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大学生の読書と図書館

教育・総合科学学術院 教授 雪嶋 宏一(ゆきしま・こういち)

早稲田大学第一文学部卒業、早稲田大学図書館司書を経て教育・総合科学学術院准教授、2013年度から現職、専門は図書館情報学、西洋書誌学、書物史。著作には『雪嶋宏一書誌選集』(2013年)、『アルド・マヌーツィオとルネサンス文芸復興』(2014年)等がある。

 

 

大学生の不読率(1か月に1冊も本を読まない人の比率)が40%を超えたというニュースにショックを受けたのは5年ほど前であった。その時、担当するクラスの学生たちにこのニュースをどう思うか聞いたところ、実際には比率はもっと高いでしょうという答えがあり、さらに驚いた。その後、ゼミの学生に同様な質問をしたところ、学生側の事情が垣間見えてきた。その学生は中学までは結構本を読んでいたが、高校受験の勉強とともに本を読むことにうしろめたさを覚えるようになり、高校に進学するとさらに大学受験勉強にとって読書は禁止行為のように思えて全く本を読まなかった。毎週公立図書館に行って受験勉強をしていたが、その図書館の図書を全く利用しなかった。そのため、大学生になって何を読んでいいのかわからなかったという。

公立図書館の利用者統計によれば、中高生の利用率は全世代で最低である。その要因の一つが、学校図書館を利用するので公立図書館を利用する必要がないことである。しかしながら、その世代が公立図書館に望んでいることの一つは図書館で勉強がしたいということであるが、図書館側の対応は鈍い。日本の多くの公立図書館で問題となっていたのが、一般成人が図書館で閲覧しようとすると席を受験生に独占されて座る場所がないということであった。そのため、図書館によっては「受験勉強お断り」というところが多い。最近でこそ閲覧席とは別に自習席を設置する図書館が登場している。

全国学校図書館協議会の読書統計では小学生の不読率は著しく低下しているが、中学生、高校生になるにしたがって不読率が高くなっている。中高生が図書を利用しなくなっていることは事実である。そのため、子どもの読書から大人の読書へ移行する準備が全くできていない。この世代が成長して大学生になるのであるから、大学生の不読率が上昇することは自然の成り行きである。同時に、インターネットの発達によって図書館で辞書や百科事典、参考図書を利用して調べ物をする必要性が益々減少しており、図書館へ行く理由がさらに少なくなっている。最近ニューヨーク公共図書館のドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス』が話題になった。図書館の将来の役割を議論してサービスを積極的に変えていったことが記録されている。

英国図書館の公共スペースに設置された勉強机。誰でも自由に利用できる

在外研究で滞在している英国の図書館事情を調べてみると、公共図書館の利用者の減少が顕著で、公共図書館数も減っている。その原因はインターネットの影響が大きいと思われるが、図書館予算の削減も無視できない問題である。一方、大学・研究図書館の利用者は毎年わずかであるが増加している。英国の大学生もレポートやゼミの発表等で日常的に図書館を利用している。学年末試験があった5月にはどこの図書館も学生たちで混み合っていた。彼らは友人たちと肩を並べてパソコンに向かい合って一生懸命に勉強していた。一番驚いたのは英国図書館(The British Library)に押しかける若者である。英国図書館は研究図書館であるため、研究者しか閲覧室を利用できない。学部学生はまったく利用できない。しかし、図書館側はパブリックなスペースである2階のカフェの周辺に多数の学習机を設置して、閲覧室も図書館資料を利用できない若者に勉強のための席を設けているのである。彼らはコーヒーを飲みながら、Free Wi-Fiを利用して朝から晩まで友人たちと話し合いながらワイワイ勉強している。このような騒がしい光景は英国の大学図書館でもあまり見かけない。ましてや、日本のどこの図書館でもお目にかかれない。また、英国図書館は金曜日の閉館後に有料でイベントを開催している。英国図書館を利用できない親子連れや子どもたち向けのイベントを開催したり、日ごろ図書館を利用しないような若者向けにバーカウンタを設置してDJがダンスミュージックをかけたりして、図書館を身近に感じてもらおうとしている。

金曜日の夕方、英国図書館のホールにDJが登場して、音楽をガンガンかけていた

個人の読書のために静寂ばかりが求められてきた図書館であるが、最近日本でも図書館の役割の見直しが始まっている。公立図書館が税金で賄われているのであれば、個人的な読書の場だけでなくコミュニティーに役立つようなイベントが開催できる場としての図書館が求められている。例えば、地域の問題を気楽に話し合える空間、市民が今知りたいことを仲間で学べる場所、多様な形態の資料が利用できる機会、最新の電子情報の提供、ベビーカーを押して利用できるスペース、勤め帰りに気軽に立ち寄れる居酒屋のような雰囲気の図書館等である。大学図書館も同様に学生の利用をただ待つばかりでなく、学生を図書館に呼び込む魅力的な企画を開発したり、キャンパスに出て学生たちに語り掛ける機会を設けたり、新入生のための読書案内を授業と連携して行ったり、学生時代に読むべき古典を積極的に紹介したり、資料の読み方を教えたりすることも必要であろう。

社会に出て必要となる広い知識と深い思考力を育成するためにも学生時代の幅広い読書は極めて重要である。そして社会人となれば知識と思考力をさらにブラッシュアップしなければ社会の変化についていけない。そのような訓練の場として図書館が求められるようになろう。そのためにも図書館は時代の大きな変化に応じてその役割を見直していかなければならない。

※当記事は「WASEDA ONLINE」からの転載です。

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