バレエを始めたころの話やロシアでの生活、今後の目標について聞きました。
※インタビューはオンラインで行いました。
――バレエを始めたきっかけを教えてください。
幼少期に地元のスイミングスクールに通っていたのですが、そこにはバレエ教室が併設されていました。自分と同世代の子が、キラキラしたかわいい衣装を着てバレエを踊っているのを初めて見たときに、「私がやりたいのはこれだ!」とアンテナが動いた感覚があって(笑)。母に1年間頼み続けて、5歳でやっと始めることができました。そのころからずっと、将来の夢はバレリーナになることだったんです。
――一途にバレエに取り組んできて、高校3年生からはワガノワで3年間学んだそうですね。なぜそのタイミングでロシアに留学したのでしょうか?
バレエを始めたばかりのころに、ワガノワのレッスンビデオを見て、この学校に入りたいと思ったんです。最初はぼんやりとした夢だったものの、徐々に自分の中で将来のプランとして検討するようになりました。
そして中学3年生のとき、日本でのワークショップをきっかけに、ワガノワに短期留学することになったんです。短期留学の間、他のバレエ学校でもレッスンを受けたのですが、やはりワガノワが自分の踊りや性格に一番合っていると感じました。ワガノワの先生が「この学校で学んでみたら?」と誘ってくださったこともあり、3年間の留学を決めました。ただ、当時ワガノワへの入学は年齢制限があったことや、私自身が高校を卒業したかったことも踏まえ、短期留学から3年後の夏に留学しました。
――その後、カレリア音楽劇場バレエ団に所属して5年となります。ワガノワでの経験は今にどのような形でつながっていますか?
ワガノワに留学した当初は、手足が長く、身体的条件に恵まれているロシア人の中で、劣等感があったことを覚えています。でも、途中で「そんなことを考えても仕方ない!」と思い始めました。スタイルは変えられないものですから。そこで、少し発想を変えて、ロシア人にはない「自分の強み」を探すようにしました。当時、私は先生からジャンプの動きを褒められることが多かったので、そこからさらにジャンプの練習を増やして研究し、極めていきました。カレリア音楽劇場バレエ団に入ってからも、ポジティブ思考でいられたり、ジャンプが多く入った役をいただけることが多かったりするのは、ワガノワでの経験があったからこそだと感じています。
――この1年は、新型コロナウイルス感染症がバレエに及ぼした影響も大きいと推測しています。
ロシアは、誰もが気軽に公演を観に行くほどバレエ文化が根付いた国。しかし、コロナ禍でバレエ団の公演が全てキャンセルになってしまい、去年の5月に日本に帰国しました。今までは毎日舞台でバレエを踊っていたのが、突然できなくなってしまい、動きが鈍っている感覚があります。技術があまり衰えないように日本でも練習はしていますが、やはりロシアにいたころとはだいぶ違いますね。
一方で、日本に帰ってきて経験できたことや、新しい出会いも本当にたくさんありました。例えば、SNSやYouTubeを通じてバレエの情報を多く発信するようになりました。きっかけは、フォロワーの方々がたくさんの悩みや相談をくださるようになったこと。私自身も留学前は、バレエの技術や感覚に対してずっと一人で悩んできたので、私が今まで習得してきたことを伝えて、少しでも解決のヒントになればと思っています。
YouTubeでは踊りの技術や普段の生活などを発信している。チャンネル登録者数は1万人を超えたという
現在バレエ団は公演を少しずつ再開しています。私はロシアにいつ戻れるか分からない状態ですが、バレエ団とは来シーズン(2021年の8月ごろ)から再契約予定です。
――早くロシアに戻れるよう願っています! では、カレリア音楽劇場バレエ団に所属しながら、早稲田へ進学した理由は何でしょう。
バレリーナは寿命が短い職業です。今日けがをしてしまって、明日から踊れなくなる可能性もあると考えたとき、セカンドキャリアのための準備はしておこうと思い、大学進学は視野に入れていました。もともとは入学を急いでいなかったのですが、高校の友達が大学に進学し、いろんな世界に羽ばたく姿を見て、「自分はバレエ団に就職して、その世界しか知らないまま終わってしまうのではないか」と少し取り残された気持ちになりました。
そこで、自分も早く視野を広げるべく、大学の情報を集めたところ、人間科学部eスクールを見つけました。最初は「人」を「科学」する、という学部の名前に引かれました。いろいろ調べていくうちに、バレエは人が踊るものだから、バレエと科学をうまくつなげたら、何か新しいことができるのではと考え、受験を決めました。実際に入学する前と今では考え方も変わりましたし、自分の中の引き出しも増えたと思います。
――バレエ団で活躍していると、学業との両立は難しいのでは?
ロシアにいるときは、突然出演が決まることもあり、翌日のスケジュールも分からないことが多いので、学習計画が全く立てられなかったことに難しさを感じていました。早め早めを心掛けて、週の初めに詰め込んで課題をこなすことが多く、もう少しコツコツ学べたらと思ったこともあります。仕事と学業の両立はもちろん大変なのですが、私は中学・高校時代に毎日往復5時間くらいかけて学校まで通ってたんです。移動時間がないeスクールは、それに比べたら空き時間を有意義に使えて快適です(笑)。
4月からは4年生になり、三浦哲都准教授(人間科学学術院)の「パフォーマンス認知科学」のゼミに所属しました。誰もがよりバレエを踊りやすくするために、万人が実践できる方法は何かを探求しています。ここまで直球でバレエを研究できるとは思っていなかったので、とてもうれしいです。
――今後、早稲田での学びをどう生かしていきますか?
私の研究が、今後のバレエ界の発展に結び付けばと思っています。バレリーナとしての道を終えたら何をするかは、まだ明確には決めていないのですが、教える立場には就きたいと考えています。大学で学んだ知識や研究成果を、将来のバレリーナたちに伝えていきたいんです。自分だけでなく、子どもたちの今後のバレエ人生を良いものにしていけるよう、あと1年間学び続けます。
私は何をするにも期限が絶対にあると感じていて、「考えたときに即行動」という考えをとても大事にしています。留学を決めたときも、大学進学を志したときもそう。「やらない後悔」よりも「やってしまって後悔」の方が絶対にいいはず。この先の人生で、今この瞬間が一番若いと思って、やりたいことには全部挑戦し続けたいですね。
第787回
取材・文:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
社会科学部 3年 勝部 千穂
三重県出身。立命館宇治高等学校卒業。高校3年生でロシアの「ワガノワバレエアカデミー」に3年間留学し、21歳でロシア・ペトロザボーツクにあるカレリア国立音楽劇場バレエ団に入団。活動拠点のペトロザボーツクでは自然が満喫でき、ショッピングも楽しめるなど、田舎と都会のバランスが良くて住みやすいと話す。趣味は料理やお菓子作りで、ロシアでも和食を自炊している。好きな言葉は「石の上にも三年」。
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