地球温暖化に伴う気候変動や環境破壊、経済停滞が引き起こす貧富の圧倒的格差、虚言が蔓延(まんえん)する政界・メディア…。予測不能の未来に対し、人々のうちにディストピア的な想像力が蔓延し始めている気がしてならない。近代主義的価値観を否定する「暗黒啓蒙(けいもう)」の思潮が端的に体現する虚無主義的破壊がそのまま肯定されてしまえば、人類は滅亡すればよいのだ、という極論に行き着く。
いま、思潮は新たな潮目を迎えている。いや、潮目は変わったのかもしれない。「人新世」の問題意識の下、人間中心主義からの脱却が「ポスト・ヒューマニズム」という標語の下に新たな思想的課題だと見なされている。この観点のもたらす最も虚無的な思潮が「暗黒啓蒙」であるとすれば、ディープエコロジーが求める「動物の権利」は、私たちが自然と文化の関係性を見つめ直す肯定的な機会となるのだろうか。
しかし、と私は考え込んでしまう。線引きはどこまで拡張できるのか。肉食をやめたとして、草食ならば良いのか。植物には権利はないのか。「ポスト・ヒューマニズム」の諸思潮は、新型コロナウイルスという微生物による感染拡大をどのように診断するのか。近代主義的価値観が崩壊し、世界は、恐るべきことに、かつての社会ダーウィニズムのような適者生存を肯定する世界に再帰している。さまざまな局面で確認されるこの〈退行〉こそ私たちは考えなければならない。
(TN)
第1067回