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人間が見いだされる時

フランスの哲学者、ブリュノ・ラトゥールは、4月初頭、ラジオのインタビューに応え、COVID-19の感染拡大を1968年の五月革命に比した。世界規模で経済活動を停止させた今回の危機は、我々に日常を考え直すチャンスを与えてくれる、と彼は語る。

かつて、ドイツの哲学者、ハイデガーは、Bestand(「在庫」)という奇妙なドイツ語を用い、科学技術の問題を考察した。技術は、それが関わる素材をBestandとして駆り出していく。山は、鉱山として捉えられるとき、山であることをやめ、Bestandとなる。人間は、人材として捉えられるとき、人間であることをやめ、Bestandとなる。技術が扱うBestandとなることにより、ものは、経済的な有用性を持ち始める。いつしか、因果関係で結ばれるあらゆるものが、より大きなBestandの歯車の一部となっていき、我々は、自分自身もが、その一片となっているのを見いだす。しかし、今般、世界規模の感染症の拡大は、経済活動を停止させるとともに、あらゆるもののBestand化に歯止めをかけた。

同時に、感染症の拡大は、行政が社会的弱者を黙視することの不可能性をもあらわにした。というのも、弱者の間で感染が広がれば、それは翻って社会を直撃するからである。これにより、誰もが自らの過去(労働)に応じて現在(報酬)を得るという考え方にもとづき正当化されてきた、弱者に対する無関心は、見直される時が来るだろう。それはまた、Bestandではない仕方で、人間が見いだされる時でもある。

(mn)

第1075回

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