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「働き方改革」元年に向けて

商学学術院 教授 小倉 一哉(おぐら・かずや)

1993年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得。1993-2011年労働政策研究・研修機構にて調査研究に従事。2004年博士(商学)。2011年より早稲田大学に勤務。主な著書に『「正社員」の研究』(日本経済新聞出版社、2013年)など。専門は労働経済論。

 

新元号「令和」の発表とともに、「働き方改革」が始まった。働き方改革をめぐる新たな労働法制は、労働時間に関するものと、均等待遇に関するものの2本柱である。ここでは労働時間に関する新たな法規制の概要を紹介し、その課題や対策などについて述べたい。

表に示したように、働き方改革のうち、労働時間に関するものは主に8点ある。

①の時間外労働の上限規制は、労基法上初めてのことで、その意味では画期的なものだ。しかし、休日労働を含めると年960時間までの時間外労働が可能となることから、今後の動向も注目される。また、厚生労働省「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」によると、全体の1割くらいの事業所が年720時間を超えた時間外労働の労使協定を締結している。働き方改革法案が成立した2018年6月以降、違法となる労使協定を見直している企業も少なくないと思われるが、中小企業などでは2019年4月以降も違法状態になっている可能性が残る。

②勤務間インターバルとは、1日の終業後、翌日の出社までの間に、一定の休息時間(インターバル)を設けるものだ。現在は努力義務となっているが、5年後には義務化される可能性が高い。11時間などのインターバルを設けることができれば、労働者の健康確保に有効だろう。

③の年次有給休暇の5日取得義務とは、年10日以上の付与日数がある場合の措置だが、正社員のほとんど、またパートや契約社員でも、年10日以上ある場合は対象となる。労働政策研究・研修機構の調査などで見ると、正社員の少なくとも3割くらいは、年5日未満の取得となっている。つまり、これらの労働者を雇用している企業は新たな規制では違法となる。すでに年4日程度取得しているのなら、さほど問題ではないだろうが、年次有給休暇をまったく取らない労働者の場合、いきなり年5日以上にするのは難しいかもしれない。

④については、これまで25%となっていた中小企業での割増賃金率を、大企業と同じ50%にするものである。残業割増率を高めることで、残業を抑制するねらいがある。

⑤は、管理職等の全従業員を対象とした労働時間の客観的把握であり、ICカードなどを活用した管理が推奨される。現状把握のための第一歩といえる。

⑥は、これまで1ヶ月以内に精算する必要のあったフレックスタイムを、3ヶ月を単位とすることで、より柔軟な労働時間の設定が可能となる。例えば、6月に所定労働時間を超えた分を、8月に振り替えて、8月の労働時間を所定労働時間より短くすることができる。企業の割増賃金の支払にもその分、柔軟性が出る。

⑦は、高収入の専門職を対象とした制度である。年収1075万円以上、金融商品の開発、アナリスト、コンサルタントなどの高度専門職であること、希望者のみ、労使委員会で5分の4以上の賛成などの対象や手続きが厳格化されているほか、年104日以上かつ4週4日以上の休日確保やその他の健康確保措置が義務づけられた。現状、対象者は少ないと想定されるが、時間外労働などの規制はなくなるため、今後の動向に注意する必要がある。

⑧では、事業者から産業医へ長時間労働の状況等の情報を提供することが義務づけられた。

「働き方改革」を、労働時間を減らし休日や休暇を増やすだけの問題だと思う人もいるが、筆者は、労働時間短縮と生産性向上のための具体的な働き方の見直し、と捉えている。つまり、残業を減らすだけではなく、業務全体を見直して、より効率的な働き方を進めることが最も重要だ。

具体的な対策はいくつもあるが、ほぼ全ての企業に共通することを指摘したい。第一に、現状把握だ。誰が、どのような業務を、どのように、いつ行っているかを、部署ごとに把握する。そのために、日・週単位等での各従業員の業務フローを記録し、従業員相互に参照できる状態にする。

現状把握をしたら、次にすべきことは、ムダの見える化である。新人が要領を得ずに必要以上に時間をかけていることが、先輩や上司にはわかる。また、特定の人に業務が偏っていることも判明する。

現状把握と業務のムダがわかれば、それらの改善が必要だ。多くの企業に共通して有効なことは、参加者・内容・回数・時間の長さともに必要以上の会議の合理化、凝りすぎたプレゼン資料など中間的作業の簡素化、ICTを活用した出退勤管理や業務報告などがある。これらの改善は、いずれも労働時間短縮と生産性向上の双方に貢献する。

最後に、経営トップ、中間管理職、一般従業員のすべての階層で問題意識を共有する重要性も指摘しておきたい。末端の従業員から問題を指摘してもらい、管理職はそれを真摯に受け止め、経営者は人件費削減のためではないことをアピールする。筆者の調査では、これを実践している企業で、本気の「働き方改革」が進んでおり、人材確保にも有効なことがわかっている。

※当記事は「WASEDA ONLINE」からの転載です。

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