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バイデン政権が直面する2つの課題

早稲田大学 政治経済学術院 教授 吉野 孝(よしの・たかし)

(1)2020年大統領選挙の意味

2020年のアメリカ大統領選挙において、民主党のバイデン候補が当選した。結果は一般投票で<8,127万票対7,422万票>、選挙人投票で<302票対232票>であり、バイデン候補の明らかな勝利であった。しかし、トランプ大統領が敗れたとはいえ、彼の得票数が減少したわけではない。一般投票の内訳をみると、トランプ大統領は2016年選挙よりも1,000万票以上得票を増やしている(表1)。結果はまさにアメリカ政治の分極化を象徴するものであり、トランプ大統領が最後まで敗北を認めようとしなかった理由はここにある。

また、今回の選挙では、新型コロナウイルス感染拡大とそれにともなう景気後退が選挙運動の方向とトーンを大きく変化させたことが注目される。2020年1月までは、高い経済成長率が予想され、また失業率も低く、トランプ大統領の再選は当然のこととみなされていた。2月以降、新型コロナウイルス感染が拡大し、景気後退が明確になると、トランプ大統領への批判が強まり、人種差別問題も大きく取り上げられた。結局、今回の大統領選挙の結果を決定づけたのは、トランプ政権の新型コロナウイルス感染対策および経済への不満の大きさであったと言うことができる。

(2)バイデン政権の課題1:政治の分極化の克服

バイデン大統領は就任演説で、コロナ禍、不平等拡大、人種差別激化、気候変動、世界における役割の低下などアメリカが直面する重要問題を指摘しつつ、<国民が希望のもとにまとまる>ことを訴えた。大統領はまず、トランプ政権の移民政策に関する大統領命令を撤回すると同時に、新型コロナウイルス感染対策のために新規命令を発した(表2)。また、大統領は連邦議会に大型経済対策の実施を要請し、連邦議会は総額1.9兆ドル(約200兆円)に上る追加経済対策法案を可決した。ただし、これら以外の政策に着手するのは簡単ではない。なぜなら、バイデン支持の活動家は多様性重視、不平等是正、人種差別反対、環境保護などを要求してはいるものの、これらには強い反対意見が存在し、国民から合意をえることは容易ではないからである。

アメリカ政治を考える上で忘れてはならないのは、アメリカが異なる考えをもつ多様な人々が集まった移民大国であり、重要政策の実施には国民の間での合意の形成が必要である、という点である。アメリカの大統領選挙運動では、左派であれ右派であれ過激な政策要求を掲げる活動家が候補者を支持することが多い。しかし、たとえそのような活動家から支持された候補者が当選したとしても、活動家の要求は受け入れられず、実際の連邦議会の法案作成では何らかの妥協に終わることが多い。<活動家による特定政策理念の提示→連邦議会における妥協に基づく政策形成→活動家の不満>というサイクルの繰り返しがアメリカ政治の現実であり、政治の分極化がこのような政治不満を背景にしていたことは言うまでもない。

もしバイデン大統領が本気で<国民が希望のもとにまとまる>ことを望むなら、たとえ党派的政策を一時的に棚上げしてでも、アメリカの中産階級の復活と育成を大方針に掲げ、民主党と共和党の中道派議員からの支持をまとめる必要がある。もし大統領が中道派の代表を自認するなら、中道派議員の数を増やし、選挙のための中道派連合を形成しなければならない。現在、大統領は、左派リベラル活動家と保守派投票者の間で苦悩している。新型コロナウイルス感染の拡大が抑えられ、経済対策の効果が出はじめたとき、大統領は、移民、多様性、不平等、人種差別、環境などの領域で、どのような政策をどの程度にまで実施するのかについて決断を迫られることになろう。

(3)バイデン政権の課題2:国際協調主義への復帰

バイデン候補は選挙運動期間中から国際協調主義に戻ることを主張し、大統領就任後、「国際社会への復帰」を宣言した。しかし、これにより停止状態にあった国際機関や取り決めが動き出すわけではない。すでにオバマ政権時から、中国、イラン、北朝鮮が関係する通商や核合意問題に関して国際協調主義のもとでの決定が停滞し、国際協調主義に基礎をおく仕組みが形骸化していた。この事実を考えると、トランプ政権による国際協調主義の放棄と「アメリカ第1主義」の訴えは、そのような国際的現実への政治的対応であった。したがって、もしバイデン大統領が国際協調主義への復帰を目指すなら、中国のような覇権国家も尊重せざるをえない「新(リベラル)世界秩序」を構築する努力をしなければならない。

アメリカは,国内および国際政治の両方において大きな政策転換の時期を迎えている。アメリカが分断のない魅力ある自由な国家として成長することができるのか、また、国際社会で重要な役割を演じるプレイヤーとして生き残ることができるのかは、これからの政権の決断と実行力にかかっている。まさにバイデン政権はその入り口に立っている。

吉野 孝(よしの・たかし)/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】
1954年長野県生まれ。1978年早稲田大学政治経済学部卒業。1988年早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程修了。早稲田大学政治経済学部助手、専任講師、助教授を経て、1995年より現職。この間、1984年7月から86年6月までウィスコンシン大学(マディソン)政治学大学院留学。1991年3月から93年3月までジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)客員研究員。2010年から早稲田大学日米研究機構長、2015年から2016年まで、2018年から早稲田大学地域・地域間研究機構長。専攻は、英米政治学、政党・選挙、アメリカ政治。

【主著】
『アメリカの社会と政治』(共著、有斐閣、1995年)、『現代の政党と選挙』(共著、有斐閣、2001年、新版2011年)、『誰が政治家になるのか』(共著、早稲田大学出版部、2001年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著、東信堂、2014年)、『論点 日本の政治』(共編著、東京法令出版、2015年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」:社会経済変化からトランプ現象へ』(共編著、東信堂、2020年)などがある。

※当記事は「WASEDA ONLINE」(2021年3月22日掲載)からの転載です。

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