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孤独の芸術 アートディレクター三潴ゆかり「その戦い、サポートします」

自問自答と試行錯誤した大学時代が今の自分を形成した

ユカリアート代表・ディレクター 三潴 ゆかり(みつま・ゆかり)

現代美術家のマネジメントや展覧会企画などを手掛けるユカリアートのディレクター・三潴ゆかりさん。だが、早稲田大学在学中はアートとは異なる商学部に籍を置き、テレビやコマーシャルに出演するなど、今の姿とは全く違う学生時代を過ごしていた。そんな三潴さんがアートの世界へと羽ばたくきっかけになった「早稲田で見つけたこと」とは何だろうか?

芸能界での活動で感じた迷いを吹き飛ばしてくれた、早稲田での学び

三潴さんは中学生の頃、人生に大きな影響を及ぼす二人の人物に“出会って”いた。一人は写真家の篠山紀信氏だ。

「父が美術の仕事をしていたので、小さな頃から芸術的なものには知らぬ間に囲まれていましたが、それが芸術ということを意識せずに過ごしていました。そんな私でも『これはすごい』と思ったのが、女優・宮沢りえさんの写真集『SantaFe』(1991年、朝日出版社)でした。それまで漫然と抱いていたヌードの認識を一変させる、まるでミロのヴィーナスのような健康的な美しさに衝撃を受け、これを撮った篠山紀信という人はすごい人だ!と私の中で電流が流れたのを覚えています」

そしてもう一人。Jリーグ初代チェアマン、川淵三郎氏(1961年第二商学部卒、早稲田大学特命教授)の存在を知ったことがその後の進路を決定付けた。

「1993年のJリーグ開幕はとても印象的な出来事でした。『スポーツといえば野球』というこれまでの世の中が一変するんだ! という驚きとともに、中心にいた川淵チェアマンの話が魅力的で面白いと感じたことを覚えています。その川淵さんが早稲田の商学部出身と知り、私も同じ場所で学んでみたいと思い、第一志望に決めました」

表紙を飾った『週刊朝日』

商学部を目指して受験勉強に励んでいた三潴さん。ある日、気分転換で手にした週刊誌の表紙には、偶然にも篠山氏が撮影した写真が使われていた。

「家にあった『週刊朝日』(朝日新聞出版)の表紙が篠山さん撮影の“女子大生シリーズ”だったんです。モデルの大学生は一般公募だと知り、『早稲田に受かったら、あの篠山紀信に会える!』と思いました。そして高校卒業後すぐにオーディションを受け、約4,000人の応募者の中から幸運にも選んでいただけたんです」

撮影時に篠山紀信氏と

念願かなって1年生の夏には『週刊朝日』の表紙を飾った三潴さん。さらに篠山氏の紹介で芸能事務所に所属すると、すぐに朝の情報番組へのテレビ出演も果たしてしまう。だが、このことで「迷子になってしまった」と当時を振り返った。

「私は女子アナやアイドルを目指していたわけではないので、いつも笑顔で仕事をすればするほど“本当の自分”との乖離(かいり)を感じました。仕事はやりがいがあったので一生懸命やりつつ、自分で自分を模索する日々でした」

中目黒にあるショーウインドーだけのギャラリーにて。作品は吉田朗作「犬張り子 ピンクカモフラージュ」

そんな三潴さんの迷いを吹き飛ばしたのは、早稲田大学での社会学の授業だった。

「社会学は、そもそも当たり前と考えられている人と社会の関わりといったことを探求する学問ですよね。これまでの常識を壊してゼロから考え直す作業が、閉塞(へいそく)感を感じていた当時の自分にはとても新鮮で引き込まれたんです。そこからは勉強に力が入りました。私、スイッチが入ると頑張っちゃうタイプで、他の授業にも真面目に取り組んで、第二外国語で選択した中国語も、上海に短期留学するほどのめり込みました」

2000年3月、卒業式で

そして卒業を控え、進路に迷っていた頃、この中国語が意外な選択肢を提示することになった。

「1997年の香港返還をきっかけに、父がアジアのアーティストを紹介する展覧会を何度か開催していました。そこで、中国語の通訳として手伝うことになったのですが、その現場が本当に楽しくって…。芸能人のような仕事をしていたときは、周囲の大人の方たちの意見をもとに、時に着せ替え人形に徹しなければいけないことがあり、心の中で違和感を感じることもありました。でも、父の仕事の現場では自分のままでいることができ、みんなで一つの作品を作る感覚が楽しくて、『見つけた!』と確信。それが、アートの仕事をしようと思ったきっかけでした」

横並びになりやすい日本人に「こんな生き方もありますよ」とお知らせしたい

アートの世界で生きると決意した三潴さん。ならば、マーケットの本場を知らなければと、早稲田を卒業後にまず米国・ニューヨークへ。その後、英国・ロンドンでアートの勉強に励み、本場の芸術に触れる数年間を過ごした後、日本に帰国してyukari-art,inc(現・ユカリアート)を創業。公認会計士になった早稲田の友人に助言をもらいつつ、自力で会社を設立した。

現在、美術作品の売買、画廊の運営や展覧会の企画、そしてアーティストのマネジメント業務という3つを軸に活動しているが、中でも力を注いでいるのが同世代のアーティストのマネジメントだ。

左:2011年、香港のAHAF(アジアホテルアートフェア)に出展した際、お客さまに作品について解説(中央奥が三潴さん)
右:イギリス留学時代。2003年、パリで開催されたFIAC(アートフェア)に出品したお父さまを手伝った

「最初は幅広い年齢のアーティストの作品を扱っていましたが、同世代のものが一番自分に合うと気付くようになりました。それは、アーティストと近い関係を築くことができるから。また、彼らの作家としての成長や人生そのものを見ることができるからです。でも、若手のアーティストは価値が定まっていないため作品の価格やギャランティーが低い。だからこそ、マネジメントが必要だと気付きました」

写真左:マネジメントをしているアーティストの作品。左から「一本の道」2018年・大畑伸太郎作、「八重」2017年・いしかわかずはる作、「赤アジサイ」2011年・淀川テクニック作

こう考えるに至った背景には、芸能界での活動も大きく影響しているという。

「大学時代に自分自身が『商品』として表舞台に立つ経験をしましたが、自分を売りにするのはとても大変で、私には向いていませんでした。だからこそ、アーティストの大変さがよく分かります。好きでやっているとはいえ、孤独な戦いをしている彼らを、可能な限り親身になってサポートしてあげたいと思いました。不思議なんですけど、自分を売り込むのは下手なのに、人のことを売り込むのは得意なんです(笑)」

アーティストを支える三潴さんが、今後テーマにしていきたいこととは?

「以前は、アーティストは“破天荒”であるべきといったイメージがありましたが、私が共に仕事をしているのは、結婚して子どもを持ち、親としてアーティストとして四苦八苦しながらも好きな仕事を続けている人ばかり。都会から地方へ転居した人もいて、それぞれが個性豊かで面白い暮らし方をしています。だからアーティストの作品や活動を紹介するだけでなく、画一的になりやすい日本でも『こんな生き方がありますよ』と、生き様そのものを知っていただけたらと考えています」

三潴さん自身、現在はオーストラリアに住みながら、会社は東京という生活を送っている。そんなライフスタイルの根幹には、早稲田での経験が大きく影響しているという。

「大学時代に自問自答と試行錯誤の日々を過ごしました。その全部が今につながり、今の自分を形成する土台ができました。私はどこでも仕事ができるし、どこに住んでも平気です。こうして自分の中に軸を持って生きることができているのは大学時代に悩んで、一度ゼロになった経験があったからだと思うんです。本当に貴重な4年間でしたね」

そんな三潴さんだからこそ、学生にも「悩むことの意義」を伝えたいと続けてくれた。

「大人になればなるほど、役割がどんどん増えていきます。仕事を持ち、結婚したり親になったり…自分に向き合う時間は減っていきます。本当に自分に向き合えるのって大学の4年間が最後かもしれません。だから、その4年間を使って悩んで悩んでたくさん考えて、自分自身はどんな人間で、どんな風に生きていきたいのか考えてみてください」

ストリートアートを眺めながらメルボルンの街を散歩

取材・文=オグマナオト(2002年、第二文学部卒)
撮影=石垣星児

【プロフィール】

東京都出身。早稲田大学商学部を卒業後、米国・ニューヨークと英国・ロンドンに留学。「Sotheby’s Institute of Art」で美術史を学ぶ一方、海外の実践的なアートの現場を経験。帰国後2005年にユカリアートの前身「yukari-art,inc」を設立。展覧会企画や画廊の運営、国内外のアートフェアへの出展など精力的に活動。現在はアーティストのマネジメントを主軸にしつつ、家族とオーストラリアに住みながら、世界の顧客を相手にアートディレクターとして活躍中。

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