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巧の木材「吉野材」で空き家改修 理工・古谷研、奈良PJ10年目の挑戦

「世界遺産・吉野山の絶景を、建物に顕在化させた憩いの場に」

大学院創造理工学研究科 修士課程 1年 木村 一暁(きむら・かずあき)
大学院創造理工学研究科 修士課程 2年 青木 日向子(あおき・ひなこ)
大学院創造理工学研究科 修士課程 1年 川口 豊夢(かわぐち・とむ)

(左から)木村さん、青木さん、川口さん。古谷研の部屋にはヒノキの吉野材カウンターテーブルが置いてある

室町時代から続く奈良県の人工植林事業。特に吉野材と呼ばれる吉野町のスギとヒノキは緊密な年輪幅による、たわみにくく堅い性質が特徴の木材です。早稲田大学理工学術院の古谷誠章研究室は、この吉野材の幅広い活用を目指した研究を2010年から奈良県と協力しながら継続して行っています。この「奈良プロジェクト」が始まって10年目となる2019年、初めて吉野町に拠点を作って活動を続けることになりました。同プロジェクト学生リーダー・木村一暁さん(大学院創造理工学研究科建築学専攻修士課程1年)を中心とする学生メンバーに、計画をうかがいました。

――奈良プロジェクトとはどのような活動ですか。

木村 奈良県の「奈良の木ブランド課」との連携事業になります。奈良県産の木材、特に吉野材は節がなく、木目が緊密な真っすぐな美しい木材で、木造住宅の和室やインテリア家具などに使われています。研究活動を通じて、この吉野材がより広く使われるように認知度を高め、さらには奈良県の林業振興につなげていくプロジェクトになります。

きめ細やかで真っすぐな吉野材の美しい木目

――吉野町に活動拠点を設けるそうですね。

木村 奈良県の協力を得て、吉野町にある使われなくなったしょうゆ店の蔵を提供いただき、その空き家を活用するデザイン提案をすることになりました。地元の自治協議会「上市笑転会」と協力し、観光などで訪れる人には吉野材の良さを知っていただく場所に、地元の方にとっては憩いの場となってちょっとしたイベントができるスペースにしたいと思っています。

改修のデザイン提案をしている蔵の内部

青木 私は昨年まで学生リーダーを担当していましたが、これまでは首都圏の住宅や建築関連のイベントなどを中心に吉野材を使った家具や出展ブースを制作してきました。2017年度は代官山蔦屋書店とのコラボレーションで木質空間の設計を行い、2018年度は日本郵便の商業施設「KITTE丸の内」で行われた奈良県の木材PRイベントで展示ブースを設計しました。吉野町では近畿日本鉄道の吉野神宮駅のベンチ(2012年)を制作したことはありますが、現地での活動拠点となるような施設は、2010年にプロジェクトが始まって以来、今回の企画が初めてです。

(左から)代官山蔦屋書店で行われたイベント「奈良の木∞すこやかな暮らし」(2017年11月)と、KITTE丸の内で行われたイベント「『奈良の木』のあるくらし〜森からの贈り物〜」(2019年1月)の様子

――しょうゆ店の蔵をどのように改修していくのですか。

蔵の外観。右側道路の先に吉野川が流れている

木村 今年の7月と8月に吉野町を訪れて、町民の方々から意見を伺いました。蔵のそばには美しい吉野川が流れ、その借景のように世界遺産にも登録されている吉野山が広がっています。こうした風光明媚(めいび)な景色を誇りにされていたので、これをどう生かしていくかを考えています。また使い勝手を考えると、高齢者の方が多いので、座りやすく、持ち運びがしやすい椅子を作ってほしい、という要望がありました。2回目の訪問となった8月には、模型を6案作ってお見せしました。イベントでも使えるように、スクリーンの設置なども提案しています。

デザイン提案した六つの模型(写真左)。学生たちは熱心に地元の要望に耳を傾けた

川口 吉野町は町民が集まれるような集会場所が山の上にあるため、高齢者が使いにくいんです。蔵は平らな場所にありますので、気軽に訪れる施設になることができると思っています。「シンプルで使いやすい施設に」という意見が多かったですね。

――プロジェクトに感じた魅力を語ってください。

密植された吉野材の人工林を歩く古谷教授

木村 もともと、木造建築の空間と居心地に興味があって、木材研究と深い関わりを持つ古谷研究室に入りました。吉野町に行って実際に植林や製材所を訪問し、森林に生えている「木」が「木材」に変わっていくまでの過程を見学しました。そこで感じたのが地元の吉野材に対する熱意でした。密植(みっしょく)・多間伐と呼ばれる植林方法で、木を極端に密植した上で、弱い間伐を多数繰り返します。すると年輪幅が緊密となり、縦に切ると木目が真っすぐで、根元から上部の先端まで太さが一定の吉野材に育つんです。こうした「こだわり」に協力できることが魅力です。

川口 吉野材は地域にとって必要不可欠な存在です。地元の子供たちにもっと親しまれてほしいですし、蔵を多くの人が交流できる空間にすることができたら、デザインを提案する私たち学生にとって、学びの上でも身になることだと言えます。木が持つ温かいぬくもりを生かし、吉野町のぬくもりも感じられる木質空間にしていきたいです。

青木 吉野材は他県のスギ・ヒノキと比べると同じ太さになるまで時間がかかります。他県では30~40年かけて木を育てますが、吉野材は80年かかります。手間をかけて作っているんです。これまでは首都圏のイベントでPR活動をしていましたが、材料の調達などで県職員の方や地元工務店の方との調整を通じてせっかく顔見知りになったのに、なかなか一緒に物作りをする機会がありませんでした。着工は来年2月から3月を予定しています。地元の方々と協力しながら、皆さんの熱意に応えられる蔵に仕上げたいですね。

――それぞれの展望を語ってください。

木村 高校生のとき、神奈川県逗子市の伝統木材を使用した資料館を訪れ、外の景観が大きな窓で切り取られて、美しさを顕在化させる木造建築の力に感心しました。吉野町でも風景の美しさを顕在化させた空間を作りたいと思っています。将来も設計に関わって、景観の良さを引き出せるような建築家になりたいと思っています。

春は桜も美しい吉野山(共同通信)

川口 吉野材については別のプロダクト計画もあり、電車のつり革のつり輪部分に使用できないかと考えています。頻繁に手に触れるものに使われることで、吉野材の魅力を伝えたいんです。また、私も木造住宅が好きで「日々の暮らしをよくする設計」に関心があります。デザイン性のある楽しむための空間というよりも、生きていくための生活に関わる空間です。それが何か、建築を学んでいく中で模索していきます。

青木 2019年度で大学院を修了する予定で、木造住宅の内装や設計をする会社に就職が内定しています。空き家の改修やイベント出展など、古谷研究室ではいろいろなプロジェクトに関わらせていただいたので、その経験を仕事に生かしていきたいですね。

第744回

2019年8月に行われた意見交換会

【プロフィール】
木村一暁:兵庫県生まれ、神奈川県育ち。逗子開成高等学校卒業。
青木日向子:神奈川県出身。鎌倉女学院高等学校卒業。
川口豊夢:東京都出身。東京都市大学付属高等学校卒業。
古谷研究室の奈良プロジェクトに関わる学生は約30名で、イタリアや中国からの留学生も在籍している。留学生は吉野町の人工林が垂直に伸びていく風景に感嘆していたという。学生同士、蔵について積極的にデザインを提案し、議論を重ねている。着工後はメンバーが交代で現地を訪れて、改修していく予定。

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