以下は本学を去り行く者から学生諸君への遺言である。
競争は手段にすぎず、目的ではない。競争とは本質的に椅子取りゲームであり、少数の〈成功者〉の背後で無数の〈敗残者〉を構造的に生み出す。彼らは〈人為的に作り出された敗者〉なのであり、挫折感や劣等感などは本来故なきものである。そこで諸君には、競争に振り回されず、自らの特性や身の丈に合った居場所を見つけて幸せな人生を送ってほしい。
資質や生育環境などに恵まれた諸君の多くとは逆に、人生の最低限の出発点に立つことさえ困難な星の下に生まれた人も少なくない 。自らがその一人であった可能性にも想像力を働かせてほしい。豊かな資質や能力などは自分のためのみならず、そうではない人たちのためにも使うべきものである。これは恵まれた者の義務である。
学生と社会人の最大の違いは、前者が自分第一でいられるのに対して、後者では自分のことは後回しという点である。今はこの特権を生かして自分を育てればよい。しかし数年後には、これまで多くの方々のお世話になってきた諸君も、今度は一転して後に続く者の面倒を見る立場となる。そのときは、これまでに受けた恩義は彼らに返済されたい。知や面倒見は世代間贈与である。
かくして諸君に必要なのは所与の条件への一方的適応だけではなく、ゲームのルールそれ自体をも問う懐疑と相対化、そして内省し共感する能力である。大学はこれを身に付ける所である 。
最後に「大衆は騙(だま)されたがっている」ということばを贈る。自戒されたい。
(準混合列車)
第1070回