私は、学生と一緒に障がい問題に取り組んでいる。今の社会にある障がいに関する議論を深めるのが目的だ。先日、女子学生の一人が最近始まった全盲の人との恋愛を語ってくれた。彼女が「パンケーキを一緒に食べたい」と言ったら、恋人がパンケーキを食べる練習をしているのだという。トッピングやソースをかけ、ナイフとフォークを使う食べ物は見えない人にとっては、きれいに食べるのがかなり難しいとのこと。だから、お店で恥ずかしい思いをしないように事前に練習をしているのだという。会ったこともないけれど、彼女とのデートを前に一生懸命にパンケーキと格闘する彼の姿を想像したら、なんだかとても温かい気持ちになった。「頑張れ」と応援したくなったし、自分から私にその出来事を伝える女子学生も笑顔だった。
そんなエピソードを「学生を巡る最近の私のうれしい話」として同僚に伝えたら、「それはいい話だけど、僕はそれが『心温まる恋愛話』にはならない社会がいいな」と言われた。「そんなことが当たり前に起きている社会になったら、もっといいですよね」とのこと。確かにそうだ。私にも「全盲の人と恋愛する早稲田の女子大生」をどこか特別に見ている視線があった。そして、過度に意味を見出して、勝手に感激していたのかもしれない。パンケーキは「どこにでもある学生たちの恋愛の一コマ」として、そっと応援できるような人でありたいし、そういう社会を想像するのはとても豊かだと思う。
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第1064回