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電気で動く乗り物 ~鉄道とクルマの未来~

早稲田大学 理工学術院 教授 近藤 圭一郎(こんどう・けいいちろう)

1968年東京都生まれ。1991年早稲田大学理工学部電気工学科卒業。同年鉄道総合技術研究所入所、2007年千葉大学工学部助教授、同工学研究科教授を経て、2018年より早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科教授。博士(工学)、技術士(機械部門、総合技術監理部門)、IEEE Member、電気学会上級会員、自動車技術会技術担当理事、日本鉄道車両機械技術協会顧問。編著書に「鉄道車両技術入門」(オーム社、2013年)など。

1.クルマは20年、鉄道は100年

20世紀に入って、クルマは化石燃料による内燃機関で、また鉄道は電気によるモータ駆動で発展しました。この違いはエネルギー供給方法に起因します。線路という線に沿って一次元で動く鉄道では、上に電線を張ることで、動く車両に比較的容易に電力を供給できます。一方、平面という二次元の運動自由度を持つクルマは、電力供給が容易でなく、エネルギー的に自立する必要があります。そこで、エネルギー密度が高く、しかも供給も容易なガソリンや軽油などの化石燃料を積むことで、これを実現しています。しかし、20年くらい前からクルマも電気で動くようになりました。これはひとえに電池という、自立して電気を取り出せる装置が発展したことによります。言い換えると、電力供給の問題さえ解決されれば、クルマも(鉄道も)電気で動かすのが良い、ということを物語っています。

2.パワーエレクトロニクス・モータ制御技術の果たす役割

私が専門としているのは、電気工学の中のパワーエレクトロニクスやモータ制御という分野です。パワーエレクトロニクスとは、半導体のスイッチ(パワースイッチングデバイス)を高速・高頻度にON/OFFすることで、小型軽量な装置で電力を直流・交流相互で変換したり、あるいはそれぞれの大きさを変えたりなど、電力の属性を瞬時に変える技術です。またモータ制御とは、モータにする電力制御し、思い通りの力(トルク)を瞬時に発生させる技術です。これらの技術により、電気をエネルギー源として利用することと相まって、小型で大出力な動力発生機構、即ちモータ駆動システムが実現できました。このおかげで、ハイブリッド電気自動車(図1)のような、エンジンとモータ両方の駆動システムを搭載したクルマや、新幹線(図2)のような、高速化に不可欠な小型軽量で大出力の駆動システムを搭載した鉄道車両が実現出来ました。このような電気でクルマや電車などの移動体を動かす機構を「電動モビリティシステム」と呼び、私達の研究室の名称にもなっています。

図1(左) 車載エネルギーは化石燃料のプラグインハイブリッド車(写真提供:共同通信社)
図2(右) 電気駆動だからこそ実現できる高速運転(写真提供:共同通信社)

3.電動モビリティ技術の実現すること

図3 電気鉄道や大型自動車を想定した大容量非接触給電システム

いま、クルマは100年に一度の大変革の時代と言われ、電動化の他、自動運転や、コネクティッドなど、新たな価値を提供する技術に期待が寄せられています。また、鉄道は少子高齢化の時代に合った大量高速輸送機関として、効率良く運営することが求められています。私達はこれらの実現に寄与する電動モビリティ技術の研究に取り組んでいます。

図4 電動モビリティシステムにおけるパワーフローと蓄電装置の賢い使い方

電気で動くためには電力供給が必須ですが、それをスマートに実現する一つの方法である非接触給電技術の高機能化に関する研究に取り組んでいます(図3)。また、電池に代表される蓄電装置はモビリティの持つ運動エネルギーを有効活用しつつ、供給電力を抑えるのに必須です。高価な蓄電装置を最小限に抑え、最大の効果を生むための蓄電装置の充放電制御法やそれを活用する電力変換回路方式の研究に取り組んでいます(図4)。また、クルマや鉄道車両のエネルギー効率を高め、より小型・軽量で省エネルギーな駆動システムを実現するのに欠かせないモータ制御の高性能化もコア技術の一つとして磨いています。

4.電気で動くモノの未来

鉄道は電気でモノを動かす一つの理想形です。電気は貯められないので、出来立てホヤホヤの新鮮な?電気を光の速さで送ってすぐ使うべきです。しかし、そのためには大規模な電化設備が必要です。これらからの人口減少社会でインフラの維持は今以上に大きな課題です。一方、クルマのように自律的に動くモノは電気をどう送るかが大きな課題です。電池のエネルギーだけで何100kmもの長距離を走るのは必ずしも賢い選択ではありません。現在であれば、エンジンや燃料電池と組み合わせたハイブリッド電気自動車が効果的な手段です。また将来は、クルマも鉄道のように、走りながら電力の供給を受ける時代が来ると言われています。鉄道車両もクルマも、その時代の要素技術によって、“ベストな電気の使い方”が変わります。その選択の幅を広げ、より適切なソリューションを提供できるようにすることが、パワーエレクトロニクス・モータ技術を電動モビリティに応用する研究の目指すところです。

※当記事は「WASEDA ONLINE」からの転載です。

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