せっかくの機会なので、近年の研究関心であるエチオピアのインクルーシブ教育について触れたい。
1994年の「サラマンカ宣言」によるインクルーシブ教育とは、「すべての子どもは教育を受ける基本的権利を持ち、各々が持つ特別な教育ニーズに考慮された教育の機会が通常学校で与えられなければならない」とされた。さらに2015年に合意された「持続可能な開発目標(SDGs)」の影響もあり、国際的にインクルーシブ教育が急速に広がっている。
ヨーロッパの多くの国々では、障がい児のインクルーシブ教育推進のため、特別学校を閉鎖している。開発途上国の多くは、このような国際的な動きの影響を受け、準備がないまま特別学校を閉鎖し、必要なサポートなしに障がい児が通常学校に就学している。
それに対して、エチオピアでは、特別学校の閉鎖ではなく、特別学校に在籍していた障がい児をそのまま残し、健常児を迎え入れるという方法で、通常学校への一元化が進んでいる。その学校の生徒の大多数は障がい児である。現在は通常学校となった旧特別学校に在籍する健常児の親は、旧特別学校の教育環境に対して価値を置いている。例えば、旧特別学校は、一クラスの生徒数が少人数であり、教員が生徒一人一人に配慮できる環境が整っている場合が多い。私立学校に就学できない貧困家庭の子どもにとっては、配慮のある質の高い教育を享受できる場になっている。
グローバル化や国際的な援助潮流の影響で、各国に合わせた対応が難しくなっている状況があるが、その国の事情や文化を考慮した文脈化があらためて求められていると感じている。
(T)
第1084回