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想像力を介した他者への共感

「災害やテロに対して、文学はいかに力を持つか」というテーマについて、高校2年生の現代文の授業で生徒と共に考える機会に恵まれた。教材に選んだのは、スベトラーナ・アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り 未来の物語』(松本妙子訳、1998年)、村上春樹「かえるくん、東京を救う」(1999年)、絲山秋子「神と増田喜十郎」(2013年)である。

『チェルノブイリの祈り』は、1986年のチェルノブイリ原発事故に遭遇したベラルーシの人々に著者がインタビューを行ったドキュメンタリー文学である。「かえるくん、東京を救う」は、1995年1月の阪神淡路大震災の余波と3月の地下鉄サリン事件の予感の中で、東京に大地震を起こそうとするみみずくんを阻止しようと、片桐という男がかえるくんと連携して想像力の中で戦う姿を描き、「神と増田喜十郎」は東日本大震災後に発表され、戦争や災害に苦しむ人間の前では無力でしかない神が、最後に増田という男にささやかな救いを与えるというファンタジー小説であった。

これらの作品は異なる原発事故、大震災、テロを題材としているが、それらの被害を受けた人々の声に耳を傾け、想像力によって彼らに寄り添おうとする各文学者の立場は通底している。高校生にとっては、東日本大震災を除いて、いずれも生まれる前に起きた災害やテロであるが、それらの余波の中を生きる人々に作品を通じて思いを馳せ、想像力を介して彼らとのつながりを感じようとする姿が見られた。文学の持つ力とは、そのような想像力を介した他者への共感にあると改めて考えされられた。

(T)

第1061回

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